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ダンジョン暮らしの転生少女~ゆるっとダンジョンで暮らしながらガチ攻略します~  作者: 十一屋 翠
第5章 野良パーティ編

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第91話 野良パーティの実力(思わぬ幸運)

 タクさん達と野良パーティを組んだ私は、7層で魔物狩りをしていた。


「すまん、一匹抜けた! カイト頼む!」


「無理! 誰か頼む!」


 前衛のタクさんの横を抜けた魔物が、後衛であるミカさん達を狙って駆ける。

けれど既にカイトさんは別の魔物の相手をしていて、援護に回る事が出来ない。


「ちょっ!? 来てる来てる!!」


「私が行きます!」


 慌てるミカさん達の前に私が入り、魔物を迎え撃つ。


「ゴルォォォォ!」


 向かってくるのは大きな牛の魔物グリーンブル。

 全身緑の牛の魔物だ。


「『強切り』!」


私はグリーンブルの前足をスキルで思いっきり切り飛ばす。

 当然バランスを崩したグリーンブルはそのままの勢いで石の床にスライディングしてゆく。うーん、痛そう。


「ゴルォォォォォ!」


「ほいとどめの『強切り』っ!」


 起き上がれないままでいるグリーンブルの頭部を真っ二つにすると、ようやくグリーンブルは動かなくなった。


「助かった。ナイスフォロー」


 その声に振り返ると、タクさん達も魔物を倒したらしく戦闘は終了していた。


「野良でこれだけ安定して前衛を任せられるのはありがたい」


「そうね、私達も助かるわ」


「うんうん、カツ君と違って背が低いから奥の魔物を狙いやすいのも良いよね」


 と、飛び入りで参加した私を労ってくれるタクさん達。

 ただしアカネさんのそれは褒めてないよね。

 カツ君ってのは今日はお休みのカツジさんって人の事かな?


「確かに前衛の背が低いのは私達後衛にはありがたいわよね。飛び上がったりしないかぎり、仲間に当たる心配が無いもの」


 待って待ってミカさんまでそれを言いますか? 我背が低いのではないぞ。皆に比べて若いからぞ? ご理解していらっしゃる?


「皆その辺で……でもまぁ、連携の取れていない飛び入りが居ると、仲間の攻撃で怪我をする必要があるから、アユミちゃんも仲間の位置や動きには注意するクセを付けた方が良いよ」


 と、カイトさんがフォローを入れてくれる。

 むむむ、この人からはスレイオさんと同じフォロー屋の匂いがする。

 やっぱり役割が近いと似た様な正確になるのかなぁ。


「分かりました。これからは気を付けます」


「ああ、それがいい」


「おっ、次が来たぞ」


 とそんな会話をしつつも、私達は魔物を狩り続けた。

 カイトさんから言われたように周囲を気にしながら戦ってみると、成る程確かにミカさん達はタクさん達に当たらない様に後方で移動しながら魔法を使っている。


 タクさんもあまり前に出過ぎないように位置関係を気にしつつ、攻撃する時は横にいるカイトさんに当てない様に気を使っている事が分かった。


「これが分かるのも『観察』スキルのお陰だなぁ」


 観察スキル様々である。

 ちなみに私の役割だが、前衛寄りの遊撃となっていた。

つまり好きに動けという事である。

 

 一応剣も魔法も使えて前衛も後衛もいけるからという配置だけど、本音を言えば実力が不透明な人間にガッチリ連携に関わる役目を任せるのは怖かったんだろうね。

 まあそう言う意味では私も助かるし、みんなの連携を見る勉強にもなるしね。


「タクさん回復します、一旦下がって!」


「アユミちゃん、タクの代わりに前お願い!」


「はい!」


「すまん、任せた!」


 回復するタクさんと入れ替わりで前衛に出ると、カイトさんと一緒に魔物達を引き付けつつ迎撃する。


「『パリィ』!」


 魔物の攻撃をパリィスキルで受け流し、脚を狙って動きを阻害する。

 その際別の魔物がこちらに狙いを定めるけれど、それをカイトさんが絶妙のタイミングで邪魔をして注意を自分に向ける。


「ていっ!」


 私はカイトさんに注意が向いた魔物に切りかかり傷を負わせて更にこちらに注意を向ける。

 何度も注意を変えさせられた事で、魔物は上手く狙いをつけられなくて攻撃がブレブレになる。


「『ファイアバーン』!」


 そこに後方で呪文を唱えていたミカさんから魔法が放たれる。


「グモォォォォォ!」


 私達に意識を散らされていた魔物は、ミカさんからの不意打ちをモロに喰らい、燃え上がり、戦いは終わりを迎えた。


 ◆


「いやー、今回は助かったぜ」


 魔物狩りを終えた私達は、地上へと戻って来た。

 既に日は落ちかけていて、空は茜色に染まっている。


「アユミちゃんのお陰で本当に助かったわ。剣も魔法もどっちもバランスよく使えるなんて凄すぎよ!」


「いや、便利だろうとは思っていたが、スキルってのは本当に凄いな。速く俺達も妖精に会いたいもんだ」


 と、カイトさんがしみじみスキルの有用性について語る。

 す、すいません、妖精云々は嘘なんですよ。

 

「スキルだけじゃないわ。リューリちゃんとクンタマちゃんも頑張ってくれたわよね!」


「ふっふーん! でしょでしょ!」


「キュイ!」


 アカネさんはリューリとクンタマを撫でながら二人を褒める。

 実際、リューリは戦闘中に天井近くまで上がって魔物の増援の接近を伝えたり、魔法で魔物達を幻惑するなどして援護してくれていた。

 クンタマはその見た目に似合わぬ攻撃力と素早さで魔物から後衛の二人を護衛してくれていたのだ。


「倒した魔物の素材は全員で山分け、端数はそっちで持って行ってくれ」


「え? 良いんですか?」


 寧ろ飛び入りで参加させてもらったこっちが遠慮するべきなんじゃ?


「そっちの妖精たちの分と思ってくれ。それに戦い以外でも世話になったからな」


「そうそう、行き帰りに余計な移動を挟まずに一気に入り口まで戻ってこれるなんて、探索者としてはありがたいにも程があるんだもの」


 なるほど、転移代も込みってことなんだね。


「本当に助かった。また縁があったら一緒に冒険しようぜ」


「はい、こちらこそお願いします」


 やったね、これで探索者の知り合いが増えたよ!


「そうだ、アユミちゃん、連絡先を交換しない? あっ、Dホンある?」


「はい、ありますよ」


「やった! はいコレ私の連絡先ね」


 メアドの交換かぁ、んー、確かに連絡が取れたほうが色々便利かも。

 探索者でないと分かんない事ってあるだろうし、アートさんに何でもかんでも頼むのも負担が大きいだろうしねぇ。


「分かりました。えーっと、これどうやって……」


 しまった、操作方法が良く分かんない。

 このDホン、私が生きていた時代の機械と操作方法が違い過ぎるんだよね。


「あっ、やってあげるわ。ここを触って、ここで……はい出来た」


「ありがとうございます!」


 ミカさんがDホンを操作すると、あっという間に連絡先の交換が完了した。


「あっ、私とも交換しましょ!」


「いいですよ」


「んじゃ俺達も頼むわ。今回は助かったし、そっちが困った時は俺達に連絡してくれよな」


 こうして全員と連絡先を好感した私は初めての野良パーティ探索に大成功したのだった。

 ちょっと不安だったけど、やってみれば割と上手くいったんじゃないかな。

 よーし、明日はまた別のパーティに参加するぞー!


◆ミカ◆

「あの! もしかしてメンバーを探していませんか?」


 その言葉に振り反った私は、一瞬だが頭が真っ白になってしまった。


ダンジョン探索の日、仲間のカツジが急病で来れなくなったと聞いて、私達は頭を抱えた。

なにしろダンジョンは命がけで戦う場所だから、メンバーの一人それも前衛が居なくては危険度が跳ね上がるからだ。

とはいえ、無理をして潜って全滅しても元も子もない。

諦めて表層で日銭を稼ぐ程度で諦めようと思った時にその子は現れた。


ダンジョンの妖精、妖精騎士姫、そしてスキルの妖精。

連日探索者達を騒がせたあの妖精のお姫様が、私達の前に現れたのだから。


最初は彼女に憧れた子供の探索者のコスプレかと思った。思いたかった。

けれどその背中には隠しようもない程目立つ羽が生えていたのだ。

更にその髪はキラキラと虹色に輝いていて、とてもじゃないが髪を染めて再現できるような色彩じゃない。


何より、実物は配信動画で見るよりも遥かに可愛くて綺麗で、肌なんてまるで陶磁器の人形と見まがうような白さと色艶だ。

明らかに人間がしていい美しさじゃない。人間ではない別の生き物にしか許されない美しさ。まさに人外の美貌。


創作物でよくある陳腐な凄い美貌の言葉も、現実で見るとそれ以外の表現のしようが見つからない。

妖精の姫と呼ばれるのも納得しかなかった。

 

 驚いたのは美貌だけじゃなかった。

 なんと彼女は私達と野良パーティを組みたいと言ってきたのだ。


 何故? とは思った。でもそれ以上に、受けないといけないとそれ以上に強く心が叫んだ。

 だってそうでしょう。この子は今話題のスキルを授ける妖精のお姫様。

 この事仲良くなっておけば、未だに誰も見つける事が出来ていない妖精に出会えるかもしれないのだから。


 だから私達は二つ返事で申し出を受ける事にした。

 唯一タクだけはこの子の見た目が子供な事を気にしてパーティに咥える事を躊躇っていたけど、私が説得して納得させた。

 いやまぁ、子供好きで優しいのはわるいことじゃないんだけどさぁ、寧ろ高得点なんだけど……いや違う、そうじゃなくて、とにかくこの子は実力もある事は分かってるんだから問題ない訳!


 という訳で私達は野良パーティを組んだ。あわよくばという下心を隠して。

 その直後私達は度肝を抜かれた。

 なんとダンジョンの階層を一瞬で移動したからだ。


 一層から五層で5秒とかからず移動。

 それがどれだけとんでもない事か、分からない探索者はいない。

 探索者にとって、ダンジョンの探索は一層ずつ確実に移動するもの。

 決してゲームみたいなワープポイントなど無い。少なくとも今のところは見つかっていない。


 だからこそ、深い階層を目指すには、入念な準備と行き帰りに必要な食料と回復アイテム、予備の武器などを厳選して持っていくことが重要になる。

 なにしろ重い荷物はそれだけで荷物になるから、目的の階層に近づく程致命的な邪魔になる。


 そんな探索者の命題を、あの子はあっさり解決してしまったのだ。

 正直、これを知ってしまったらますますこの事の繋がりを絶つ事なんて出来ない。


戦闘中も凄かった。

この子の全貌が能力が不明な事もあって、遊撃と言う名目で好きに動いてもらう事にした。

幸い、つい最近にあった魔物の大発生でこの子の実力は分かっている。遊撃でも十分以上に活躍してくれるだろう。

正直言えば私の予想は裏切られた。予想をはるかに超えると言う意味で。


 まずシンプルに強い。

 凄く速い、凄く攻撃力がある、かと思えば小さいのに魔物を足止めする技量もある。

 これだけでももう前衛として満点だ。


 更に噂のスキルを目の前で見る事が出来たのも大きかった。

 魔法と同じ威力の遠隔攻撃を詠唱無しで発動したり、近接戦闘で能力値を上げる援護魔法に相当する能力を一瞬で、しかも自前で発動できる力。

 はっきり言って一人で前衛と後衛の役割を全て担当できている。

 正直私達なんていなくても魔物を全滅できる強さだ。


その戦い振りはまるで神社で神楽を見ているかのような神々しさ。

もしくは能だろうか?

もう、羨ましいとか妬ましいとかいう感情も浮かばない程に心を魅了するその姿に、私達は戦いを忘れないようにするので精いっぱいだった。


唯一危なっかしいのは連携だけだったけれど、カイトのアドバイスを受けた彼女はあっさり私達の連携に適応した。

 正直言って早すぎるレベルで。

 これもスキルの力なのか、それとも彼女本人の資質なのか。

 分かるのは、妖精という種族が物凄い力を持っていると言う事だけだった。


 探索を終えた私達は、いつもならパーティの運営資金に回す余剰額を少し多めに彼女に提供した。

 本当はもっと沢山あげたいけど、あまり露骨に与え過ぎると警戒されてしまうから、自然な額の方が、気前がいいと思って好印象を与えられるだろうとカイトとアカネに言われたからだ。


 がっついてはいけない。まずは自然に、けれど友好的に。

 相手を不快にさせず、また組んでも良いかなと思う程度には気軽に。

 探索者協会から発令された妖精保護法もある。


「そうだ、アユミちゃん、連絡先を交換しない?」


 自然に、友達相手に話すように連絡先の交換を口にする。

 ただし直後に妖精がDホンを持っているのかという致命的な問題に気付いて頭を抱えそうになったけれど、幸いにも彼女はDホンを持っていた。

 妖精も持ってるなんてDホン凄いなぁ。どうやって契約したんだろ?


 ともあれ、私達は無事アユミちゃんと連絡先を交換することに成功した。

 正直これまで手に入れたどのお宝よりも価値のあるモノを手に入れたと思う。

 こうしてアユミちゃんと分かれた私達は、無事今回の探索を終える事が出来た。

 正直ダンジョン風邪にかかったカツジには感謝だわ。

 後で思いっきり自慢してやろっと。

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