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4 魔王軍

 魔物の軍勢、すなわち緋魔の民の軍勢は、我々に比べて装備は不十分で、各地の部族の軍勢が(ろく)に連携もせず各個に動いている状況だった。


 そして、魔王、すなわち緋魔の民の国の王は、我々討伐軍が兵站の関係で魔王城周辺まで進軍せず引き上げることをいいことに、魔王城周辺を警固して自分の一族を守るだけで、緋魔の民全体を守ろうという動きは見せなかった。


 しかし、ある日を境に、複数の部族を束ねる軍勢が現れ、我々討伐軍が敗走することが急増した。


 今までと違う統制の取れた組織的な反攻。我々は、いつしかその反攻を担う軍勢を「魔王軍」と呼ぶようになっていた。



 † † †



 私が初めてその魔王軍と対峙したのは、私の初陣と同じ場所だった。


 魔王軍は、我々と遜色ない装備で、練度も高かった。黒地に金色の刺繍が施された美しい旗が印象的だった。


 私は陣形を整えた後、すぐに攻撃はせず、様子を見ることにした。すると、魔王軍の中から、1騎の騎兵がこちらに向かって来るのが見えた。


 その黒い豪華な甲冑に見覚えのあった私は、周りの制止も聞かず、単騎でその騎兵のもとへ向かった。


「やはり貴方(あなた)でしたか。最近むやみに略奪を行わない珍しい部隊がいると聞いて、どのような指揮官か一度見てみようと思いましてね」


 両軍が睨み合う中間地点。黒い甲冑の凛々しい若者が馬上から笑顔で私に話し掛けてきた。緋魔の民は我々と異なる言語を使っていたが、彼は我々の言葉を流暢に話していた。


「お前はあの時の……」


 私は思わず呟いた。彼は、私が初陣で殺せなかったあの少年だった。立派な若者に成長していた。


「そうです。あの時、この場所で貴方に命を助けてもらいました。感謝申し上げます」


 若者は、両軍の陣営から見えないよう、小さく会釈した。


「私は、とある小さな部族の族長の息子でしたが、武勲を重ね、ようやく次期国王、貴方達のいう魔王の座を狙う地位に立つことができました……」


「……私は更に武勲を立てて魔王となり、貴方に救ってもらった命を()して、必ずこの悲惨な戦いに終止符を打ちます」


 若者は静かに言った。その赤い瞳には、揺るぎない決意が感じられた。


 私は、若者の赤く美しい瞳を見つめながら言った。


「俺とお前は敵同士。だが、思いは同じだ。俺の全てを懸けて、この馬鹿らしい戦いを終わらせてやる」


 私はそれだけ言うと、自軍へ戻って行った。魔王軍は、我々としばらく睨み合いを続けた後、撤退していった。一分の隙も見せない、見事な部隊運用だった。



 † † †



 魔王軍を率いる黒い甲冑の若者は、いつしか「魔将軍」と呼ばれるようになり、討伐軍から恐れられる存在となっていった。


 魔王軍は、徐々に討伐軍を圧倒し、討伐軍を王国の国境近くまで押し戻した。しかし、魔王軍は、決して王国の領内には侵入しなかった。


 大貴族達は、「魔物どもは王国の威光に畏れをなしているのだ」などと言っていたが、魔王軍の動きを見た私は、魔将軍が相互不可侵を求めていることを察した。


 ほどなくして、魔将軍が魔王に即位し、魔王軍の増強を図っているとの噂が流れた。


 同じ頃、30歳になった私は、最年少の近衛師団長に抜擢された。大貴族以外で初めての就任だった。


 魔物討伐軍は、数多くの領主を配下に持つ大貴族達の連合軍であり、大貴族達が共同して部隊を運用していた。


 しかし、魔王軍の登場以降、負け戦が続いたこともあり、王命により全体の総指揮を近衛師団長が執ることとされた。


 私は、近衛師団の参謀長となった賢者とともに、この機を逃すまいと、王都で様々な工作を進めた。


 大貴族達や王宮の上層部には、新魔王や魔王軍の出方を慎重に探るべきなどと様々な理由を説明し、魔物討伐軍の出陣を何度も延期した。


 また、王国内の大商人達と密かに接触した。


 大商人達は、魔王の国の珍しい農作物を大貴族から買い付けていたが、その値段の高さに不満を持っていた。そして、大商人の多くは、魔物が緋魔の民という人間であることを知っていた。


 そこで、実際に緋魔の民と取引した際の価格等を踏まえながら、討伐軍に参加した大貴族から高い値段で買うよりも、直接魔王の国と安定的に交易を行った方が利益になる旨を説いて回った。


 そして、大商人達から王宮に、討伐軍の中止と、商人による魔物の国への渡航許可の拡大を働きかけるよう誘導した。


 これらの工作が功を奏し、王宮上層部は、討伐軍の中止を王へ奏上する方向に傾きつつあった。


 私は賢者と喜びあった。これで、この馬鹿げた戦いを終わらせられる。そう信じていた。


 しかし、そうはならなかった。我々の工作をぶち壊す予想外の事態が起きた。


 それは、突然の「神託」だった。

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