第113話 受付到着(かなりギリギリでした)
「着いたー!」
ダンジョン内をかっ飛ばし、なんとかレイド開始前に私達は最下層へたどり着いた。
「レイド参加者か? ギリギリだな」
最下層の階段を出ると、そこにはプリントを配るおじさん達の姿があった。
「ほれ、お前さん達はマップのWの所に出たボスを担当してくれ」
おじさんから渡されたプリントはこのフロアのマップで、赤文字でWと書かれた場所に〇がうってあった。
「事前説明は受けていると思うが念の為に説明するぞ。ボスとの戦闘だが、倒せそうになっても止めは刺すな。今回のレイドは全てのボスを同時に倒す事が攻略条件だからな。Dホンをトークチャットモードにして、ここに描かれた番号を入力。全体通話モードになったら通話状態をスピーカーモードにしてこちらからの指示を聞けるようにしておけ。ボスに止めをさせそうになったら攻撃を止めて俺達に連絡。全てのボスを倒せる直前まで持っていったら攻撃許可を出す。配信者は配信も同時にしてくれ。視聴者にも指示や戦況報告を手伝ってもらうからな」
おじさんはテキパキと説明を終えると、私達のDホンが通話モードになっているのを確認してゆく。
「よし、それじゃあ急いで配置についてくれ」
「はーい」
マップを見ながら移動してゆくと、そこかしこに探索者の姿が見える。
そして通路にも等間隔に探索者達が待機していた。
「なるほど、あの探索者達が目視でレイド状況を確認して口頭で報告する訳なんですね」
アートさんが成程と待機している探索者達を見て頷く。
「ですがDホンと配信があるのならわざわざ口頭での連絡をする者は不要なのでは? その分の戦力をボスとの戦いに投入すればよいのに」
「いや、強力な魔物のボスとの戦いだ。どんな想定外の事態が起きるともしれんだろう。万が一の時の為に複数の連絡手段はあって然りだろう」
Dホンがあればわざわざ人を使う必要なんてないんじゃないかと効率の悪さに首をかしげるエーネシウさんに対し、フレイさんは想定外のトラブルが起きた時のことを考えると必要だと反論した。
確かに、魔物との戦いは何が起きるか分かんないもんね。
「それに彼等はただの連絡役じゃない。戦況によっては彼等自身が戦力の不足している場所に援軍として向かう為だろう」
あ、そっか。スレイオさんの言う通りだ。
レイドに参加する探索者達が全員ボスに勝てるとは限らないもんね。
単純な戦力不足やイレギュラーな事態が起きる可能性は十分にある。
「こっちは配信の魔力状況問題ありません。皆さん聞いてた通りです。全体の戦況連絡や運営への報告のお手伝いお願いします!」
『任せて。久しぶりの視聴者参加型の戦いだから頑張るぞー!』
『レイド運営からの報告あったらすぐに連絡するから、こまめにコメント欄見てね』
視聴者の人達は困惑することなくアートさんの呼びかけに答えている。
もしかしてこの世界の人ってこういう事態に慣れてたりする?
「現代ファンタジーの住人は逞しいなぁ」
そんな感じで移動してると、通路で待機している連絡役の探索者達が魔物と戦っているのが見える。
けれど周囲にいる探索者達は彼等を援護するそぶりも見せない。
「何で周りの人達手伝わないんだろう?」
普通だったら獲物の奪い合いに発展するから余程の事態でないと手出しをしないものだけど、今回はボス退治のレイドバトルの直前だ。
皆で一気に倒した方がよくない?
「それはあれだな。他の連中はボスとのレイドに専念してもらいたいからだろう」
と、スレイオさんが他の人達が手伝わないのではなく、手伝わせないのだと予想する。
「だろうな。あ奴等はボス以外の魔物を担当する露払いでもあるのじゃろうて」
キュルトさんの言葉に私はハッとなる。
確かにそうだ。私達の目的はボスの討伐だけど、当然ボス以外の雑魚もいるもんね。
そう言った連中の相手も彼等はしてくれているようだった。
「おお、ありがたいありがたい」
「うわっ!? 何で拝んでんだ嬢ちゃん!?」
「お仕事お疲れ様です」
「お、おう。お前らも頑張れよ」
「はい!」
そうして私達は自分達の担当するエリアに到着する。周囲を見回せば同じエリアでも離れた場所に探索者パーティの姿が見える。
どうやら一つのエリアに複数の探索者パーティが配置される形になっているらしい。
『全員配置に着いたようだな!』
私達がエリアに到着すると当時にDホンから声が聞こえてくる。
『細かい打ち合わせはフロア入り口で聞いた通りだ。そしてボスの出現までもう間もなくだ。例のフロアの床に描かれた文字が光を帯びて点滅を始めた。多分カウントダウンしてくれているんだろう。気の利いた事だぜ』
あー、どっちかの大神の演出なんだろうね。
『点滅が早くなってきた! そろそろ来るぞ! 総員戦闘準備!』
その声に従い私達は武器を構えて周囲を警戒する。
と、同時にすぐ近くの床が光を帯びる。
「皆離れろ!!」
リドターンさんの指示に私達は床の光から離れる。
その直後、光の中から巨大な魔物が浮かび上がって来た。
「来た、ボスだ!」
ボスの姿は巨大な首長竜の様で、けれどいつかテレビで見たような恐竜の想像図に比べると随分ととげとげしい姿をしており、また大きなヒレも生えていた。
そして現れたのはボスだけじゃなかった。
「え? あれって……」
ボスの出現に続いて、床の光から青いモノが浮かび上がってくる。
「あれは、青い魔物……?」
出現したのは何体もの青色の魔物達。
あれ? でも確か青色って……
「なっ!? 嘘!? あれってレアモン!?」
アートさんの声に私は思い出す。
そうだ、青色の魔物と言えばレアモンだ。
「「「「レ、レアモンの群れェェェェェェェ!?」」」」
ダンジョンの中に衝撃の声が響き渡ったのだった。