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短編集  作者: きよひこ
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一瞬の輝き

ステージ4です。


井原みちえは弟のがんの病期について医師から話を受けた。母裕子がそれを聞いて膝から崩れ落ちてすすり泣きをしている。父明夫は母の肩をにそっと手をかけた。


初老の医師は淡々と告げた。みちえの弟、井原結城はもう先が長くない。がんが至る所の臓器に転移していて助かる見込みはないとのこと。弟は14歳の少年だった。若くがんになるリスクは少ないものの若いほどがんの成長も早く、リスクの少なさゆえに見過ごされやすい。


病院の一室には結城はいない。彼には告げない。残りの余生を満足に生きるために不要な情報はシャットアウトするのだ。


医者は三人の帰り際、「治療は苦痛を軽減するものにとどめます。弟さんには退院を許可します。どこかに旅行にでも行って、思い出を作られてはいかがですか」と言った。


みちえ等、3人は弟の病室で様子を伺った。弟は調子は悪そうであるけどもいつもと変わらない様子だった。医者の言葉によると余命1ヶ月までは病状は苛烈なものでは無いらしい。


「お見舞い? どうしたの?」


「そうだよ」


みちえは振り絞って元気に振る舞おうとした。少し無理があったかもしれない。結城は少し不思議がった。その後少しやや上を向いて逡巡した後、結城は言葉を発した。


「あっ。お姉ちゃん、分かった。1ヶ月も入院して学校を休んでいたから羨ましんでしょ」


みちえは顔を下に向けてフッと悲しそうに微笑んだ。この笑みは結城には見えなかった。直後、みちえは歯をむき出しにして言った。


「そんなわけ無いでしょ。逆、逆。休んだら学校の勉強についていけなくなるかもしれないのに。大変そうと心配してあげてるのよ」


結城は肩をすくめた。


「お姉ちゃんに教えてもらうもん」


「バカ」


「退院になったから結城の好きなものでも食べに行きましょうか」


母、裕子の言葉に結城はこう返した。


「お腹減ってない。それどころか空腹にならないんだよね。外食しに行くよりも夏だし海に行きたいな」


結城の言葉に父、明夫は元気よく行こうと答えた。


井原家の家から車で20分のところに海水浴場がある。明夫と結城は裕子とみちえとは別の更衣室で着替えた。明夫だけに結城を任せるのは不安だったがみちえは急いで合流できるように手早く着替えた。更衣室の中は湿度が高く、汗がダラダラと出る。今年一番の高い気温らしい。ほのかに漂ってくる磯の香りはここが生命溢れる海だということを声高に主張していた。


「あら、みちえ。着替えるのいつもよりすごい早いね」


「うん。結城が心配だから。何かあったときに駆けつけられるようにね」


「そう」


更衣室を飛び出したみちえは明夫と結城を探した。


結城と明夫は着替えを難なく終えたようで海の家で二人は焼きそばを食べていた。


「あ! ずるい」


「半分、分けてあげようか?」


結城は笑ってプラスチックの容器の蓋に焼きそばを取り分けた。みちえは礼を言う。そして考えた。なぜ心優しい弟がこんな救いようのない運命を背負いこまなければならなかったのだろう。


「どうしたの? ボーっとして」


「なんでもないよ」


裕子が三人と合流して昼食を食べた。一番最初に食べ終わったのは結城だ。少ししか食べなかった。結城はみちえに浅瀬の散歩に誘った。裕子は快諾してゴツゴツとした岩が散乱している浅瀬に行った。


浅瀬には数々の色鮮やかなヒトデ、ウミウシ、ベニボヤなどの生き物がたくさんいた。加えて海の爽快なまでの青。


弟がヒトデを捕まえて姉のみちえに見せつけてきた。弟の結城は透き通るほど肌が白い。病的なまでの白さは儚ささえ想起させる。彼のなけなしの生命力が映し出す存在はすぐにでも消えさってしまいそうだ。


結城の白さが存在感溢れる海とその生き物たちと調和した瞬間、みちえは弟はこれから自然に還っていくのだと感じた。手に取ったカメラで結城を写した。


このイメージが永遠に残りますように。



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