暗殺者の契
彼にとってあまりにもリスキーな選択だった。
ここはオフィスビルの一室。と言っても人がいる訳では無い。廃ビル。一言で言い表すとそういうことになる。机などここには無い。壁も剥がれていてコンクリートがところどころに露出している。
窓から通りを見た。パレードだった。この国の新しい大統領が高級な車に乗って辺りを走っている。道路の両側にファンが密集している。その熱気は彼にも強く届いていた。
彼はカバンを床に置いて中を開けた。狙撃銃が中に収容されていた。
彼は缶コーヒーを呷った。カフェインは彼の頭脳を回転させる。
任務。そう任務だ。成し遂げなくてはならない。この大統領は我々の敵なのだ。彼を殺せば私は無事では済まない。しかし、共同体のためには犠牲が必要なのだ。そう、私のように。
彼は狙撃銃を構えた。大統領の頭に照準を合わせた。気の毒な大統領よ。永遠の眠りにつけと考え、引き金を引こうとした瞬間、邪魔者が現れた。照準には護衛の頭が映っていた。
暗殺者は舌打ちした。部屋に小さくぽつんとした音が生じた後、暗殺者は冷や汗をかいた。護衛が晶山嵐越しに暗殺者である自分を睨んでいたのだ。
気づかれている。そう悟った暗殺者はすぐに場を変えようと狙撃銃を下ろした。その刹那、窓ガラスを貫通して甲高い音を響かせた物が暗殺者の額を掠めた。頭の薄皮が切れた。
狙撃された。場所が割れている。すぐに別働隊が詰めてくるに違いない。慌てて狙撃銃をしまい、痕跡を消す。部屋から出る際に爆弾を仕掛けた。ドアを開ければ起爆する。
暗殺者はビルを出た。ほんの僅かな後で機動隊がそのビルに押し入るのを視界の片隅で捉えた。ホッと息を撫で下ろすと暗殺者は大統領のパレードを見た。
暗殺は失敗してはいない別のポイントで狙うだけだ。恐怖を頭から振り払い、今度はホテルの一室に向かった。有志がホテルの一室を既に抑えている。狙撃ポイントとして前のものよりも数段劣るが仕方ない。
暗殺者はロビーで友人が借りている部屋に案内して欲しいと言った。あっさりと部屋に通された。従業員が去ったのを見届けると合言葉を言って中に入った。
部屋には2人、有志がいた。
「なんだオメエ失敗したのか。腕が良いじゃないのか?」
「なぁにすぐに取り返すさ」
2人と軽口を叩き合いながら手際よく狙撃の準備を進める。
窓を開け、狙撃銃をセットして大統領を狙った。引き金を引く。大統領は頭に鉛玉を受けて崩れ落ちた。
有志が口笛を鳴らした。
その瞬間、暗殺者は狙撃され、死んだ。




