第124話 少女達の成長(まぁ一足飛びに上がれないけど)
お婆ちゃん達がスキルを取得して大暴れした翌日、私達はチームを分けて行動することにした。
というのも私とお爺ちゃん達四人、お婆ちゃん達四人、フレイさん達二人だと流石に大所帯過ぎるからだ。
なおアートさんは学校に通う為に帰宅、いや帰世界している。
「私達もいるぞー!」
「キュイ!」
ああうん、リューリとクンタマもいるね。
「では我々がお嬢さん達とチームを分け、アユミ達は娘達でチームを組む事にしよう」
「よろしくお願いしますね。皆さん」
という訳でお爺ちゃん達とお婆ちゃん達は男女二人ずつの四人チームを二組、私達子供+リューリ達の計三チームで行動することになったのだった。
探索を終えたらリドターンさん達の取った宿で合流する事を約束し、私達は行動を開始する。
「久しぶりに組むし、浅めの階層で連携の練習をしようか」
「私もそれが良いかと」
「ふふふ、私達の実力を今度こそ見せて差し上げますわ!」
やたらとやる気満々なエーネシウさん。
いやよく考えたら二人共お爺ちゃんやお婆ちゃん達に割り食って修行の成果を全然見せれなくてしょんぼりしてたわ。ドンマイだよ。
「む、さっそく来ましたね。3体が高速で接近。この速さは恐らく獣型。接敵まであと10秒です」
と、フレイさんが闇の向こうを凛々しい眼差しで睨みつけながら叫ぶ。
「そんな詳しく分かるんですか?」
「ええ、初級指向性気配察知のスキルを取得しましたので」
「初級指向性気配察知?」
何それ聞いたことないスキルだけど。
「特定の方向にのみ集中してワンランク上の気配察知を行えるスキルです。使っている間それ以外の方向からの気配感知力が大きく下がるのですが、一本道の場所や敵が逃げ込んだ方向を察知するのに向いています。物陰に隠れて隠蔽系スキルを使う相手を察知する事も出来るのです」
成程、デメリットが出来る代わりに大きく能力を向上させるスキルなんてのもあるんだね。
言ってる間に魔物の姿が通路の奥の闇から現れる。
「ホントに獣型だ」
現れたのは赤く燃えるトラだった。
「って燃えてる!?」
「ブラッドタイガーです。見た通り燃えてるので接近戦は気を付けてください。また身体能力も高いので油断しないで!」
「気を付けてって言っても遠距離一択じゃないそれ!?」
「その通りですわ。受けなさい『風刃』!!」
即座にエーネシウさんが風の刃を放つも、ブラッドタイガーはそれを紙一重で躱して向かってくる。
「油断は良くなくてよ!」
直後、回避されたと思った風の刃が軌道を変えてブラッドタイガーの足を背後から切り裂く。
「「「グォォォォォゥ!?」」」
避けたと思った攻撃を喰らい、ブラッドタイガー達が驚きの声と共にバランスを崩して倒れそうになるも、なんとか立て直して三本の足で器用に走り出す。
「十分すぎる隙だ」
しかしその時には大きく跳躍したフレイさんがブラッドタイガー達の頭上に迫っていた。
「『延斬』!!」
刹那、フレイさんの剣が延びブラッドタイガー達の首を纏めて切断したのだった。
「何今の!?」
「刃を伸ばすスキルです。接近戦が厄介な敵を相手にするのに良いスキルですよ」
「ほえー、二人共新しいスキルを取得したんですね」
「ええ、もう一つの世界に行ってレベルが上がるようになってからスキルを取得する速度が上がって来たんです」
おお、ストットさん達の仮説の通りだね!
「わたくし達も先生方の拷も、修行で強くなっておりますのよ」
今拷問って言おうとした?
「その通り。師匠がたの考案した実け、モルモ……新しい特訓で飛躍的に強くなりした!」
今実験台って言おうとしませんでした?
うん、深くを追求するのは止めておこう。きっと聞いてはいけない闇の世界だ。
「ともあれ、二人の新しい能力も見せて貰ったし、これならもっと深い階層に行けそうだね」
「ええ、勿論ですわ!」
「これでもうアユミ殿の足を引っ張る事はありませんよ」
「じゃあ階層転移でもっと下の階層に行くね!」
◆
「それじゃあこの辺で魔物を狩ろうか!」
「承知!」
「任せてくださいまし!」
意気揚々と深層に挑む私達。
「むっ、魔物が近づいてきます! あと五秒!」
「よし、迎撃するよ! クンタマ『兼獣合体』!」
「キュイ!」
迎撃準備を整えた私達は襲ってきた敵に狙いを定める。そして……
ドガァァァァァァァン!!
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
フレイさんとエーネシウさんが吹っ飛んだ。
「「「「グォォォォォォウ!!」」」」
「ば、馬鹿な! 地獄のモルモット実験につき合わされた私達の力が効かないだと……!?」
モルモットって言っちゃったよ。
「ありえませんわ! 人でなしの拷問同然のしごきに耐え抜いたわたくし達が力負けするなんて!」
拷問って言っちゃったよ。
「あー、まぁしょうがないよね」
と、妖精の小瓶からニョッキリ顔を出したリューリが呆れたように肩を竦める。
「姫様の力はそこら辺の人間の中堅以上の力があるんだもん。それに私達と合体すれば更に出力が上がるんだよ。妖精の魔力と使い魔の身体能力で上位クラスの性能を発揮するんだから、そりゃ新人に毛が生えたギリギリ中堅未満のひよっ子じゃついてこれないって」
「私ってそんなに強いの?」
あんまり自覚ないんだけど。
「そりゃそうだよ。魔力に関しては人間を遥かに超えてるし、合体で単純な肉体強度も上がってるんだよ。唯一経験だけが足りないからそこが弱みってだけで、普通の中堅クラスなら姫様に叶わないって」
そうだったんだ。意外と強くなってたんだな私。
「まぁあのお爺ちゃんとお婆ちゃん達には経験と技術の差で負けるかな。遠距離から出力全開で周辺一帯を更地にする戦術ならいけるかもだけど」
「しないからね!」
ともあれ、私はリューリとも合体して魔物達を一掃する。
「くっ、なんという力。まだ私達ではアユミ殿の力になれないのか!」
「口惜しいですわ!」
『まーそんなに落ち込む事ないわよ。レベルをあげて物理で殴れば勝てるって向こうの世界の人間達も言ってたし』
なんかそれ前世でも聞いた覚えがあるな。
「成る程、とにかく地力を蓄えろという事ですね」
「流石妖精、含蓄のある言葉ですわ」
合体したリューリの言葉を伝えると、二人は神妙な顔で頷く。
いや、覚えた言葉を使いたかっただけだと思うよ。
「それじゃあ少し早いけど今日は帰ろうか」
「ええ、もう少し浅い階層で鍛錬を積む事にします」
◆
宿に戻ってくるとリドターンさん達の姿はまだなく、私達が一番最初に戻って来たようだった。
「明日の探索の為に今のうちに戦術を煮詰めておいた方が良いな」
「そうですわね。出来るだけ足を引っ張らないようにしませんと」
今日の戦いで反省する所があったのか、二人は連携について真面目に相談しだす。
「二人共真面目だねぇ」
「逆に私達はもっと戦いたかった―」
「キュイ!」
リューリとクンタマはあんまり戦えなかったからちょっと不完全燃焼みたいだ。
というか妖精が交戦的でいいの?
「遅くなって済まない」
と、そこにリドターンさん達が帰って来る。
「あっお帰りなさ……い?」
しかし帰ってきたリドターンさん達の姿を見て、私達は思わず動きを止めてしまう。
「ええと、その姿は?」
「いや、それがな……どうやら私達も進化したみたいだ」
そこには、大きく姿が変わったリドターンさん達の姿があったのだった。