第118話 ダンジョンクリアと神々の愉悦
「「「「オッシャァァァァァァ!!」」」」
ダンジョンの入り口で探索者達の歓声が上がる。
何度も復活するレイドボス討伐に成功し、地上に帰還した皆の声だ。
「やったぜー! 討伐報酬だ!」
「はははっ、流石にあんだけ戦ったんだからレベルがあがるよな!」
皆はボスを倒した事で得られるお宝や、大量の経験値でレベルアップした事を喜んでいる。
そうしてひとしきり騒いだあと、私達は解散することになった。
それぞれのパーティの仲間と打ち上げに行ったり、知り合いのパーティ同士、たまたまレイドで一緒になったパーティと親交を深める為に声をかけたりしあっている人達もいる。
「それじゃあ私達も打ち上げに行きましょうか」
「え? 私達もやるんですか?」
「オタケさんが予約してくれてたのよ」
「良いお店を予約してあるのよ」
タカムラさん達の予想外の申し出にビックリする。まさか打ち上げの準備までしてくれていたなんて。
「じゃあ行きましょう」
と、リドターンさん達にも目配せするタカムラさん。
「我々もお邪魔してよろしいのですか?」
「何言ってんだい。アンタ等も一緒に戦った仲間だろ。あと行くのはオタケちゃんの店だからあんまり期待するんじゃないよ」
「え!? オタケさんってお店を持ってるんですか!?」
そっちの方がビックリなんだけど!?
「やーねー、もう息子に後を任せてあるから私のお店じゃないわよ」
いやいや、それってつまり初代店長って事でしょ!? 一体何者なのこの人達……
「ちなみにオタケちゃんのお店はダンジョン素材をふんだんに使ったポーション料理のお店で有名なのよ」
「ポーション料理?」
フルタさんの言葉に首を傾げる。ポーション料理って水の代わりにポーションで煮込んだりする料理って事?
「薬効の高い食材を使った料理の事だよ。ポーションみたいに保存が効かない代わりにポーション以上に効果が高く食材と調理法次第で色んな薬効を期待できるんだ。だから重病の治療食としてポーション料理は必須だし、美味いポーション料理を医療食として売りにしてる病院もあるくらいだよ」
ほえー、ご飯が病院の売りになるなんてグルメ漫画みたい。まぁファンタジー世界だから似た様なもんか。
「ふむ、我々の故郷では薬効にばかり注目していたが、料理を薬として治療に持ち込むのは面白い考えだな」
「教会でも似た様な考えはありますが、こちらも味は二の次ですからねぇ」
そしてエーフェアースの方ではポーション料理はあんまりメジャーじゃないみたいだ。
まぁ向こうは魔物の脅威がこっち以上に大変っぽいし、味の追及の為に食材を自由に使いづらいのかもね。
「さっ、予約した時間に間に合わなくなるから早く行きましょ」
「予約した時間は長めにとってあるから、そんなに急がなくても大丈夫よ。冒険者の打ち上げは時間がズレるのザラだもの」
「普通アンタの店でそんな贅沢な時間の使い方は出来ないんだよ」
「それ、もしかしてめっちゃお高いお店なのでは?」
「やぁねぇ。普通のお店よ」
「「「嘘おっしゃい!」」」
うおお、お店に行くの緊張してきたぞぉ……
◆???◆
純白の世界、否、そこは色と言う概念がない世界。
全ての色があり、全ての色がない、常人ならばあまりに異様な虹彩に精神を破壊されてしまうそんな、脆弱な生命に一切の気遣いの無い場所で、二つの存在が対峙していた。
二つの存在はお互いに対する敵意、殺意、憎悪、嘲笑と言った負の感情を隠そうともしていない。
これらの感情の余波だけでも、幾多の生物が恐慌に陥った後に自ら死を選ぶだろう。
それほどまでに、この二つの存在は形ある命とは隔絶した存在だった。
――我が世界の生命が進化を果たしたぞ――
言葉なき思念が、相対する存在に対して愉悦の感情を放つ。
しかし感情を放たれた存在もまた余裕の感情で返した。
――進化なぞ我が世界の生命も果たしている――
――何?――
――それどころか我が世界の生命は多種の力を束ね、導く貴種として目覚めつつある――
――侮るな、我が世界の生命も導き手として目覚めている――
――なんだと?――
攻守が逆になった二つの存在だったが、その結果は先ほどと同様の結果に終わる。
――よもや双方の生命の進化が同時に起きるとは――
――まさかそちらにも導き手が現れるとは――
互いに困惑と悔しさをにじませる感情を放ったあと、不可解な色彩の世界から二つの存在は消えた。
まるで今回は引き分けだとでもいうかのように。
そして、二つの存在が消えた後で、新たな存在が姿を見せる。
――どうやら、あの子は上手くやっているようですね――
二つの存在が遺した残滓から情報を読み取った第三の存在が安堵の感情を放つ。
――彼等も、自分達が優位を示す為に示した生命が、同じ存在である事には気付かなかったようですね――
そう、二つの存在は同じ人間を指して自分の優位を語っていた。
ルドラアースとエーフェアースにてアユミと名乗り活動する少女と。
――これならまだ暫くは時間稼ぎが出来そうです。頑張ってくださいねアユミ。そしてもっと定期的に母に等しい私に連絡してきてください――
神という存在は、もしかしたら人間が思う以上に俗っぽいのかもしれない。