第123話 初めてのスキル(初めてじゃない戦慄)
買い物が終わると漸く私達はダンジョンへやってきた。
「上層部で遭遇する魔物の強さは向こうの世界と大差ない。とはいえ油断はしないように」
「ええ、任せて!」
買い物に巻き込まれた所為で始まる前から疲れているリドターンさんに対して、タカムラさん達はやる気満々だ。
「いくわよ!」
さっそく現れた魔物に対し、獲物を構えて突撃してゆくお婆ちゃん達。
「プキュウ!?」
憐れ魔物達はお婆ちゃん達によって殲滅されてしまった。
というか高ランク探索者が上層の魔物に群がるとか過剰戦力なんだよ。
「あら、初級消耗品戦闘スキルとかいうのを取得したわ」
すると戦いが終わったタカムラさんからスキル取得の報告が上がった。
「早いな!?」
超速のスキル取得に驚くリドターンさん。
「アタシは初級重撃スキルというのを取得したよ」
「私は初級急所攻撃スキルね」
「私は初級攪乱スキルね」
と、お婆ちゃん達は次々にスキルの取得を報告しだす。
「全員スキルを取得したのか。これは予想以上だな」
全員がスキルを習得するとは思っていなかったらしく、リドターンさんは興奮気味だ。
「ところで消耗品戦闘スキルってなんですか?」
「ええと、ちょっと待ってね。ふむふむ、アイテムを使う際に正しく狙った相手に使ったり、効き目を上昇させるスキルみたいね」
効き目が上がるのは分かるけど、狙った相手に使うってのはどういう事だろう? ノーコン用?
「なんとなくだけど効果は理解できるわ。例えば緊急時ポーションを飲む余裕もない戦闘中の仲間を治療する際はポーションを傷口に振りかけるのよ。でも大抵そういう時って怪我をした仲間も魔物の攻撃を避ける為に激しく回避行動をしているわ。そんな状況で狙った場所に薬をかけるのは意外にコツがいるのよ」
あー、戦闘中だと敵も妨害してくるだろうし、攻撃を回避する為に動くもんね。
ゲームみたいに『使う』コマンドで確実に効果を発揮とはいかないか。
「ちなみに毒をかける時も同じね」
うん、そっちは味方に当たったら大惨事だもんね……
「このスキルはそういった的確な行動をする際に補助をしてくれるみたいよ」
うーん、ショボそうかと思ったけど思った以上に重要なスキルかもしれないね。
「私の重撃スキルは重量のある武器を使った攻撃の威力を上げてくれるスキルだね。常時効果があるからダメージが蓄積してくると大きく響くね」
オタケさんはゴツイ鉄甲をブンブン振りながら好戦的な笑みを浮かべる。
いやー、そのゴッツい武器の攻撃力が常時上がるとかなかなかおっかないんですけど。
ちなみにオタケさんの鉄甲はかなり大きく、それだけでオタケさんの身長の半分くらいある巨大な腕なんだよね。もうぱっと見ロボットの腕なんだよ。
思い浮かべてみて欲しい。腕だけ巨大ロボットみたいになったお婆ちゃんの姿を。
そしてそのお婆ちゃんが凄惨な笑みを浮かべながら魔物をグッチャグチャにする光景を。
結構なホラーです、はい。
「何か今失礼な事を考えなかったかい?」
「イエ、ソンナコトナイデスヨ」
「私の初級急所攻撃スキルは名前の通り相手の急所に当たりやすくなるスキルね。急所に当たった際のダメージ上昇、それに極低確率で即死効果があるわ」
うーん、フルタさんのめっちゃ分かりやすいスキル来たね。って言うか即死って怖くない?
「私の初級攪乱スキルはフェイント系のスキルだねぇ。自分を見ている敵全員に効果があるみたいだから、敵陣に突撃して使うのが良さそうねぇ」
「それめっちゃ危なくないですか!?」
「若い頃はそれを自前でやってたんだから大丈夫だよ」
まさかの乱戦スタイルだったセガワさんにちょっぴり戦慄する。
「よーし、この勢いでスキルを覚えるよー!」
「「「おーっ!!」」」
スキルを取得できたことに興奮したお婆ちゃん達は、更なるスキル取得を目指して魔物達に襲い掛かる。
「プモー!?」
「グギャー!?」
「ミギャー!?」
うっわー、大惨事。もはや乱獲レベルの勢いで魔物達が狩られてゆく。
そうして、お婆ちゃん達はたった一日で実に10個ものスキルを取得したのだった。
ただ、あまりにも勢いよく魔物を狩り過ぎた為か……
「なぁ聞いたか? ダンジョンの上層部で笑いながら魔物を虐殺するババァみたいな魔物が目撃されたって話を」
「あー、俺も聞いたが普通に冒険者じゃないのか?」
「いや、老婆の集団が冒険者なんかになるか? 普通に引退してるだろ」
「だな、人型の魔物と考えた方がいいだろう。それに攻撃方法もえげつなかったらしい。なんでも毒をまき散らしたり、巨大な腕で魔物を引き潰してたって話だ」
「魔物同士で同士討ちをしてたのか?」
「下層から出て来た変異種の可能性があるな。気を付けろって通達が出てたぜ」
「ダンジョン攻略で追加された新しいギミックって事か?」
「分からんが気を付けるに越したことはないな……」
謎の老婆型モンスター発見の報告が冒険者達の間に激震を走らせたのだった……