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まだ始まらない物語り

勇者パーティーから脱走犯が出たらしい の前日譚

作者: 燈あかり灯
掲載日:2026/02/09




名をリーンシアと言う。時の賢者から名付けられた所為で、弓の才能以外は殆ど、味噌っ滓にも程がある酷いものだった。唯一、料理は出来たがそれだけ。

得意の水魔法も専ら、狩りで仕留めた獲物の血抜きや、料理に使う分の量を一瞬で出す為のものになっていた。


「へ?私。って、マジか。」

「頼む。行ってくれるか?無理はしないで欲しい。」

「おじさんが言うなら行っても良いよ……。しゃーないし。」


ある日、王族のアルマージ殿下とやらが出迎えに来たかと思ったら、なんと、神託によって私も勇者パーティーの一人として選ばれてしまったらしい。


謁見の間で交わされた王と私との会話のフランクさに、人払いされたにも関わらず、謎に集まっていた数人から絶句の表情と共に睨まれたけれど。

ま、私にとっては、権力とかどうでも良いものなんで。頭を雑に掻きながら、一先ず、了承した。


しかし、長旅になるのなら、髪染めの材料が必要になる。もう一層の事、魔塔へのヘリポートならぬ転移装置があってくれたら楽なのだが。


そう思っていたら、お仲間の中に魔導士を見つけて、顔見知りだったのもあって定期的に魔塔にお邪魔する切符を手に入れた。よし、これで後は……。


「あ?こっち見んなよブス。」

「おーそう来るのね。りょーかい。」


うん、勇者がこれなら、あんまし気にせずに過ごしても良さそうだな。魅了の力を抑えてくれるブレスレットを毎朝、毎晩、調整しつつ、決して顔が見えない様に前髪を伸ばし、その下に目元が隠れる黒い布地を巻いておく。


それを装備した姿を出立する前に見たからなのか、見た目が、フワァ〜ォな効果音が付いて来る黒レースの仮面を何故か王から郵送で送り付けられて来た。

思わず、投げ捨てたら、誰かの足元に当たりーーって、勇者かよ。よりにもよっての相手に天を仰ぐ。


「は?お前、こんなの趣味なのかよ。」

「いや違うからおじさんからのプレゼントで困ってたしそれあげるよ。」

「ハァ?おじさんって援交でもしてんの?キモ。趣味エグいな。只でさえブスで終わってんのに……。」


うん、まあ。これだけ嫌われるのに一役買ってくれたのなら、感謝はしとこうかな、王に。後日、あのマスクをゴミとして燃やそうと探したのだが見当たらなかった。ま、いっか。


しかし、ここで事件が起こってしまう。


「あ〜ん。わたくし、もう付いていけませんわ!!」

「ドレスなら行商を呼んでやるから。」

「それなら、それまで貴方方で進めば宜しいのですわ!わたくしはここに居ますから。」


宥めすかそうとした眼帯を付けた傭兵のロッドが説得しようとするも、失敗していた。


ばちばちにいつも淑女コーデで決めている聖巫女が、侍女の一人が戦闘とは関係無い街中でゴロツキに襲われ、傷心で帰ってしまい、私は私で雑用仲間が減ってSAN値がピンチだし、聖巫女は聖巫女でバフ役を途中で投げ出してしまった。


それでも先に進もうとした矢先に、なんと、魔導士のドジで落ちた落とし穴の先が火竜の巣窟だった。


誰よりも躊躇する事なく、魔塔への魔力代を片道分も担ってくれる切符も失う訳には行かないと飛び込んだのは私だが、何故か、後から追い付いてきた勇者に怒鳴られた。


「テメェ!!雑魚の癖に調子に乗って先陣切るんじゃねぇ!!」


ーーあ?既に三分の二は、貴方達が来るより先に私一人で狩ったんですけど?


しかも、生態系を壊さない為に無傷で。


そんな事も知らないでギャンギャン叫ぶ勇者に、ブチ切れそうになった私を、平謝りしながらも魔導士が止めた。


「本当に申し訳ないっ。だが、今ここであの男を処理したら貴女が勇者として帰る羽目になりますので。」

「それは()だな。」

「でしょう?!」

「おいっ!二人で何コソコソと話してんだよ!!雑魚でも手伝え!」


……駄目なんだよね?目線で問い掛けると、魔導士は、無言で首が取れそうな勢いで何度も頷いていた。仕方ない。勇者と言う旗頭は必要だし子守だと思って、目を閉じよう。これまでもそうしていた様に。


「クロウ!!後ろだ、っ避けろ!!」

「チッ、ーー」


ゴソゴソとポケットの中を漁ると、指先に当たった、小指の先ほどの丸い玉を割った。


頭の中に思い浮かべた通りに、勇者の近くに出たーーこの転移玉、緊急回避に使われるんだが、使い勝手の良い分、値段が凄まじく高くて距離も半径一キロが限界。だが、私は高価な材料も買えるし、自作出来る上に十キロ圏内は余裕だった。魔塔は空の上なので転移玉では行けないけどーー私は、勇者にブレスを放とうとしていた竜の鼻面を、心の中で「ごめん侵入者はこっちなのに」と謝りつつ蹴りで吹き飛ばした。


だが、それだけでなく、ブレスの回避としては間に合わなかったとしても、咄嗟に対応しようとした勇者の剣先が迫っていたので素早く回避した。

まあ。ザックリと髪の毛が切れてしまったが。はぁ、斜めに切れたみたいだし、後で整えるか。


その日の夜、宿の個室で備品のチェックをしていた私は、ノックの音がして、鍵を開けた。


「お前、確認もせずに。不用心過ぎないか。」

「……話があるなら早くして。長話なら入っても良いけど。」


気配を隠してもいない相手を読むのなんて、私にとっては朝飯前だった。

しかし、まだブレスレットの調整をしていないのに、迂闊だったのは確かかもしれない。


正直、本来であれば、一週間に一度の点検でも構わない。でも、過去にそれで不備があった。


なので、その件以来、過敏になっている私自身を安心させる為の、最早、儀式めいたものにはなっているのだが。


「中に入れて貰えるか。」


何だ?いつになく紳士的で気味が悪い。


「どうぞ。」


とは言え、素直にドアの前から退いて寝台に腰掛けるしか無いのだが。


何故なら、宿屋に丁寧な客間セットなんて無いからだ。

一応、この宿のランクとしてはあって当たり前の机と付属の椅子ならあるので、椅子を私の目の前まで引いて来ると勇者はそこに座った。


妙にジロジロと見られると思ったら、格好の所為か。


昼間は、胸を潰して着けている胸当てやら装備で女っ気は一つも見当たらないが、今は、シンプルとは言え女物のブラウスに、私好みの足元が緩やかなスカートに見えるスラックスを履いていた。


見た目が女らしい程に、周囲を魅了してしまう危険も高まるので、その効果の引き下げの為に、緊急時にこの姿のまま外へ出る事を恐れて、備えとして身に付けた片耳の魅了封じのピアスを着けていた。

だが、それが逆に、女性たる見た目を見せるのに一役買っている辺りは気にしない事にしていた。


それに、目元を覆う布も取っているし。ああ、それが一番不味いか?いや、でも、長話らしいとは言え、別に話すだけなら構わないか。


足を組み、その上に手を置いた私は、窓から差す月光で、自身が神秘的な雰囲気を醸し出しており、更には、それに勇者が一人の男として、見惚れている事にも気付いていなかった。


「で、話は?」

「待て。お前、いつもの黒いやつは。」

「寝る時にまで着けないだけ。話が無いなら出て行ってくれるかな。」

「いや、あるが。」


なら、さっさと話してくれれば良いのに。そして、彼の話はとても単純だった。


「力があるのに、何故隠しているんだ?」


これである。と言うか、待てよ。この男。もしかしてだが、あの話を聞いていないのだろうか。


「な、何だよ?」


じっと見つめてしまったが、聞いていなさそうだな。と、独り言ちる。


「知らないだろうから名乗っておくけれど、私の本名は、ロロフィエル・ラドュ・エニス・メランテーラ。王位継承保持者兼人類と異界の境界の観測者兼王家の守護者兼現勇者にして影武者の勇者を本物にしようと企てる王の計らいに嬉々として乗っかる君の協力者だよ。勇者君。」


悠に、十秒は待った気がする。たっぷりと齎された沈黙の後、汗をダラダラと流し始めた勇者の、いや、未来の本物の勇者となる一人の青年の憔悴振りには、若干の憐れみを覚えた。


因みにだが、火竜を蹴り飛ばす程度の筋力なら、弓使いとしては当たり前に無くてはならないものだ。

普段、境界を維持する為に使う弓は、今、使用しているものよりも、より負荷の高いものが多い。だからと言って、他の職業や専門職と比べたら筋力も技術も劣るのだ。


「…………は?」

「ま、そう言う訳だから。死にそうになっても大丈夫。何があっても、私が君を勇者にしてあげるから。」

「待てよ。お前、姫様って事か?」

「あー、そう言えば今の王に娘は居なかったし、私の母親が王の従姉妹に当たるからまあ姫と言われれば否定せざるを得ないよね。何なら、聖巫女は男だから次期法皇には今の制度ではなれないし、このメンバーでは一番地位的に高いのが私だね。ぷっ、ふふ。そう言えば、っくく、紅一点がこんなんで悪かったね、ブスはブスなりに職務全うに励むからさ。」


さて、夜更かしは、聖巫女の言葉を借りればお肌の大敵。私が言うなら、魅了体質がうっかりと溢れかねない体調不良、その予防にもなる。


因みに、この時、勇者の背中を押す私が、笑いながら肩を揺らしていたのもあって、王族由来の顔が髪の間から見えてしまっているとは自覚が無かった。

ドアを潜る前、此方を振り返り、零れ落ちんばかりに目を見開いた男の胸中になど微塵足りとも興味も無く、口を開く。


「じゃぁね。お休み、勇者様。」


狂化した魔王を斃すまでにも、一悶着どころではない騒動が何件かあったのだが、私的なワースト三位と言ったらアレだ。


魔導士と一緒に神隠しに遭って、魔塔に帰っちゃえば良いんじゃん?と気付くまで半日彷徨いながら、ハプニングに見舞われてラッキースケベを魔導士相手にやりそうになって血の気が引いたあの瞬間だ。


素肌同士で触れたが最後、呪いと同等の堅固な牢獄にも似た精神異常が相手の心を蝕み、窶れていくと共に私へと崇拝心と情愛をその減らされた部分に刷り込まれ、刻まれる。

何も知らなかった頃に生まれ持ったそれの所為で、どんな立場のどんな地位のどんな優秀な者であろうとも私を襲った為に、最終的に数え切れない程の家庭を壊し犠牲者を出した私に、身寄りと呼べるものは少なかった。


今頃は、凱旋パーティーにでも出ているのであろう、嘗て仲間だった面々を思い出しながら、確実に私の犠牲者になってしまったのであろうと推測している、本物の勇者となった男にーー魔王を殺したその日の夜に告白をされた事を思い出して、胸が軋む音を立てた。


「私は二度と、誰かを愛したりしない。」

「それは僕もですか?」


境界の観測者としての制服でもある、丈の短い黒いドレスを身に付けた私の肩に停まった、蝙蝠の姿をした魔王の声にウンザリする。


空になったカップをソーサーに戻し、むんずと蝙蝠を掴んだ。放り投げた。

だが、器用な事に、くるりと回転すると羽ばたいて戻って来た。


狂化した魔王を斃した。それは確かだが、あの程度で魔王が死ぬ事は有り得なかった。

だからと言って、狂化が解けさえすれば、元から敵ではなかった、寧ろ、賢君として担がれていた姿を取り戻した彼を虐げようとする者は現れないだろう。


お茶飲み仲間の一人でもあった彼は、同じ性質の持ち主だからなのか、それとも、私とは違って自由に自身の持つ魅了の体質を操れるからなのか、私と直に触れ合っても問題の無い相手だった。


王が、幼い従姪を預ける先として選び、又、まさか、魔王だとは知らなかった私が無邪気にも、遊んでくれる相手として慕っていた年上のお兄さんがその尖った耳からして人間でない事は何となく察して知ってはいても。

一度振られた相手に心を寄せるほど、私は簡単な女でも無かった。


「クラーラはどうするワケ?」

「おや。彼女はストーカーなのですよ。でも、知っていたとは、もしかして。」

「おじさんに愚痴溢したのはアンタでしょ。勝手な妄想はやめて。」

「僕のお姫様は今日もツレないですねぇ。」


机の上に上り、しくしくと泣いている魔王は、小さな蝙蝠の姿なので心が痛まなくもない。


だが、昼寝の最中に、窓を破って飛び込んで来て叩き起こされた恨みは忘れられる筈も無く。しっしっ、と手振りで追い払おうとする私に蝙蝠は、キシキシ、と笑う。可愛いのは見た目だけだ。


「さっさと帰って。」

「また昼寝に戻るのでしょう?お供しますよ。」


そう言った途端に、人型の姿になった彼は、何故か、いつもよりも数段若い姿で、何なら、私よりも本の少し小さな背丈の美青年になっていた。大人しく昼寝くらいさせて欲しい。


私の睨みも気にならないのか、さっさと、私のお気に入りの昼寝場所に寝そべった魔王は、ぽんぽん、と空いたスペースを叩く。


「ほら、寝ましょう?」


こちとら、境界に出た巨大な化け物を連日、ぶっ通しで処理して寝不足なのだ。

何よりも寝る時に誰かの気配があると、過去の記憶がぶり返して、碌に休まらない。


過去、勇者パーティーの一行として、頑なに宿の一室を自腹を切って借り、野営の際には必ず率先して見張りに立って、気を紛らわせていた理由もそれだった。


「ふざけんな。」

「ぎゃんっ!」

「あ、ケルベロス。丁度良い所に。これ早く持ち帰って。」


魔王の脳天に拳を叩き込んだ後、私の部屋に訪れた、無口な魔王の秘書官がやって来たので、指差しで頼んだ。

初老の男性の見た目をした秘書官に申し訳無さそうに頭を下げられると、あまり、強く出られないので早く行ってくれとお願いして、手を振って見送った。


それから三ヶ月後に、王の用意した見合いにブチ切れた勇者が魔導士を脅して私の住む古城に乗り込んで来て毎日プロポーズして来る様になったり、聖巫女がとある一件からお姉様と慕う様になっていた所為で勇者の魔の手から助けるべくとか言うふざけた理由でやはり押し掛けて来て居座る様になったり……。


兎にも角にも、静かな日常が遠ざかる未来の事など、今の私には知る由もなかった。



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