第116話 リポップするボスとかいう悪夢(ギミックバトルってめんどいよね)
ダンジョンに指定された条件、フロア中に溢れたボスを同時に倒す。
最初こそグダッたものの、私達は同時にボスを倒した。
「「「「グォォォォォォン!!」」」」
なのにボス達は復活した。
「どういうことーっ!?」
言われた通りに同時に倒したんですけど神様ー!?
「タイミングが甘かったか? もっと厳密にタイミングを合わせる必要があるのか」
「おいおい、ボス相手にこれ以上とか勘弁してくれよ」
レイドに参加している探索者達に動揺が走る。
当然だ。ザコならともかくボスが何度でも復活するとかゲームじゃないんだから勘弁してほしい。
「ポーションの在庫が心もとなくなってきたな」
「ちっ、魔力回復ポーションを飲むしかないのか!」
一部違う意味で追いつめられている人もいるけどそれはどうでもいい。
問題はどのくらいフロアクリアの条件がシビアかってことだ。
「すまん遅れた! まだ戦ってる最中か!」
と、そこに遅れて探索者パーティが数組やって来た。
「援軍か! お前達だけか!?」
「いや、もう数組後から来る!」
「よし、手が足りない所に回してくれ!」
受付役の探索者に先導され、援軍パーティが戦力の足りなくなったエリアに案内されてゆく。
「皆聞いてくれ! 援軍が来た事で戦力が補充できた! もう一度頑張ろう! 次のとどめは時計を見て更にタイミングを合わせる!」
レイドの受付をしていた探索者の人がDホンを構えながらフロア中で戦っている皆に宣言する。
「やるしかないか!」
皆は疲れた顔をしながらも再びボスに挑んでゆく。
「くっ、三度目になるといい加減レアモンがうっとおしいな」
「いつもは探しても全然出てこない癖にな」
「全くだ」
ハハハと疲れと集中力の低下を笑って堪える探索者達。
そうして私達はレアモンの攻撃を掻い潜りながらボスにダメージを与えてゆく。
「そろそろだ! 全員攻撃を控えて回避に専念!」
「おう!」
流石に三度目となるとボスの動きの鈍り方から残りHPも予想がついてくる。
すぐさま攻撃を止めて回避と防御に専念。
するとDホンを手に連絡を取り合っていた受付の探索者が声を張り上げる。
「カウント30で止めを刺す! 全員攻撃準備!」
「「「「おう!」」」」
魔法使いが呪文を唱え、前衛がボスに向かって突撃を始め、回復役と防御役がレアモンの妨害に専念する。
「私達は上から行くよ!」
『おー!』
『キュイ!』
羽を広げてダンジョンの天井近くを飛びながらボスの視線に合わせて注意を引く。
これでブレス攻撃も私を第一に狙ってくるだろう。
「今だ!」
合図の声と共に、探索者達が一斉にボス目掛けて攻撃を放つ。
「今度こそ倒れろぉぉぉぉぉっ!」
誰かの祈る様な叫びが一斉掃射の轟音に掻き消える。
そしてボスが音を立てて崩れ落ちた。
「ど、どうだ?」
「あっ、バカ!」
果たしてそれがフラグを呼んでしまったのか、ボスが消滅した直後に再びボス出現の光が生まれる。
「この馬鹿野郎!」
「いや俺は悪くないだろ!」
「総員迎撃準備!」
「「「「グォォォォォォ!!」」」」
そして再び復活するボス達。
「何で復活するのーーっ!?」
「馬鹿な! 時間を合わせて一斉に攻撃したんだぞ! これ以上どうやってタイミングを揃えろってんだ!?」
4度目の復活にそこかしこから悲鳴が上がる。
「まさか号令が出てからとどめを刺すまでのタイムラグまで同時認定に引っかかるってのか?」
。
「あとはボスまでの僅かな移動時間、やパーティごとのダメージ量の差が止めを刺すまでの時間に影響するのか?」。
「でもそんなのを合わせようと思ったら、それこそボスのHPをゲームみたいに見れるようにしないと無理だよ」
はっきり言って不可能だ。
けれど魔物達は私達の泣き言なんか知った事かと攻撃を放ってくる。
「くぅ! こりゃもう撤退するしかねぇぞ!」
「だがここで下がったら次の討伐をする時に最奥のボスまで到着するのに時間がかかり過ぎるぞ!」
「けどこれ以上は無理だ。一旦戻って対策を練るしか」
「どんな対策を練るんだよ!?」
何度もボスが復活した事で皆が口論を始める。
「いかんな、疲れと集中力が途切れた事で戦闘に集中できなくなっている。個の戦いには優れているが、集団戦闘の練度が低いが故の弊害か」
と、リドターンさんがああでもないこうでもないと言い争いを始める探索者達に溜息を吐く。
「とはいえ、ボスの討伐条件を満たしているにも関わらず倒せないとあれば、元々の条件が間違っているのかもしれません」
「元々の条件が間違っているですか?」
ストットさんの言葉を思わずオウム返ししてしまう。
「はい、ボスの討伐条件はダンジョンの床に突然表示されたとの事です。しかしその通りに実行して失敗したのなら討伐条件の内容を読み違えた可能性があります」
つまり、伝言ゲームで伝わるうちに内容が間違っていったってこと?
「……いえ、それは無いと思います」
けどそれを否定したのはアートさんだった。
「これ、ダンジョンに現れたボス討伐の条件が現れた床の写真です。これを読む限りボスを同時に倒せって内容で問題ないと思います」
と、アートさんはDホンの画面に問題の写真を写す。
どうやらこの画像はネットで普通に出回っているらしい。
「となると同時とはどういう事だ? さすがにフロア中に広がったボスを寸分たがわず同じタイミングで倒すなど限界まで練度を極めた騎士団でも難しいぞ」
「それこそ全員が『中級連携』スキルを取得した騎士団でないと無理じゃろうな」
つまり神様達は最初からクリアさせる気が無かったって事?
いやでも神様同士が自分達の世界の人間はお前の世界の人間よりもスゲーんだぜってマウント取り合う為にやってるんだから、難易度が上がりこそすれクリア不可能にするとは思えない。
他に原因があるとすれば……
「ボスの数が足りないとか?」
「「「「「「「!?」」」」」」」
ふいにもらした呟きに皆の視線が集まる。
「それはどういう意味だ? フロア中のボスは既に確認している。見落とすなんてありえない」
と、周りと連絡を取り合っていた受付役の探索者が自分達が仕事をサボっていたとでもいうのかとばかりに睨みつけてくる。
「い、いや、皆さんを疑ってる訳じゃなくて、例えば一匹だけ姿が違うボスとか、あとほらええと……そう隠し部屋! 隠し部屋にボスが湧いている可能性もありますから!」
「「「「隠し部屋!?」」」」
そうだよ、隠し部屋だ。
ダンジョンには隠し部屋があるフロアがあるんだし、当然このフロアにも隠し部屋があってもおかしくない。
「そうか! その可能性があったか!」
「迂闊だった、当の昔に探索されて尽くしていると思い込んでいた!」
「ですがこのフロアは現状の最下層。ならば隠し部屋が残っていると考えた方が自然!」
「お主! このフロアで隠し部屋は発見されているか!?」
「いえ、それはないかと。もともと下層へ降りる階段を探して散々探索がされていましたので」
キュルトさんに問い詰められ、受付係の探索者がしどろもどろに答える。
でもそれも怪しいところなんだよね。
だって私は散々探索された第一層で隠し部屋を見つけ、更には魔法の袋を手に入れたんだから。
「最下層の地図を見せてください! 隠し部屋がありそうなエリアに目星をつけて調査してください!」
「この状況でか!?」
「この状況が一番安全なんです! 今撤退したら無限に復活するボスの群れの中で隅々まで戦う事になります! それよりもフロア中に探索者が広がっている今が一番調査が楽なんです!」
「わ、わかった! 全員に通達! ボスの潜んでいる隠し部屋がある可能性が出てきた! これから読み上げたエリアにいる連中は隠し部屋が無いか調べてくれ!」
『無理言うな! こっちはボスの攻撃を堪えるだけで精いっぱいだ!』
「何とかならんか!?」
『無理だ!』
けれど肝心のエリアでは探索者達が疲労困憊で探索どころではないとの応答が帰って来る。
「アユミ、行ってくれるか?」
リドターンさんが私に尋ねてくる。
「我々では時間がかかり過ぎる。だがアユミなら手の回らないエリアまで最速でたどり着いて捜索が出来るだろう」
私は考える、魔力はリューリと合体してるから有り余ってる。
『大丈夫! どんな敵が来ても私がぶっ飛ばしてあげる!』
移動はクンタマと分離して運んでもらえばいけるかな?
『まかせて!』
「いけます!」
私はクンタマと分離するとその背中に乗る。
「キュイ!」
「アユミ様、私達も行きます!」
と、アートさん達もついてくると宣言する。
「師匠達が強すぎて出番がなかったので私達はまだ余裕があります!」
「お役に立ちますわ!」
フレイさんとエーネシウさんも戦えると決意に満ちた声を上げる。
「クンタマ、全員を運べる?」
「キュイ!」
クンタマが余裕! とばかりに尻尾を地面に叩きつける。
「おっけー、乗って!」
「「「はい!」」」
「それじゃあ行ってきます!」
「任せたぞ!」
「気を付けてねアユミちゃん、貴女達も」
よーし、さっさと隠し部屋を見つけてボスをぶっ飛ばすぞー!




