第117話 発見隠し部屋(今度こそ最後の戦い?)
エイプリルフールなので新連載「女神の愛息は地方公務騎士を目指す」
「先日勇者から助けて頂いた聖剣ですが」を始めました。
よろしければこちらもどうぞ。
隠し部屋に最後のボスがいる可能性を求め私達はダンジョンを駆け抜ける。
具体的には私達を乗せているクンタマが。
「『水腕』!」
水魔法で大量の水の腕を作り、壁を叩いてゆく。
バンバンバンバン!!
「駄目、ここじゃない!」
受付の人に指定されたエリアを駆け巡って部屋を探し続けるけれど、未だ壁の音に変化はない。
「火弾!」
「はぁっ!」
私が探索に専念できるように、フレイさん達が近づいてくる敵をクンタマの上から迎撃する。
「クンタマちゃん、次はあっち!」
そしてアートさんはDホンに写るダンジョンの地図をクンタマに見せて目的地を指示する。
「『水腕』!」
ドンドンドンコォン!
「っ!? あった!」
すぐさま音に変化のあった場所で降りると、私は壁に触れてスイッチを探す。
「たぁー!」
その間私が無防備にならないよう、魔物達の接近を阻止してくれる皆。
待っててね、すぐに見つけるから。
そしてカチッという音と共にダンジョンの壁が動く。
「皆、空いたよ!」
「はい!」
すぐさま隠し部屋に入らず中の様子を確認すると、その奥から低く重い唸り声と幾つもの息遣いが聞こえてくる。
「いたっ!」
「隠し部屋にボスが居ましたっっっ!」
「マジか!」
「本当にあったのかよ!」
私が確認した事を見てアートさんが大きな声で隠し部屋とボス発見の報告を探索者達に伝える。
「この部屋のボスは私達が担当します! 皆さんは自分達の担当ボスの足止めをお願いします!」
「分かった! なるべく早くしてくれよ!」
「行くよ皆! レアモンもいるから気を付けて!」
「「「はい!」」」
『おー!』
「キュイ!」
「クンタマ、『謙獣合体』!」
「キュイ!」
クンタマと合体する事で私の頭とお尻に耳と尻尾が生え、腕と足がモフっとなる。
「おお!? 妖精っ娘がケモッ娘に!」
「いや羽も残ってるから妖精ケモだ!」
妖精ケモってなんだよ。いや私の事なんだけどさぁ。
今後新しい仲間が出来たらその度にパーツが増えるのかなぁ?
って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
私はボスの先制攻撃を警戒し、水腕を隠し部屋の床に叩きつけると少し遅れて天井目掛けて跳ぶ。
「グルォォォ!」
すると予想通り待ち構えていたボスとお付きのレアモン達が水腕に一斉攻撃をかけてくる。
即座に吹き飛ぶ水腕。けれどスキルだから私にダメージはない。
天井に跳んだ私は天井に足のケモ爪を喰い込ませると、さかさまになった状態で魔法を放つ。
「『火魔法』!」
大きな炎を扇状に広げ、隠し部屋の奥に居るボス達へと放つ。
「「「「グギャアアアアア!!」」」」
魔物達の悲鳴が上がる。
けれど腐ってもレアモン。一撃では倒せなかった。
「皆、私が囮になるからレアモンの数を減らして!」
「「「はい!!」」」
私は攻撃を受けてなおピンピンしているボスと生き残ったレアモン達の気を逸らす為に狙いをつけず無差別に魔法を放つ。
「「「「グアァァァァ!!」」」」
すると狙い通り魔物達は私にヘイトを向ける。
その間に皆には魔物の数を減らしてもらう必要がある。
「全滅させると増援が来るからボスまでの道を開ける程度にして!」
「分かってます!」
チラリと視線を向けると、アートさん達は三人一組のチームとして綺麗に動いていた。
アートさんとフレイさんが前衛、エーネシウさんが後衛で援護攻撃と非常にプレーンな構成だ。
「……『燃え盛る炎よ 無謀なる者共を 諸共に業火に沈めよ ファイアバーン』!!」
そして時折アートさんが数歩下がってエーネシウさんの代わりに呪文を詠唱して魔法を放つ。
成程、敵の攻勢の強弱に合わせてアートさんが呪文を唱えてエーネシウさんのスキル使用回数を温存する作戦か。
彼女は前衛兼後衛のスイッチユニットって訳だね。
しかし三人とも凄いなぁ。この間までとは比べ物にならないくらい戦いが上手くなってる。
やっぱり一流の師匠の教えを受けると成長度合いが違うんだね。
「うん、あれなら安心して任せられるね! よーし、それじゃあ私もバンバンボスを攻撃するぞー!」
『おー!』
『キュイー!』
「いっくぞー! 『全属性マスタリー』! レインボーストライク!!」
七色の複数属性の魔法攻撃がボスの体を貫いてゆく。
「グギャアアアッッ!!」
んー、ダメージはどれも同じ感じかな。特に弱点属性はない感じか。
「ならとにかくダメージを積み重ねていく!!」
正直もう皆の体力の限界は近い。
アートさん達だって頑張っているけど、ずっと戦っているから、個々の動きは大分鈍くなっているのが分かる。それを上手くチームワークで補っている感じだ。
それに隠し部屋の外の冒険者達もかなりキツイだろう。
「でも、ここで私が焦ってオーバーキルしちゃったら元も子もない!」
強すぎず弱すぎずボスを確実に削ってゆく。けれどなるべく早くとどめに近づける為、ギリギリのバランスを狙って強い攻撃を混ぜてゆく。
「グルルルゥ……」
そうして、ボスの動きに陰りが見えてきた。
「そろそろだよ!!」
これまで何度も見てきたボスの反応に私は声を張り上げる。
「皆さん、こっちの準備が整いました!!」
私の言葉を聞いて、アートさんが即座に隠し部屋の出入り口まで下がって報告を行う。
「分かった! カウント10で一斉攻撃だ!!」
隠し部屋の外から攻撃の合図が聞こえてくる。
「カウント10です! 私が読み上げます!」
「お願い!」
「10、9、8……」
アートさんのカウントを聞きながら、私とエーネシウさんが力を貯める。
フレイさんは全力で守りを固め敵の注意を惹きつける。
「「「「ゴォォォォォォォウ!!」」」」
けれどボス達もこちらの攻撃の気配を悟ったのか、死に物狂いで攻勢に出てくる。
「くっ! 『鉄壁』!!」
それに対抗すべく、フレイさんが盾を構えてスキルを発動させる。
名前的に防御系のスキルか?
ただいかに防御力が上がっても流石に一人では魔物達をカバーしきれず、すぐさまアートさんが弓をつがえて援護する。
けれど正確なカウントをしないといけない為、どうしても狙いがおざなりになってあまり脅威になっていない。
「5、4……」
不味い、このままだと敵がフレイさんを無視してこっちに突っ込んでくる。
『僕との合体を解除して!』
その時だった。私と合体していたクンタマが合体を解除しろと言ってくる。
『僕が壁になるからその隙に魔法で倒して!!』
私は考える時間も惜しいと即座にその提案を実行する。
「キュイー!」
私から分離したクンタマはすぐさま大型化すると、魔物の群れに向かって突っ込んでいく。
そして長細い体を突っ込む勢いに任せて思いっきり反転させ、全身を鞭のようにしならせて魔物達にぶつけた。
「「「グォアァァァァ!?」」」
ただの体当たりでしかないから、ダメージは期待できない。
でも勢い任せのタックルを喰らった魔物達はそこでストップしてしまう。
それは後ろから追いかけるように向かってきていたボスも同様だ。
「キュイー!」
きっと今だと言っているんだろう。合体が解除され言葉が分からなくなっても言いたい事は理解できる。
「いくよ! 『全属性マスタリー』!! そして今度は全力のレインボーストライクだぁーっ!!」
「喰らいなさい!『連弾』『嵐突弾』!!」
ちまちました手加減攻撃なんかじゃない一撃で全てをぶっ飛ばすべく放たれた七色の魔力と、無数の風の砲弾がボスの体に突き刺さり、更にはそのまま巨体を吹き飛ばす。
「ゴアァァァァァ!!」
吹き飛んだボスは隠し部屋の奥の壁にぶつかると、そのまま磔のように壁に縫い付けられた。
そして役目を終えた魔法が消滅すると同時に、巨体が地面へと落下する。
ズズゥンという重い音と共にボスが崩れ落ち、隠し部屋の外からも重い音と振動がまる響き続ける。
「これで……どう?」
ちょっぴりそれはフラグじゃないと思いつつ、私達は本当にボスを倒せたのかと言葉を漏らしてしまう。
そして待つことしばし……
ボスが復活する様子は見られない。
と、その時だった。
『リロシタンのダンジョンが攻略されました』
来た! ダンジョン攻略のメッセージ!
『攻略者にはダンジョン制覇者の称号が付与されます』
「これは、ダンジョン攻略のアナウンス!? って事は今回のダンジョンはボス討伐がクリア条件だったのか!」
隠し部屋の外からも攻略のメッセージが聞こえてきたのか、騒然となっているようだ。
『攻略者に報酬が与えられました』
「やった! ボスを倒したんですね!!」
アートさん達もようやくボスを倒せたと安堵のため息を吐きながら床にへたり込む。
『これよりダンジョンの再構築を開始します。攻略者とその仲間はダンジョン外に強制転移します』
こうして、私達の長いボスレイドは終わりを告げたのだった。