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10 戦いの後

「どういうことだ?!」


 魔王がそう叫ぶと私に斬り込んできた。私が剣で受けながら叫ぶ。


「それじゃ緋魔の民は納得しない! いずれ、新たな争いが起きる!」


「では、どうしろと言うのだ! 勇者よ!」


 魔王の叫びとともに落ち下ろされた斬撃を何とか受け流し、私は叫んだ。


「相討ちするしかないんだよ! 魔王! 俺たちの命と引き換えに、この馬鹿げた戦いを終わらせるんだよ!!」


 魔王が再び距離を置いた。肩で息をしながら私に言った。


「……そうか、もう一度あの伝説を作るということか」


「そうだ。流石だな、魔王」


 魔王から笑みがこぼれた。私も笑い返す。


 ふと、少し離れた場所で私を見守る賢者と目が合った。賢者はすでに泣いていた。


「後を頼むぞ、賢者! 俺達の夢を叶えてくれ!!」


 私は剣を水平に構え直した。魔王も同じく剣を水平に構える。


 私と魔王は同時に走り出した。あの初陣の時と同じように叫び声を上げながら。


 しかし、あの時とは異なり、魔王の赤い瞳には死の恐怖への怯えはなかった。穏やかな、希望に満ちた瞳だった。


 私の剣が魔王の甲冑を突き破り、魔王の胸を貫いた。


 同時に、魔王の剣が私の胸を貫いた。


 激しい痛みと、若干の後悔。そして、後は賢者が上手くやってくれるだろうという圧倒的な安心感の中、私はゆっくりと地面に倒れ込んだ。


 霞む視界の中、賢者が泣きながら走って来るのが見えた。私は、最後の力を振り絞り、にっこり微笑んだ。


 不意に、心地よい疲れ混じりの浮遊感が全身を包んだ。私は、その心地よさに身を委ね、ゆっくりと目を閉じた。



 † † †



「勇者様と魔王は、それぞれの役目を果たした。次は私達が役目を果たす番だ」


 勇者と魔王が相討ちで倒れ、両軍が静まり返る中、賢者は静かに魔王の副官に言った。


 それを聞いた魔王の副官が涙を拭いながら頷いた。


「分かっている。我が兄の死を無駄にはせん」


 両軍双方の参謀が賢者と魔王の副官のもとに集まって来た。


 賢者と魔王の副官は、勇者と魔王の戦いは相討ちであったことを両陣営に伝えた。


「勇者様は、伝説と同じく、自らの命と引き換えに魔王を討ち果たし、この地を魔王の支配から解放したのだ……我々は、勇者様の遺志を継ぎ、この魔物、いや、緋魔の民の国を平和に導くのだ!」


「我が兄、王は、自らの命と引き換えに、元々勝ち目のなかったこの戦いを引き分けにしてくれた……王の死を無駄にするわけにはいかない。講和を結び、我が国を平和に導くのだ!」


 賢者と魔王の副官は、それぞれの陣営を説得し、勇者と魔王の代理として休戦の講和を結んだ。


 勇者と魔王の亡骸は、その決戦の地で丁重に埋葬された。


 その後、賢者と魔王の副官の粘り強い交渉、説得が功を奏し、緋魔の民の国は王国に併合されるものの、魔王の妹であった副官が大貴族に叙せられ、緋魔の民の土地を領地とすることになった。


 王国の大貴族の中には、緋魔の民の国を王国の大貴族達に分割すべきと主張する者もいたが、緋魔の民の国と国境を接する強国の介入を牽制する必要があったこと、また、緋魔の民の国を分割することは、緋魔の民の解放、安寧を希求した「勇者の遺志」に反するという賢者やその仲間達の主張に賛同する意見が多かったことが幸いした。


 それからしばらくして、賢者と魔王の妹は結ばれた。戦後処理に共に奔走する中、少しずつお互いを愛し合うようになっていたのだ。貴族では珍しい恋愛結婚だった。


 2人は融和の象徴となり、二人三脚で緋魔の民の領地を良く統治した。



 † † †



 永い年月が経ち、勇者と魔王の戦いは伝説となった。


 勇者と魔王がお互いの命を引き換えに、勇者の国と魔王の国の双方の民に平和を(もたら)したという伝説だ。


 勇者と魔王は、最後の決戦の地に今も眠っている。美しい草花に囲まれ、人々の平和を慈しむように静かに眠っている。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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