第131話 身の程知らずと貧乏性(引くに引けないのは分からないでもない)
ご報告です!『先日勇者から助けて頂いた聖剣ですが』のコミカライズが決定いたしました!
連載開始は11/19(水)からとなります。
既にニコニコ漫画さんで告知ページが発表されておりますので是非見てみてください!
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「あれは……」
山岳ダンジョンを進んでいると、道端でへたり込んでいる人達の姿を見つけた。
全員が荒い息を吐いて、頭を押さえているけどもしかして病気?
「典型的な高山病の症状だね」
それをオタケさんがあっさり高山病と見抜く。
そっかー、ダンジョンのあるファンタジー世界にも高山病ってあるんだー。
「レベルアップとかスキルで何とかなりそうなもんですけどねぇ」
「レベルアップしてなんとかなるのは心肺機能だね。私らが大丈夫なのもそのお陰さ。ただそれでも高い山で激しく動くなら相応の訓練は必要だよ」
「スキルの場合もとにかく山に登って慣れることだ。それによって高所で活動する為のスキルを習得できる」
どっちにせよ訓練が必要なのは変わらないんだなぁ。
「装備も全然足りていませんね。かなり無理してここまで来たんでしょう」
と、ストットさんが彼等の装備について言及する。
確かに言われてみると彼等の装備はこのダンジョンに入ろうとしていた他の冒険者達に比べて軽装だ。
「運よく山頂まで来れたもんだから欲をかいちまったんだろうね。ああなったら早いところ地上に降りるしかないよ」
でもダンジョンで地上に降りるって言う事はつまり……
「下に行くのは得策じゃないな。一旦上に戻ってダンジョンを出てから地上に戻るしかない」
この状況でもっと空気の薄い所に戻るしかないのは地獄だよねぇ。
「なんとかしてあげられないんですか?」
「無いな。ダンジョン探索は自己責任だ。自力で戻るか無理をして死ぬかだ。そもそも高山病は回復スキルでどうにかなるもんじゃない」
「高山病に効く回復スキルってないんですか?」
「病気に効果のあるスキルはありますが、大抵は治療した事のある病気専門なんですよ。そうした専門スキルで一時的に症状を緩和させる事は出来ますが、高山病の場合はすぐに次の高山病に罹るので効果は薄いですね」
ああなるほど、高山病はウイルス性の病気とは違うから、一旦治してもまたすぐなっちゃうんだ。
高山病怖いなぁ。
「よ、よし、そろそろ行くぞ」
そんな話をしていると、へたり込んでいた一人がヨロヨロと立ち上がって仲間達に行くぞと声をかける。
「ま、待ってくれよ。まだ頭が痛いんだよ」
「甘ったれんな。冒険者はいつだって命懸けなんだ。早く帰りたいなら少しでも稼ぐんだよ!」
言いたい事は分からないでもないけど、それは……
「やれやれ、甘っちょろいヒヨッ子のセリフだねぇ」
オタケさんが彼等に聞こえるようにわざとらしく呆れ声をあげる。
「何だと!? って、何でこんな所にババおぐぁっ!?」
最後まで言い切ることなく、冒険者が壁に叩きつけられる。勿論叩きつけたのはオタケさんだ。
「口の利き方に気を付けな若造。この程度の山にも適応できない小童が」
あかん、思いっきり手が出ちゃってる。絵面が完全に事案なのよ。
「あ、あのオタケさん……?」
「悪い事は言わないからさっさと戻りな。アンタ等程度じゃすぐに死んじまうよ」
「がっ、ふ、ふざけんな! そっちこそガキを連れてる癖に!」
オタケさんに胸倉をつかまれて放り投げられた冒険者が地面に転がったままこっちを睨んでくる。
っていうかこっちを巻き込まないでー!
「あの子は良いんだよ。アンタ等と違ってピンピンしてるだろ? 鍛え方が違うんだよ」
「はぁ!? 俺があんなガキより弱いってのか!?」
「弱いね。弱すぎるね。アタシみたいな婆ぁの攻撃にも反応できないくらい貧弱さ」
「ゆ、油断してただけだ!」
「それが甘いってんだよ。同じ人間だって油断しちゃ駄目だってパパに教わらなかったのかい?」
「っ!」
「そうなんですか?」
初めて聞く言葉に私はリドターンさんに尋ねる。
「まぁ冒険者にも悪辣な連中はいるからな。特にダンジョンでは他人の成果を奪う強盗同然の連中もいる」
うわ冒険者めっちゃ怖ぁ。
「あのガキなら油断しないっていうのかよ! どう見ても甘やかされて育ったガキだろうが!」
だから私を巻き込むの止めてくんない?
「馬鹿言ってんじゃないよ。あの子程修羅場をくぐってる子供はいないさ。それにあの子は油断していたって何とでもなるんだ。アンタと違ってね」
すいません、過大評価も勘弁してくれませんかね。
「その辺にしておきな。このバァ、お嬢さんのいう通りだ。いくらお前さんが元気いっぱいでも仲間はそうじゃないだろ。無理をし過ぎないのが賢い冒険者の立ち回りってもんだ」
「あとドラゴンの尾を踏まぬこともな」
ボソリとキュルトさんが呟いたのは、スレイオさんが婆さんと言いそうになって慌てて言い直した事と無関係じゃない筈。だって一瞬凄い殺気が走ったもん。
「幸いお前さん達は怪我らしい怪我はまだしてない。今日の所はこの辺で帰んな」
それだけ告げると、スレイオさんは私達に先へ行こうと促す。
「あの人達大人しく帰るでしょうか?」
正直あの人の反応は素直に忠告を聞かずに反発してもっと深くに行こうとすると思うんだよね。
「どうだろうな。だが俺達は警告した。これ以上はアイツ等の責任だ」
と、これ以上はもう知らんとスレイオさんは肩を竦める。
「さぁ、他人の事に気を揉むのはここまでだ。自分達の冒険に集中しなさい」
「は、はい!」
◆
「あちゃーこっちは行き止まりかあ」
再び上と下の分かれ道にやってきた私達は、山岳ダンジョンのセオリーに従って上に向かう道を進んでいったんだけど、運が悪いことに道は途中でがけ崩れが起きていて進めなくなっていた。
「奥に道は見えるが、ダミーの可能性が高い。一旦下に降りる道を確認してそっちも駄目だったらここを越える事を考えよう」
「二度手間になったら嫌だなあ」
私達は道を戻って下り道へと進む。
幸いにもこっちの道は行き止まりになる事もなく、進む事が出来た。
「相変わらず魔物は出るし風は激しいけど、進めるだけマシなのかな」
厄介なのは時折魔物が上から石を降らせてくる事か。
「そういえばここってボスは出ないんですか?」
普通のダンジョンなら5階層に一回ボスと戦うとかあったけど。
「ここは特殊な構造のダンジョンだからな。ボスフロアという概念は無いんだ。代わりにボスが縄張りとしている場所がある」
「縄張りですか?」
「ああ、特定の範囲を縄張りにしていたり、決まった巡回ルートを縄張りとする奴もいる。実際に遭遇するまでどういう縄張りか分からんのが厄介だな」
確かに山の表面じゃボスフロアなんて用意できないもんねぇ。
「ただ、そろそろボスと遭遇してもおかしくないな。基本ダンジョン探索でボスとの戦いを避けて通る事はできん」
「ですよねー」
とその時だった。
―うわぁぁぁぁぁぁ!―
「え?」
何か今声が聞こえたような気が……
「今何か聞こえませんでしたか?」
「さて、アタシは聞こえなかったねぇ。風の音の効き間違いじゃないのかい?」
気のせいかな。
―キャァァァァァァァッ!―
また聞こえた!
「やっぱり聞こえました!」
助けに行かなきゃ!
私は急いで悲鳴の聞こえた方角に向かおうとしたのだけれど、何故か皆は動こうとはしなかった。
「みんなどうしたの!? 速く助けに行かないと!」
「……アユミ、冒険者は自己責任だ」
「え? それは知ってますけど……」
「今から行っても間に合わんかもしれん。助けたにも関わらず助けに来るのが遅い、横取りしようと割って入ったと言われる事もある。何より、向かった先で自分達が次の犠牲者になる可能性もある。それでも君は行くのか?」
ええ!? 何で今そんな事を聞いてくるわけ!?
「見知らぬ他人を助けたとして、君に何の得がある?」
―誰かぁぁぁっ!!―
「っ!? そんな事言っても……助けを求めている人がいるんだから、放っておけないじゃないですか!」
うん、これだ。私の答えなんてこれしかない。見捨てたら後味が悪い。
こっちの世界の、ダンジョンのある世界の人達にとっちゃ自己責任で見捨てるのが当たり前なんだろうけど、生憎私の前世はダンジョンとか魔物の居ない平和な世界。
危険な事に自分から頭を突っ込むなんて選択肢は無かったけど、それでも警察に通報するくらいはしただろう。
でも警察が助けに来てくれないこの世界じゃ……
「せめて逃げる援護くらいは出来ると思います!」
私は駆け出す。
「皆は待っててください! 暫くして戻ってこなかったら見捨ててくれて結構です!」
「やれやれ、しょうがない子だ」
声が前から聞こえて来た。
「あ、あれ?」
「こりゃあ痛い目を見て分からせるしか学べそうにないねぇ」
また声が前から聞こえて来た。
「え? え?」
「まぁ、貴方は妖精ですからね。我々の常識に従う必要な無いと言えば無いのでしょう」
「では手遅れになる前に行くぞ!」
「って、皆私より先に動いてるじゃん!!」
なんだよもー! 素直じゃないお爺ちゃんお婆ちゃん達だよ!!




