不屈の意思
あともう少しなんだ。
旅人は夜の砂漠を彷徨っていた。夜の砂漠は荒涼としている。この砂漠には生物などいない。少しの植物と正体も分からぬ小動物が蠢くだけで彼の食物となるものは存在しない。飲まず食わず40日。旅人は夜の砂漠を彷徨っていた。
彼は砂漠の中心にぽつんとある聖なる神殿に向かわなければならなかった。彼はある部族の指導者の息子だった。これは試練だ。息子である旅人は試されていた。厳しい試練に耐えて耐えて耐え抜いて部族のドグマである聖盤を手に入れなければならなかった。その聖盤は部族のルールを旅人の支族のみが知る言語で書かれたものだ。
「絶対に聖盤を手に入れてやる」
旅人は決意を発した。彼の口は乾きに乾いており。舌がくっついて呂律が回らない。極度の空腹で今にも気を失いそうだ。しかし旅人は諦めない。なぜなら信じていたから。その聖盤が私達の部族を救うことを。彼は意志の力で自分の酷使された体を動かしていた。
しかし3日後、彼は限界を迎えた。砂の床に埋もれた旅人は口に砂が入り、不快なジャリジャリとした感覚を覚えた。自分の死を悟った旅人は自分の不甲斐なさを呪った。
どうして! どうして! 自分はこんなにも情けないんだろうか。いや違う。これは風習が悪いんだ。何十日も飲まず食わずで生きていけるわけがない。
彼は自暴自棄になった。そんな彼の脳裏に一瞬、とある風景が横切る。彼の父親の強いリーダーシップで隣の部族との戦争に勝利したイメージだ。自分も父親のようになりたい。彼はゆっくりと体を起こした。砂の床は柔らかくバランスを崩してしまう。右手を砂面に立てる。右手が沈む。左足を曲げて姿勢を保とうとする。砂が流れて右足が埋まる。
そんなようなことを繰り返してなんとか直立することができた。そのとき頭を突かれた。旅人は不思議に思い、あたりを見回すと自分の頭のすぐ横に鳥が飛んでいた。翼を上下しながら宙に浮かんでいる。よく見ると鳥の足は木のバケツを掴んでいた。バケツの中は水で溢れていた。
「オマエ、セイジャ。セイジャ。ケレルゾクヲシタガエルルモノ。ユケッユケッ」
鳥は間抜けな声調で喋り、旅人へバケツを渡した。旅人は貪るように水を飲んだ。喉仏が上下する。幾ばくかして旅人は飲み干し、息を吐いた。顔を上げると目の前に聖殿がそびえていた。彼はそこがゴールであることを悟った。
彼は確かな足取りで聖殿へと進んだ。