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3 賢者との出会い

「どうして私がこんな話を切り出したのか、隊長は戸惑ってますね? 理由は簡単です。実は、私の母は()()なんですよ」


 火の手の上がる緋魔の民の村を見つめながら、参謀役が話し始めた。


「父の領地は国境地帯なんで、緋魔の民と多少の交流がありましたからね。正妻との間に男子が生まれなかった父が、私の母に手を出したんです」


 参謀役の瞳に、緋魔の民の村を焼く炎が映り込んだ。まるで、その瞳が怒りの炎で燃え上がっているようだった。


「生まれた子どもは双子でした。弟は目が赤かったそうです。私はこのとおり、目の色も髪の色も赤くない。私は人間の子、父の嫡男として育てられることになり、弟は恐ろしい魔物の子だとして母共々殺されたそうです。一体何の違いがあるんですかね……」


 私は何も言えなかった。


 参謀役が私の顔を見た。ヘラヘラとした軽薄そうな表情のまま、参謀役は口元を歪め、話を続けた。


「……そして、父と正妻の間に男子が生まれると、私は『邪魔な嫡男』となりました。だからこうして戦場に送られ、父は私が戦死するのを心待にしているという訳です。まあ、意地でもくたばりませんがね」


 参謀役が真剣な表情になった。美しさが際立つその顔で私の目を見つめ、静かに言った。


「隊長はこの馬鹿げた『魔物退治』を憎み、何とかしたいと考えているのでしょう? もし、私でよければお手伝いしますよ?」


「……俺はお前ほど強い動機がある訳じゃない。単純に、こんなことは許されないと思っているだけだ。その程度だが、いいのか?」


 私の問いに、参謀役は元のヘラヘラ顔に戻って笑った。


「ははは。確かにその程度なのかもしれませんが、それで命を張れるなんて、普通の人には出来ませんよ。隊長の日頃の行いを見れば、本気だって分かります」


 参謀役が手を差し出した。私は、参謀役の手を取り、力強く握り返した。



 † † †



 その日から、参謀役は私の「仲間」として、様々な手助けをしてくれた。武功は立てつつ、結果的に緋魔の民の命が救われる策を練り、次々と実現した。


 参謀役は、おそろしいほど頭が良かった。その頭脳明晰ぶりに、しばらくすると参謀役は周りから「賢者」と呼ばれるようになっていた。


 私も、彼のことを畏敬の念を込めて「賢者」と呼ぶようになった。彼は「こんな薄っぺらい人間が『賢者』な訳ないでしょ」と嫌がっていたが。


 村の略奪に際しても、私や賢者が積極的に参加しているように見せかけつつ、少しでも多くの緋魔の民を助けようと奔走した。


 そして、初陣から10年。26歳になった私は、武功を重ね、いつしか討伐軍の複数の部隊を束ねる長となっていた。大貴族以外では最年少での抜擢だった。賢者は私の副官となり、引き続き私の補佐をしてくれることになった。


 私は、立場が変わっても常に先頭に立って戦った。賢者に止められるかと思ったが、賢者は「止めても先陣を切っちゃうでしょ? お供しますよ」と笑いながら許してくれた。共に最前線で戦ってくれた。


 私と賢者は、前線で戦いながら、密かにこの戦いに疑問を持つ仲間を少しずつ増やしていった。


 私の部隊は、戦闘は最小限に留めるとともに、色々理由をつけて略奪自体を回避するようになった。どうしても物資が必要なときは、相当な対価を支払い、緋魔の民とこっそり取引をした。


 従軍する大貴族からは不満の声が上がったが、賢者がのらりくらりと上手く説明し、何とか言いくるめていた。


 そんなある日、討伐軍の間である噂が流れ始めた。魔物の軍勢の中におそろしく強い部隊が現れたという噂だった。

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