第115話 恐竜大戦争(画像は想像図です)
最初こそ無限湧きするレアモンに戸惑ったものの、ボス戦は比較的順調に進んでいた。
改めてボスの特徴を解説すると、コイツはいわゆる首長竜タイプの爬虫類モンスターで、大きなヒレなどでとげとげしい以外は普通に恐竜っぽい。
大人気な魔物狩りゲームの敵キャラを連想してもらえば理解して貰えるだろうか。
「ブレス来るよ!」
「全員回避か防御!」
すぐさま冒険者達が大きく飛びのき、魔法使いが防壁や防御魔法を発動させる。
次の瞬間シュバァァァァァとボスのブレスが放たれた。
ボスのブレスは熱エネルギー系の攻撃で、炎ではなくビームみたいなやつ。
首長龍がビームを撃つのはどうなんだろうか。
「けどなんていうか、それ以外は普通に首長龍なんだよなぁ」
足が凄く長いとか爪がめちゃくちゃデカいとか羽が生えてるとかなくてシルエットだけで見るなら普通の恐竜なんだよね。
「そういえば私がちっさい頃に恐竜には毛が生えていた! とか言って凄いカラフルな毛皮を生やした恐竜の想像図がテレビに流れてたなぁ」
あれを見たお父さんがこんなの俺のティラノじゃないってガチ泣きしてたんだよね。
「あー、それ私も見たことあります。確か『時代と共に変わる恐竜の姿』とかいう特集だったような」
異世界でもそういうのあるんだなぁ。
「でも今ってダンジョンが出来て魔物が現れるようになったじゃないですか。それで恐竜タイプの魔物を見てこれが恐竜の本当の姿だとか言いう人が出てきて、いや魔物と恐竜は別の生き物だから同じに考えるべきじゃない。狼タイプの魔物と実際の狼は違うだろ見たいな口論が結構あるみたいですね」
ほえー、絶滅動物と魔物を紐づけて考えるのか。
それはこの世界ならではの考え方だなぁ。
「でも魔物って結構ヘンテコな姿してますし、そもそも物理法則を無視したのも多いから、やっぱ魔物を参考にするのは止めた方が良くないって考え方が主流みたいですね」
「ふーん」
などとボスのブレスを凌ぎながら雑談に興じる私達。
「お前等今は戦闘中だぞ。真剣にやれ!」
「「ごめんなさい」」
いかんいかん、近くにいた探索者のおじさんに叱られてしまった。
「ちなみに俺は魔物と恐竜は別物派だ」
さいで。
「いや、俺は魔物の外見は参考になると思う派だな。魔物の中にも実在の生き物と酷似する外見の個体は少なくない。それを考えると恐竜型の魔物の外見は実在する可能性があると思うね
「いや俺は」
「待て待て、私は」
いかん、気が付いたらキノコタケノコ戦争みたいな事になってる。
「お前等いい加減にせんか! そんな話は戦いが終わってからにしろ!」
「「「「ごめんなさい」」」」
遂にリドターンさんに叱られてしまった。しかもスキルを使って声を大きくしてだ。
いかんいかん、反省して戦いに集中しないと。
「そんじゃ行くよ!」
ボスのブレスが終わるのと同時に私達は飛び込む。
ブレスを吐いた直後で動けなくなっているボスを守ろうとレアモン達が立ちふさがるけれど、それを受付スタッフを担当していた探索者達が受け持ち私達に道を開けてくれる。
「攻撃力の低い連中は火力のある連中の為に道を作れ!」
「任せたぞお前等!」
「おうよ!」
ボスの足元までやって来た探索者達を迎え撃たんとボスが前足を上げて踏み潰そうとする。
「『水鞭』!」
そこにリュートと妖精合体した私が水の鞭で上空から攻撃し、ボスの注意を逸らす。
「ゴァァァァァッ!」
不意打ちを喰らったボスが怒りの雄叫びを上げるも、今度は足元に集まっていた探索者達がボスの体を支えている後ろ足に一斉攻撃を喰らわす。
「どっせーい!」
「おおりゃあああ!」
片足に集中攻撃を受けたボスは堪らず地面に倒れ込む。
すると探索者達が魔法で地面から岩や土を生やしてボスの首を固定してゆく。
「これで狙えないだろ!」
首を固定された事でボスの動きが大きく制限される。
あれなら狙ってブレスを撃つ事も出来ない。
「よし! 削れ削れ!」
一斉に探索者達がボスに攻撃を叩き込んでゆく。
アートさんやフレイさん、エーネシウさんもボスに攻撃を放つ。
「反対側の前足も削って立てなくしましょう! 二人共手伝って!」
「承知!」
「任せなさいな!」
アートさんが二人に指示を飛ばすと、二人はボスの負傷した後ろ足とは反対側の前足を攻撃する。
「ゴォォォォ!」
前後の足を傷つけられた事でボスが身を大きくのたうち抵抗するが、首を何重にも固定されている為上手く動けないでいる。
「よし、結構ダメージ与えたね」
ここからはボスを倒さないように気を付けないと。
「おおりゃあああああ!」
けれど、何人かの探索者が興奮し過ぎてボスに勢いの乗った攻撃を叩き込む。
「ちょっ! ボスを倒しちゃ駄目だって!」
「何言ってやがる! さっさと倒すのが常識だろ!」
アカン、熱くなりすぎて作戦を忘れてる。
「今回は皆でタイミングを合わせて倒すんだって!」
「「「あっ」」」
言われてようやく思い出した探索者達だったけれど、気付くのが遅すぎた。
「グォァァァァァァァァァァッッッ!!」
ボスが断末魔の悲鳴を上げて体をひと際大きく震わせると、そのまま動かなくなってしまったのだ。
「「「「ああーっ!!」」」」
その光景を見ていた全員が悲鳴を上げる。
「おまっ! どうしてくれるんだバカ野郎!」
「す、すまん!」
「伝令急げ! ボスが倒された!」
「は、はい!」
咄嗟に出たキュルトさんの指示を受け受付兼伝令役の探索者さんが急いでDホンで連絡を始めると、遠くから激しい魔法の音が聞こえてくる。
多分他の場所でも急いでボスを倒し始めたんだろう。
そしてとどめとおぼしき轟音が幾つか聞こえて来るけれど、未だ戦闘中らしき音がまだ止まない。
「どうなるんだ……?」
このフロアの攻略条件はボスを同時に倒す事。
けれど私達の担当しているボスはもう倒されてしまい、未だ戦闘中の区画が残っている。
同時に倒さなかったらどうなるのか、今戦っているパーティは間に合うのか? 皆が固唾を飲んで見守る。
その時だった。フッとボスの姿が消えたのだ。
「消えた!? 間に合ったのか!?」
ボスの姿が消えた事で皆が浮足立つ。
けれど、私達は違うと気づいていた。
だってまだ戦闘の音が聞こえるのだから。
それが正しいと再びダンジョンの床に光が生まれる。
「グォォォォォォォン!!」
それは、傷一つないボスの姿だった。
「ボスも無限湧きかぁ……」
これ、下手したら物凄く大変な戦いになるかも。