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ダンジョン暮らしの転生少女~ゆるっとダンジョンで暮らしながらガチ攻略します~  作者: 十一屋 翠
第4章 妖精生活編

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第84話 華麗なる逃亡(私よく走るなぁ)

 私達は走っていた。

 何故かって? それは追われているからだ。

 誰に? それはね、


「「「「待ってくれぇぇぇ!」」」」


 無数の探索者の群れにだよ!!

 何故そんな事になっているかと言うと、事は数分前に遡る。


 ◆


 エーネシウさんがアートさんにスキルを披露した後で、私はスキルについて他の人達に内緒にしてほしいと頼んだ。


「え? 何でですか!? アレが皆使えるようになったら、ダンジョン探索が今までよりはるかに捗るようになるんですよ!?」


 いや、事はそう簡単じゃないんだよね。

 何しろスキルの取得はエーフェアースでないと出来ない。

でもエーフェアースに行くには転移スキルを使って送り迎えしないといけない。

 で、私以外に異世界に転移できるスキルの持ち主が居るかと言うと、この世界にスキルの持ち主が居ない時点でお察しな訳です。


 そんな状況でスキルの事が広まったらどうなるか。

 そう、唯一転移が出来る私の所に人が殺到してダンジョン攻略どころじゃなくなるのです。

 仲間になったアートさんくらいならともかく、無数の探索者達の面倒まで見きれないよ! なので……


「これは妖精の秘密なんです。だからアートさんも私の仲間になったのなら、秘密は守ってくださいね。なのでアートさんのお友達の精霊達にも内緒ですよ」


「精霊?」


「ほら、アートさんよく虚空に向かって話しかけてるでしょ。精霊を見える人間は限られてますけど、精霊伝手に他の人に情報が知られちゃうでしょ」


「虚空? 精霊? ……あっ!」


 そこまで言われて漸く理解できたのか、アートさんが顔をまっさおにして ガタガタと震えだす。

 いやそこまでビビらんでも。


「そんなに怯えなくても、精霊に内緒にしてもらうだけで良いんですよ」


「ち、違うんです、あれは精霊とかじゃなくて……」


 と、その時だった。ダンジョンの中に空気の振動を感じたのである。


「ん? 何?」


 その振動は次第に大きくなっていき、ドドドドドという重い音になってゆく。

 地震? いや違う、地震なら地面が揺れる筈だ。

 これはそう言うのじゃなくて、どちらかと言えば体育館の中で人が一斉に喋った時や、アイドルのコンサート会場でファンが一斉に叫んだ時のような……

 

「いたぞー!」


 そんな事が聞こえたのは、通路の奥に人の姿が見えた直後だった。


「妖精の子だー!」


「え?」


 妖精? リューリの事?

 何故リューリの事を? と困惑している間にも人の姿は増えてゆく。

 というか凄く沢山いません? ダンジョンの通路が埋まる程に。


「「「「スキルの事教えてくれぇぇえぇぇ!!」」」」


「え、ぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 何故か、彼等はスキルの名を叫びながら猛烈な勢いで向かってきたのだ。


「な、何でスキルの事を!?」


「それどころではありませんよアユミ殿! これは逃げた方が良いのでは!?」


 はっ! 言われてみれば!


「て、撤収―っ!」


 私達は迫って来る人達に背を向けてダンジョンの奥に向かって駆けだした。


「何であの人達スキルの事知ってるのーっ!?」


 もしかしてアートさんの精霊って物凄くお喋りなの!? それともこの世界の人達って精霊と簡単に交流できるの!?


「ごごごごめんなさい! 私の配信の所為ですぅーっ!」


 配信? どういう事!?


「おい、配信とはどういう事だ!?」


 フレイさんが横を駆けるアートさんに詰め寄ると、アートさんが半泣きで答える。


「私ダンジョン配信者なんです! だから今の配信を見ていた人達伝手に今の話が広まっちゃったみたいなんですーっ!」


「配信者!?」


 え? そうだったの!? でも配信機材みたいなのはどこにも見当たらないんだけど!?


「待ってくれー!」


 話している間にも探索者達が迫って来る。

 恐らくエアウォークの魔法を使ってるようで、戦闘の人達は結構早い。


「やばっ、今はそんな事言ってる場合じゃないか『風駆』!」


「ですね『風駆』!」


 私がスキルを発動させると、フレイさんも続く。


「ま、待ってくださいまし!」


「仕方のない奴だな!」


 どうやら『空駆』を習得していなかったらしいエーネシウさんをフレイさんが抱える。

 おお、このシーンだけ見ると王子様がお姫様抱っこしてるシーンみたい!

 同じことを思ったのか、後ろから追ってくる人達の中からも黄色い悲鳴があがる。


「そういえば何でフレイさんは男の人のふりをしてたんですか?」


「い、いえ、別に隠していた訳ではありません。私の装備は先祖代々続く品だったので、私もそれを受け継いでいただけの事」


「単にお金が無いからおさがりを使っていただけですわ」


 ああ、そういう。ボーイッシュな女の子がお兄ちゃんのおさがりの服を着てた所為で男の子に間違われたって感じなのかな。

 大人になって「お前、女の子だったのか!?」って言われるヤツ。

 でもフレイさんの普段の態度が男らしすぎるのも原因だと思うんだ。


「ま、待って! 『風よ 我が身をなんっじ……はひっ』」


 私達について行こうとエアウォークの魔法を唱えようとしたアートさんだったけれど、息が上がって呪文を発動する事が出来ない。


「しゃーない」


「ひゃっ!?」


 私はアートさんを抱えて走る事にする。


「キャッ!? ってなんで荷物みたいにー!」


 いやだって肩に担いだほうが走りやすいし。


「とにかく下に逃げましょう。深い階層に逃げれば未熟な者達は追ってこれませんわ!」


「採用!」


 エーネシウさんの案を採用した私達は、下層へ降りる階段に向けて走りだした……のだけれど。


「『疾風よ 我が身を一陣の嵐と成せ テンペストムーブ』!!」


 先頭の追手が魔法を発動させた途端、猛烈な勢いで追い上げてきたのである。


「何あの速さ!?」


「中級移動魔法のテンペストムーブです! エアウォークよりも早い奴です!」


 マジか! それじゃあエアウォークと同等の風駆じゃ逃げきれないよ!!

 そんな事を話している間にも追手はどんどん近づいてくる。


「こうなったら、リューリ!」


「おっけー! 任せて!」


 私は覚悟を決めてアレを使う事を決める。


「『妖精合体』!!」


「いっくよー!」


 瞬間、私の中に異物、いや同属が一つになる感覚を味わう。

 リューリが私の中に入り、この体が妖精に成る感覚だ。

 けれど、この感覚はいつもの感覚とは違った。


「これって!?」


『姫様が妖精に進化したから、ロスが少なくなって妖精合体の出力が上がったんだよ!』


 なるほど、妖精人に進化した私が妖精と合体するとそんなメリットが発生するのか。


「でもこれなら好都合!」


「な、なんだ!?」


 私はリューリの力で水の触腕を生み出すと、フレイさんの体を持ち上げる。


「それじゃ、全力で走るよーっ」


 私は脳内でイメージする。エアウォークより、風駆よりも早い力を。


「水の精霊のリューリの力を使うなら、これだぁー!」


 私の足の裏から勢いよく水が噴き出し後ろに向かって放たれてゆく。

 そう、水上スキー、もしくは水上ボートのイメージだ。

 猛スピードで進み始めた私は、追手を少しずつ引き離してゆく。


「なんだあの速さは!? こっちはテンペストムーブを使ってるんだぞ!?」


「あれもスキルなのか!?」


 残念ちょっと違う。これは妖精の力です。


「でもこれならいける!」


 私は更に魔力を込めてジェットスキーを加速させる。

 階段までもう少し!


「来たぞ!!」


 しかし、二層に降りる階段の前には先回りしていた探索者達が待ち構えていた。


「しまった!」


 やばい、待ち伏せされてた!

 こうなったら強行突破……を、


「アユミ殿、ここは強引に……」


「いや、止めた方がいいかな」


 強行突破を提案してくるフレイさんを押しとどめ、私はジェットスキーの速度を落とす。


「そうだ。それがいい。我々も手荒な事をする気はない」


 私が足を止めた事を確認すると、待ち構えていた探索者達がゆっくりと近づいてくる。


「アユミ様? 何故?」


 アートさん達は何故ここで止まってしまったのかと私に問いかける。


「あの人達、かなり強いです」


 そう、彼等からは凄く嫌な気配がしたのだ。

 別に邪悪な存在とかじゃなくて、シンプルに戦いを挑んだら碌な目に遭わないという予感だ。

 しかしフレイさん達は私と同じものを感じてはいないようだった。

 おそらくこれはリューリと妖精合体したからこそ分かる感覚なのかもしれない。


『いやーヤバいね。アイツら人間のくせに魔力が半端ないわ』


 私と合体しているリューリも気づいたらしい。

 きっと彼等はダンジョン探索の最前線をゆくトップ探索者とかなんだろう。

それほどまでに彼等からはただモノではない気配を感じる。

 あれに強行突破を挑んでも、あっさり捕まってしまうだろう。

 そんな相手に皆を危険に晒してまで戦う訳にはいかない。


「我々は君達の敵ではない。君達の話していたスキルについて教えて欲しいだけなんだ。もちろん君達がスキルについて教えてくれたなら、十分な謝礼を……」


 幸いな事に彼等は私達に紳士的に接しようとしている。

 これならむしろ彼らが本当にトップランカーなら、他の探索者達から私達を保護してくれるように交渉する事も出来るかもしれない。

 何とかこちらに有利な交渉をできないかと考えを巡らせたその時、予想外の事態は起きた。


「お、おい、止まれ!」


 何やら後ろが騒がしくなってきたのだ。


「馬鹿、急に止まるな! うわっ!」


「お、押すな押すな!」


 振り返れば、私達を追ってきた探索者達がスピードを落とすことなく突進してきたのである。


「「「「「「え?」」」」」」


 先頭の探索者達は止まろうとしているものの、私達が止まった事を知らない後方の追手が止まり切れずにぶつかってしまったと察した時には全てが遅かった。


「あ、あぶあぶあぶぶっ!?」


「おおぉぉぉっ!?」


 あっ、これめっちゃアカン奴。

 避難訓練でよく言われたアレだ。


「『押さない』『走らない』『喋らない』」


 いわゆる『お』『は』『し』という標語だ。

 地域の違いによる異論は認める。


「なんて言ってる場合じゃなーい!」


「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ」」」」」」


 はい、大惨事が起きました。

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― 新着の感想 ―
仮に配信が常識な世界だったとして、他の人と共に行動するなら「コラボ良いですか」とか「これから配信しますね」の一言ぐらいはあって然るべき 一番最初の接触時は突発的なものだったから情状酌量すべきかもだが、…
[一言] 他人の個人情報から秘密まであらゆる全てを無断で世界中に垂れ流してたとか配信者とか以前に人として最低の屑なんだが? しかも世界中で話題になったって事は神々に気付かれる可能性も高いって事だろ? …
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