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⑧ 予想外な出世 エドガー視点

 沙汰が下ったのは、翌日のことだった。

 俺は手枷をつけられ、分隊長と一緒に馬車に乗って王城へと連行された。


 処刑なら留置所で済ませられる。

 わざわざこんなことをするということは、実験動物コースなのかもしれない、と内心溜息をついた。


 王城に着くと牢に直行かと思っていたのに、連れて行かれたのはなんと謁見の間だった。

 王族や宰相や騎士団長や、高位貴族らしい文官やら騎士やらが大勢集まっていて、皆が俺に興味津々な視線を向けてきた。


 なんだこれ……


「直答を許す。おまえは獣人なのか」


 跪いた俺に、国王陛下が直々に声をかけてきた。


「はい。熊の獣人です」


 俺はもうやけくそな気分で、そう答えた。


「ふむ。報告は受けたが、自分の目で確認しなければとても信じられない。

 ここで熊に変身してみよ」


「承知いたしました。

 ただ、暴れるようなことはしないと誓いますので、この手枷を外す許可をくださいませんか。

 このまま変身したら、手首が千切れてしまいます」


「それは痛そうだな。いいだろう、外してやれ」


 騎士団長が一瞬渋い顔をしたが、国王陛下に逆らえるわけもなく、俺の隣で跪いていた分隊長に頷いた。

 分隊長は俺の手枷をはずし、俺から少し距離をとった。


 俺は一つ深呼吸をしてから、熊に変身した。

 

 集まっていた人々は驚愕の声を上げ、俺は服がビリビリに破れてしまったことをもったいないとぼんやり思っていた。

 見まわしてみると、意外なことに恐怖とか嫌悪の表情をうかべている顔はないことに気がついた。

 皆そろって驚いているだけのようだ。


「これはすごい!本当に人が熊になった!」


 国王陛下の斜め後ろくらいに立っていた第二王子殿下が、瞳を輝かせながら駆け寄ってきた。


「殿下!不用意に近づいては危険です!」


 俺に触ろうと手を伸ばした殿下を、慌てて追いかけてきた護衛騎士が後ろに引いた。


「大丈夫だ、中身は人のままだと聞いている」


「ですが」


「優秀な騎士だというではないか。

 それに、あえて人前で変身したのも、暴走した馬から臣民を守るためだったそうだ。

 そんなものが私に危害を加えるわけがない」


『もちろんです。こんな姿でも、私は騎士ですから』


「おお!喋れるのか!なんと面白い!」


 第二王子殿下は護衛騎士を振り払い、恐れる様子もなく俺をペタペタと触った。

 

「案外硬い毛なんだな。手も見せてくれ」


 言われた通りに右手を差し出すと、殿下は肉球やら爪やらをしげしげと観察した。

 それから、成り行きを見守っている分隊長にぱっと目を向けた。


「そこのおまえ。これの上官か?」


「は、はい。警邏隊分隊長をしております、ブロムバリと申します」


「おまえから見て、これはどんな部下だ?」


「腕が立つだけでなく、真面目で勤勉な男です。

 信頼できる部下の一人です」


「そうかそうか。それはいい」


 第二王子殿下は、とても嬉しそうに笑った。


「父上!私はこれを護衛騎士にします!」


 高らかにそう宣言され、俺は仰天した。

 だが、階の上の玉座に座った国王陛下も、その周りの王族と高位貴族たちも、誰も驚いた顔はしていなかった。

 むしろ、『やっぱりこうなったか』くらいの顔だった。


「おまえ!名はなんという?」


『エドガー・ノルリアンと申します』


「おまえの主として命ずる!今すぐ子をつくれ!相手は私が選ぶ!」


 思いがけない展開に、俺は困惑した。

 

「獣人と人間の間にできた子の半数は獣人になるそうだな。

 とりあえず三人くらい女を用意するから、速やかに孕ませろ!」


『お、お待ちください!それはできません!』


 俺は不敬だと知りながらも慌てて遮った。


『獣人は、生涯に一人だけ伴侶を定めます。

 その相手以外とは、子ができるような行為をすることができません』


「なに?しかたない、それでは一人だけで我慢するか。

 孕みやすそうな女を選んで」


「レンナルト!いい加減にしないか!」


 厳しい叱責の声。

 声の主は、国王陛下だ。


 陛下が手を振ると、王族と宰相と騎士団長以外は謁見の間をぞろぞろと出て行った。

 

「すまないな、ノルリアン。

 レンナルトは頭はいいのだが、珍しいものに目がなくて、たまに暴走してしまうのだ」


 レンナルトというのは、第二王子殿下の名だ。


 というか、俺、国王陛下に謝られたのか……?


「獣人も私たちと同じ人であることに変わりはない。

 種馬のように扱うなど、あってはならないことだ」


 第二王子殿下ははっとして、気まずそうな顔で俺に「すまなかった」と小さな声で謝った。

 また王族に謝られてしまった……


「して、ノルリアンよ。

 私たちは、其方を王族の誰かの護衛騎士にとりたてようと思っている」


 俺は目を見張った。

 俺を護衛騎士にするなど、てっきり第二王子殿下の独断だと思ったのに、そうでもなかったのか。


『私は平民で、孤児です。王族の護衛騎士など、とても務まりません』


「騎士に必要なのは身分ではなく、能力だ。

 其方は暴走する馬を一撃で仕留めたそうだな。

 そのとっさの判断力も、評価に値すると考えている」


 国王陛下の言葉に、騎士団長が大きく頷いた。

 どうやら同じ意見らしい。


「どうだ?受けてくれるか?」


 国王陛下にそんなことを言われて、断れるわけがない。


『ありがたく、お受けいたします』


 俺は熊の姿のまま首を垂れた。


「その上でだな。

 強制はしないが、早めに子をつくってほしい。

 我が国に獣人を増やしたいのだ」


 ああ、そういうことか。

 獣人の騎士が増えたら、軍としての戦力も上がるのは間違いないからな。

 処刑でも、実験動物でもなく、そのパターンなのか。


「まだ独身だそうだな。

 伴侶がいないのなら、私たちが目ぼしい候補者を見繕うこともできるが、どうだろうか」

  

 俺はちらりと分隊長を見た。

 分隊長は冷や汗だらけになっていた。


『……まだ同意は得てはいないのですが、私の伴侶はもう決まっています』


 分隊長の視線が俺に突き刺さっているのを感じた。


「そうなのか。

 仮にもし同意が得られなかったとしたら、新たな伴侶を選ぶことができるのか?」


『いえ、その場合は、私は死ぬことになります。

 獣人は伴侶を失ったり、引き離されたりすると、心が耐えられず死んでしまうのです。

 私の父も、母が亡くなってから二か月もたたずに亡くなりました』


 これには、俺以外の全員が渋い顔をした。

 獣人は人間より優れている面もあるが、こんな厄介なところもあるのだ。

 

「なら、頑張って口説いてくれ。

 もしも相手の娘が断るようだったら、最後の手段で王命を下すことになるが、できればそんなことは避けたい。

 そして、できるだけ早く子を生んでくれると嬉しい。

 もちろん、子に関しては命令ではなくお願いだ。

 もし子ができなかったとしても、罰するようなことはないから、そこは安心していい」


 なんというか、俺がまず口説かれている感じになっているのは気のせいだろうか。 


『……承知いたしました』


 俺は再び首を垂れた。


 その後、第二王子殿下にきっちり謝られ、改めて護衛騎士になってほしいと言われたので、了承することにした。

 ここまで俺を望んでくれるのなら、応えようかと思ったのだ。


「ありがとう!これからよろしくな!」


 第二王子殿下は嬉しそうに俺の手を掴んでぶんぶん振った。

 鋭い爪が生えた俺の手に、なんの躊躇いもなくこんなことができるのは、それだけ大物だという証拠なのかもしれない。

 

 早速、王族の護衛騎士の制服が支給され、それを着て一度王城を辞することになった。


「エドガー……おまえの伴侶って、もしかしなくてもソフィアだよな?」


「その通りです。分隊長、ソフィア嬢に結婚を申し込む許可をくださいませんか」


「前にも言っただろう。おまえになら、ソフィアを任せられると」


 分隊長は、俺の背中をバンッと叩いた。


「ソフィアをよろしく頼むぞ」


次が最終話です

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