ちょっとした工作
「ねぇねぇ、お母さん明日。工作の授業があるんだけど」
「なんで直前に言うの! もう夜でお店閉まってるじゃない」
男の子は母親に怒られていた。
「でもでも、忘れてたんだからしょうがないじゃん」
「開き直られても困るんだけど」
リビングで男の子と母親はテレビを見ていたのだが番組が変わり、『どきどきさんと遊ぶ手作り入門』という工作番組が始まった途端に、男の子が小学校で明日工作の授業があることを思い出して母親に告げた。そうして母親はすっかり困り果ててしまったのである。時間は夜の8時、近隣の店はすべて閉まっていて買い出しに行こうにもどうしようもない。
母親が悩んでいると二階から一階のリビングに姉がおりてきた。
「そんなに声を荒げてどうしたの?」
「太郎が明日、工作の授業があるって言うのもう夜の8時なのに」
「ふーん」と姉は考え込んだ。しばらくして言葉を言った。
「太郎? ものなら何でもいいの?」
「うん。特に決められたものはないよ」
「お母さん、昨日の買い物のとき紙袋あったよね」
姉の言葉に母は頷いた。
「よし」と姉。
姉はその買い物の袋を探してきて机に置いた。買い物袋は四角の箱の形をしていて上がポッカリと正方形の穴がある。机の向かいに太郎と母親を座らせる。
「今から、これを海底のミニチュアにします」
困惑する母。ワクワクする弟。
「こんな袋で何ができるのよ」と母がぼやく。
姉は母をなだめると黒マジックを出してきて袋の内側を塗り始めた。弟は何か言いたそうとしている。姉は弟にサムズアップを送ると再び中を塗った。その後、ハサミを取り出して袋の側面の一面をくり抜いた。姉は袋を逆さまに立てた。そうすると黒く塗りつぶされた壁が三方面に、上の天井一面ができた。姉は切り取った袋の一面を魚の形に切り抜いて青く塗りつぶし、糸にくっつけて箱の天井から吊るした。
「じゃじゃーん。題名、海底!」
弟は歓声を上げた。
母親は困ったようにこう言った。
「アイデアは良いと思うけど、作ったら授業で使えないじゃない」
「あ、やべ」と姉。