第129話 低い山でも舐めると死ぞ(マジでヤバいよ)
「おおー、ここがダンジョンの入り口かー」
「まさか山頂に入り口があるなんて」
フレイさんの言う通り、山岳ダンジョンの入り口は山のてっぺんにあった。
「私としては山頂まで一直線に続く道がある事にびっくりだわ」
とタカムラさんはこれまで登って来た道を見て呆れた声を上げる。
事実このレンベスト山には、一直線に伸びる石階段が山肌に沿ってふもとまで続いていたのだ。
「よくもまぁこんなバカみたいな道が作れたもんだよ。普通の山道は山肌に沿って何度も交差するように作るもんだけどねぇ」
滑落の危険とかガン無視だもんなぁ。
「我々は冒険者だからな。余計な時間をかけるよりも真っすぐ向かう方が都合が良いのさ。少しくらい大変な道の方が持久力や体幹を向上させるスキルを習得できる可能性が高まるしな」
「成る程、つまりこのとんでもない階段もスキルで建造したのね」
そう考えるとこの漫画みたいな光景も納得だ。
スキルがある世界だから作るのもスキル、登るのもスキル、もしくはスキル習得の修行として受け入れられている訳だ。
高所だけあってさっきから横風も凄いもんなぁ。
「スキル習得が前提条件の道中って訳かい。アタシらはステータスの恩恵で何とかなるけど、確かにスキルを習得してないレベル1のひよっこじゃあこりゃ無理だね」
オタケさんの言う通り、階段の合間合間にある平地で新人っぽい冒険者達がへたり込んで荒い息を吐いている。
「新人の内は道中で根を上げて帰る奴も多い。だがそれは根性なしという訳じゃない。無理を認めて帰る事の出来る計画性、スキルを習得する事を目的に最初から変える事を計画に入れた者達の行動だ。一番良くないのは無理して山頂まで到達してそのまま疲れ果てた状態でダンジョンに入る事だな。そういう連中は二度と戻ってこない」
ふむふむ、山頂までいかに負担を減らしてたどり着けるかが重要な訳だ。
「それに山頂に来る間も鳥系の魔物に襲われる危険があるからの。ダンジョンに潜る為の予行演習にもなっておるのじゃ」
「さて、それじゃあ一服したらダンジョンに入るとしようか」
◆
「うおおお!? 風強っ!」
ダンジョンに入った途端、凄まじい横風に体が浮き上がりそうになる。
「吹き飛ばされないように気を付けろ! まずは全員の体を命綱で固定する!」
私達が驚いていると、スレイオさんがてきぱきと道具を取り出し地面にロープのついた金具を固定する。
「腰の命綱をこのロープに取り付けろ。これで落ちても最低限命は助かる」
私達は腰のベルトから伸びた短いロープの先端についた二つあるカラナビの片方をロープに取り付ける。
「これは凄い風ね。装備を変えておいてよかったわ」
タカムラさんが言った通り、今回私達は装備を一新していた。いつものヒラヒラしたパーツは無く、風の影響を可能な限り受けないようライダースーツのような衣装にプロテクターのような防具を身に着けていたのだ。
「それにしてもこの装備は凄いな。この強風でも寒さを感じない」
リドターンさんが驚いたのは衣装の保温機能の方だった。
実際棒量販店の保温肌着のように暖かいからね。
「ウチの人気商品よ。ダンジョン探索だけじゃなくレジャー登山の為に買う人も多いの」
「山に遊びで登る? 変わった文化があるんだな」
ああうん、エーフェアースは魔物がダンジョン以外にも居る世界だもんね。そりゃ登山何て流行らないわ。
「俺が先行してロープを張っていく。お前達は風と魔物に注意して慎重に進むんだ」
「分かりました」
強風の中、山肌に出来た細い道をスレイオさんは危なげなく進んでゆく。
山岳ダンジョンは名前の通り、山肌に出来た細い道を進むタイプのダンジョンだった。
「ぱっと見は山道を歩いてるようにしか見えないなぁ」
ただ周囲には木が無いから風は直撃だしもし滑落したらそのまま下まで一直線だろう。
「このダンジョンでは命綱の確実な設置が文字通りの生命線となる。堕ちたら確実に死ぬからな」
下を見れば霞がかかっていて地上が見えないあたり、相当高い位置にあるのが分かる。
いやそもそもダンジョンなんだから地上なんてないかもしれない。
「ダンジョンは時間経過と共に放置したアイテムが吸収される。だから命綱の設置は毎回潜る度にしないといけないから、金のないパーティにはキツイ。だからと言って命綱の金を惜しむと粗悪品を掴まされてあっさり死ぬから気を付けろ」
「はい!」
「今回はアタシらが用意した最新のダンジョンにも対応できる登山装備だから安心しな!」
オタケさんが言う通り、私達が使っているロープは化学繊維のような質感のロープで、魔物素材も併用した物凄く頑丈なロープらしい。
命綱を頼りに進んでいると、ロープが地面に固定されてそれいじょう命綱が進めなくなる。
しかし慌てずもう一個のカラナビを固定具の向こう側につなげると、今まで使っていたカラナビをロープから外す。
「設置したロープを魔物に切断される恐れもあるから、こうやって定期的にロープを固定する必要があるんだ。問題は金具の付け替えのタイミングを狙って魔物が襲ってくる事が多いんだが、このカラナビというのは便利だな。簡単に付け外しが出来るから魔物に対応が容易だ!」
そう言いながら空に向かってボウガンを撃つリドターンさん。
するとグエーという音と共に魔物が空から降って来た。
「バンデッドバードだ。今言った金具の付け替えのタイミングを狙って襲ってくる魔物だ。落とすことに長けている分攻撃力は高くない。ロープを切られないように注意しろ!」
「はい! 『火魔法』!」
私は遠隔操作を込めた火弾でバンデッドバードに放つ。
当然敵はその攻撃を軽々と回避するけれど、スキルの効果で火弾が曲がり後ろからバンデッドバードに命中する。
まさか避けた攻撃が追いかけてくると思わなかったバンデッドバードが火を消そうと滅茶苦茶な軌道をとる。
「『風刃』!」
そこにエーネシウさんの魔法が命中してバンデッドバードに止めを刺す。
「いいぞ、ここでは倒した魔物を回収するのはほぼ不可能だ。倒す事だけ専念しろ」
あっ、そっか。ここじゃ倒した魔物を回収しようにも地上に落ちて言っちゃうんだ。
「でもそれなら『水腕』!」
私から生えた水の腕が延び、エーネシウさんの倒したバンデッドバードを回収する。
「倒した魔物は私のスキルで回収できます!」
「おお、でかした! バンデッドバードの肉は美味いぞ!」
へぇ、そうなんだ。そりゃ後が楽しみだよ。
「それに羽は矢羽として良い値段になる。安定して回収できるならいい儲けになるぞ」
やった、お肉が美味しいだけじゃなくお金にもなるなんてバンデッドバードは名前の割に凄くおいしい魔物だね!
「よーし! 沢山狩るぞー!」
「こらこら、命綱には気を付けろと言っただろう。忘れるんじゃないぞ」
おっとそうでした。