第128話 山岳ダンジョンの町に来ました(まずは準備から)
「おおー、ここが山岳ダンジョンの町かー」
レベルを上げ、水、風、土の中級魔法スキルを習得した私は、リドターンさん達に連れられて以前話した山岳ダンジョンへとやって来た。
「ああ、ここがレンベストの町だ」
レンベストの町は大きな山の麓に作られた町だった。
町の上層部は山の形に添って家が建てられていて、ちょっとだけ地震が起きた時が怖くあるけど。
「この町は高さでエリアが分けられていてな。一番下の階層が住民が住む居住区。中腹が冒険者の利用する店や宿のエリア。上層が貴族や金持ちの住むエリアでそのさらに上がダンジョンの入り口に通じるトンネルがある」
「トンネル?」
「この町のダンジョンの入り口は山の頂上にあってな。そこまで安全に登れる直通トンネルが掘られているんだ」
「そんなの掘ってダンジョンに貫通しないんですか?」
「それが不思議とダンジョンに繋がる事はなかったそうなんですよ。入り口から入ったダンジョンの構造を考えれば確実に繋がっている筈だったそうですが」
「その事からダンジョンの中の空間は転移魔法の方に別の空間に繋がっておるのではないかと考えられておる」
と、お爺ちゃん達がダンジョンの仕組みについての話題に加わって来る。
「それは私達の所でも同じね。周辺の建築物の関係で本来なら地下鉄を貫いている筈のダンジョンもあったから」
そっか、ルドラアースは私が生きていた時代に近い科学技術が進んだ世界だったし、当然地下鉄とかもあるよね。
特に大都市はそこら中に地下鉄のラインが延びてるもんねぇ。
ダンジョンがそれをわざわざ避けてくれてるとも思えない。
それに水道管とかの配管や下水道なんかもあるしね。
「それじゃあ宿を取ったらこのダンジョンで使う装備を揃えるぞ」
「子のダンジョンで使う装備?」
「そうだ。個のダンジョンは山岳、つまり険しい山道のダンジョンだ。足場が悪く、下手をすれば滑落する恐れもある。だから登山用の道具と装備を整える必要があるんだ」
へぇ、山岳ダンジョンってそんな準備が必要なんだ。
「言われてみれば街中を歩く冒険者達の装備がいつもと違いますね。皆着こんでいるというか……」
と、フレイさん達も冒険者達を見て装備の違いに納得する。
「山岳ダンジョンは山の上層部だからな、風が強く体も冷える。ああして厚着をしないとすぐに体温が奪われてまともに動けなくなるぞ」
「だがあまり厚着をし過ぎると今度は動きが阻害されて魔物との戦いの最中にバランスを崩して滑落して死ぬ。この見極めが厄介なんだ」
動きやすさを取るか暖かさを取るかかぁ。悩ましいなぁ。
「それなら私に当てがあるわ。防寒具の件は私に任せて」
とフルタさんが防寒具の事で手を上げる。
「そうか、なら必要なのは全員の防具と登山道具一式だな」
「防具もですか? 言っちゃなんですけど私達かなり良い物を装備してると思うんですけど」
これまた私達はタカムラさん達のお陰でかなり良い装備をしている。それに私の鎧はお爺ちゃん達が用意してくれたものだから、ルドラアースとエーフェアースの良いとこどりの装備なのだ。
「山岳地帯で重い金属鎧は危険だからな。それにタイミングが悪いと雷も降って来る。そう言う意味でも金属鎧は避けたいんだ」
あー確かに山の天気は変わりやすいって言うもんね。
「という訳でまずは防具からみるぞ」
私達はスレイオさんに案内されて防具のお店に入ってゆく。
中に入ると、そこには革製の防具で一杯だった。
「わー、本当に金属鎧がないねー」
「それに珍しい布鎧がありますわ」
「布鎧?」
「ええ、頑丈な魔物の長毛や糸を織って作られた生地を使った防具ですわ。安いものはああして何重にも重ねて鎧のようにし、高価なものは薄くともそれ以上の守りを発揮します。ですがなんといいますかあまりエレガントではありませんわね」
エーネシウさんが気になったのは布鎧のデザインのようだ。
確かにどの布鎧もスカートやヒラヒラがなく、ズボンとタイトな上着、あとはそれに撒きつけるように装備するものばかりでオシャレとは程遠い姿だった。
「風が強いからな。ヒラヒラしたものは風を受けてバランスを崩しやすいんだ。それに取り系の魔物がくちばしに布を引っかけて引っ張り滑落させようとしてくるのさ」
「「「うわぁ」」」
えげつない話を聞いて思わず引いてしまう。
どうやらこのダンジョンは自然だけでなく魔物の殺意もかなり高いっぽい。
「ふむふむ、成る程ね。防具の傾向も分かったわ。これならなんとかなりそうね」
と、お店の防具を見ながらフルタさんが頷く。
「スレイオさん、防具はもういいから道具の方を買いに行かない?」
「うん? しかしここで買って行かないとあとで二度手間だぞ?」
「いいからいいから」
「お、おい」
フルタさんには何か考えがあるのか、スレイオさんの背中を押してお店を出て行ってしまった。
「よくわからんが、彼女に何か考えがあるのだろう」
という訳で防具を買わずに道具屋に向かう事になった私達はフルタさんに事情を尋ねる。
「あそこで売っているものの質は理解したわ。正直環境対策の所為で防御力も最低限だし、なにより可愛くないのが許せないの。だから防具も私に任せて! こっちも当てがあるから!」
「は、はぁ」
なんかフルタさんが珍しく自己主張してきたのでつい頷いてしまった。
「そうなるとあとは移動に使う機材だな」
道具屋にやって来ると、こちらは防具屋と違って沢山の冒険者達の姿があった。
「うわー、凄い人。防具屋はあんまり人がいなかったのに」
「防具の方はいつも使っている防具よりも防御力が下がるからな。どうしても買い替えを躊躇うんだ。だがこっちは冒険者ギルドやダンジョンの入り口で注意を受けるからな。しっかり買いに来る奴が多いんだよ」
「成程」
そんな訳でお店に並んでいる山岳ダンジョンの必須装備を覗いてみるんだけど……
「登山道具とキャンプ道具?」
うん、テレビでよく見る登山道具とキャンプ道具だった。
「ダンジョンだけに一応道はあるが、場所によっては壁を登る必要のある場所も出てくる。また雪の降るエリアでは吹雪に足止めされて動けなくなることもあるからな。こういった装備が必要になって来るんだ」
うーん、ダンジョン探索っていうよりも部活の登山活動みたいな感じ。
「にしてもなんていうかレトロな登山道具だなぁ」
まぁこっちの世界は文明の進み具合が遅いみたいだから、どうしても道具が古臭くなるのは仕方ないか。
「安い物はな。だが高級な品はマジックアイテムや貴重な魔物の素材で出来ていて便利だぞ」
そっか、その分エーフェアースはマジックアイテムなんかでバランスが取れてるんだ。それにスキルもあるから意外と山岳活動用のスキルで何とかなるのかな?
「ふーん、これがこっちの登山道具かい。安いのは論外だね。高い奴は……そこのアンタ! 使い方を教えな!」
「え!? 婆さん!?」
突然お婆ちゃんに声をかけられ驚く店員さん。
「誰がババァだい! アンタよりも先輩なだけだよ! それよりも早く説明しな!」
「は、はい! こちらの魔道具は壁に刺すと使用者が抜かない限り勝手に抜ける事はありません」
「ほう、そりゃ未熟者でも安心できるねぇ。こっちの奴はどう使うんだい?」
「このハンマーは軽く振っても杭を簡単に深く喰い込ませ、いざという時は魔物を攻撃する武器にもなります」
「その割には重いね。これならウチで取り扱ってる品の方が良いね。これは何だい?」
そうしてオタケさんの怒涛の質問タイムがようやく終わると、お婆ちゃん達が手分けしてアイテムをカゴに入れてゆく。
「これとこれとこれは買いだね。他のは私の伝手でもっと良いのが買えるから種類だけメモをとって帰るよ。アユミ、宿に付いたらすぐ向こうに跳ぶよ」
「あ、はい」
そんなこんなで道具屋での買い物はオタケさんの主導で進み、買い物を終えるとすぐさまルドラアースに買い出しに向かったのだった。
「……俺達の甲斐性、見せれなかったな」
「……女の買い物に口出ししたら死ぬからな」
ゴメンね、お爺ちゃん達。