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第111話 最下層に行きたいんですけど(こういう時に限って)

「さぁ、今度は私達の番ですよ!」


 お爺ちゃんとお婆ちゃん達の実力のお披露目が終わり、アートさん達が満を持してと前に出る。


「あっ、配信したいんですが皆さん良いですか?」


 と、アートさんがDホンを取り出して配信をしても良いかと尋ねてくる。

 うんうん、前回の反省が活きてるね。


「ああ、私は構わないぞ」


「配信というものは初めての体験ですが、貴族たるわたくしの活躍を衆生に見せる事は何よりの娯楽であり安寧を実感させるもの。かまわなくてよ」


 意外にも、配信など縁もゆかりもない二人はノリノリで合意した。


「アユミ様も良いですか!?」


「私は良いけど……」


 ちらりとタカムラさん達とリドターンさん達を見る私。


「貴方達の戦いを見せるのでしょう? 私達が少しくらい映っても特に問題ないわ」


「そうだねぇ。こんなババァが映っても誰も嬉しくないだろうしねぇ」


 かかと笑うオタケさんに対し、リドターンさん達も静かに頷く。


「我々も他の探索者の攻略配信を参考にさせて貰っているからな。我々の戦いが後進の役にたつのなら喜んで、とは言わないまでもかまわないさ」


 いつの間にかすっかり異世界の文明にドハマリしているリドターンさん達。

 このお爺ちゃん達、年齢の割にめっちゃ順応性あるよね。


「私もいいよー」


「キュイ!」


「ありがとうございます!」


 全員の許可を取った事で、アートさんがDホンの配信機能を起動させる。


「皆さんお早うございまーす! 今日は突発配信だよー! 気付いていない人がいたら教えてあげてね!」


 アートさんが虚空に浮かぶ球形の魔法陣に向けて話しかける。

 私自身もDホンを使うようなって分かったんだけど、あんな風に配信用の魔法が撮影をしてるんだねぇ。

 そりゃ一人で配信しようと突っ込む子供が出てくるわけだ。


「今日はいつもの皆以外に新しい人達もいるけど、あんまり気にしないでって事です」


 アートさんがさらっとタカムラさん達の事を流す。

 積極的に映さないけど、無断でよそのパーティを撮影している訳じゃないって伝えてるみたいだ。


『おっ、久しぶりのアートちゃん配信』


『なんか暫く修行してくるって言ってたからなぁ』


『全世界総ダンジョン配信時代に修行ってなんかウケるw』


『果たしてアートちゃんは強くなったのか。期待を込めてお布施¥500』


「あっ、さっそくのお布施ありがとう!」


 などと一通りに会話を終えると、私達は移動を再開する。


「今日は噂のダンジョン内ボスレイドに参加する予定です!」


『あー、あのフロア内全部に湧くボスを同時に倒さないといけないっていう鬼畜レイド』


『そんなんあったのか』


『情弱過ぎ。ニュースくらい観とけ』


『でもアートちゃん出て大丈夫なの? 実力的に』


「むっ、失敬な! 私これでも強くなったんですよ! 師匠達の修行を受けて! 受けて……う、うけ……プルプル……」


「落ち着けアート! 深呼吸だ!」


「そうですわアートさん! 今は修行中じゃありませんのよ! ヒッヒッフーですわ!」


 それは深呼吸ちゃう。

 というかリドターンさん達一体アートさん達にどんな修行してたの?

 ちらりと視線を向けりと、リドターンさん達はしごく真っすぐな表情でこう言った。


「別に、ごく普通の修行をしただけだが?」


「「「うそだぁーーーーーーっ!!」」」


 お弟子さんはそう言っていますが?


「やれやれ、ちょっとしごいただけで若いもんはなさけないのう」


「アレはちょっとなんて生易しいものじゃないですわー!」


「格上の魔物の巣窟に文字通り高台から放り込まれた時は今度こそ死ぬかと思ったんですが……逃げ場もなく四方八方から襲われて……ううっ!!」


 何かトラウマになってるじゃん。


『イケオジなのになんかヤバいんですけど』


『このオッサン達が師匠なのか? イケオジムカつくけど怖いので画面の向こうから吼えます』


 駄目だ、視聴者は役に立たない。


「ほらほら、修行の成果を見せるんでしょ? レイドの時間も近づいてるし、早くいこっ」


「はっ、そうでした! さぁ、いつでも来い魔物ども! 日頃の鬱憤を晴らすためにお前達を蹴散らしてくれる!」


 鬱憤って言っちゃったじゃん。

 ほら、後ろのお爺ちゃん達がおっ、そんだけ元気ならまだシゴけるなって顔になってるよ。


 そんな感じでダンジョンを進んでゆくと、キィンキィンと金属がぶつかる音が聞こえてくる。


「誰かが戦ってるみたいだね」


 基本的にダンジョン内の戦闘はお互いにノータッチがマナーだ。

 何も考えずに助太刀とかしちゃうと、魔物を倒した際の経験値分配に影響が出ちゃうからね。

 それが原因で過去に悪質な経験値横取りが起きたり、勘違いで善意で何の問題もなく戦っていたパーティに助太刀しちゃった人達がいて結構な問題になったんだとか。

 経験値はお金と違って返す事が出来ないからね。


 だから相手から助けを求められて、Dホンによる証明動画を撮影をしてようやく戦いに参加できるんだって。

 そこらへん、スキルを取得して強くなるエーフェアースとはまた違った苦労があるみたい。


「確認出来る所まで近づいて、戦いが長引きそうなら迂回しましょう」


 こういった事態に慣れているタカムラさんが対応法を皆に説明してくれる。

 そして戦いの現場に近づいていくんだけど、どうにも様子がおかしい。


「くっ! 回復まだか!」



「駄目だポーションが切れた!」


「不味いよ、逃げようよ!」


「この状況でどうやって逃げるんだよ!」


 と、明らかに劣勢と言った感じだ。


「これはいけないわね。皆急ぐわよ」


 と、危険を感じとったタカムラさんが走り出す。


「聞こえるかいアンタ等! 援護は必要かい!?」


 現場が見えないにも関わらず、オタケさんが大きな声で呼びかける。


「っ!? 誰かいるのか!」


「助けてくれ! レアモンに囲まれてる!」


 レアモン、通常その階層よりも下の階層にいる魔物と同等の強さを持つ実質ボスみたいな強さの魔物だね。

 もっと下層まで潜る探索者ならともかく、ここが適正レベルの探索者なら絶望的な相手だ。


「アートちゃんが配信してるから証明動画の必要はないわ! 姿が見えたら即魔法で援護! 前衛は真っすぐに突っ込んで!」


 慣れた様子で指揮を飛ばすタカムラさん。

 そして戦闘現場が見えると、キュルトさんが速度を緩めてスキルを発動する。


「『誘導』『火弾』!!」


火弾が弧を描いで今にも殺されそうになっている人を襲っていた魔物を直撃する。



「グガァァァァァッ!!」


「『烈駆』」


 スレイオさんがスキルを発動させると、ロケットみたいな速度で前方に跳躍する。そしてわずか数歩で戦場に到着すると両手に持った短剣で魔物達を切り割いた。


「ギギャアァァァァ!!」


 新手の出現に魔物達が浮足だつ。

 その隙を逃さぬとばかりにお爺ちゃん達とお婆ちゃん達が魔法とスキルで高速の移動を行い一気に距離を詰めると魔物達を一瞬で殲滅してしまった。


「うわーお」


鎧袖一触とはこのことか。憐れレアモン達は私達が到着する前に一掃されてしまったのだった。

 お爺ちゃん達強すぎぃ!

 あと知らないスキルが飛び出たんですが何ですそれ?


「た、助かった……のか?」


 おっといけない要救助者を忘れていた。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。助かった」


 探索者達は命の危機を脱した事で、冷静さを取り戻すとヨロヨロと立ち上がって私達にお礼を言ってくる。


「あら、重傷の人がいるわね。このポーションを使いなさい」


「あ、どうも……ってこれ中級ポーションじゃないか!?」


「流石にこんな高価な品は……、俺は初級ポーションで構いませんから」


 対価を取られると思ったのか、中級ポーションを差し出されて尻込みする探索者達。


「何言ってるの。ダンジョンで受けた深い傷は速く治療しないと重症化する事が多いのよ。貴方達ポーションが切れたんでしょ? 傷が治りきってない状況で帰り道の魔物相手に戦えるの? 今度こそ大怪我をして死んだらどうするの?」


「それは……はい」


 ぐうの音も出ない正論を受けて、怪我をしていた探索者は大人しくポーションを受け取った。


「ありがとうございます。お陰で助かりました。このお礼は必ずしますので」


 傷の治った探索者はしっかりとした足取りで立ち上がると、タカムラさんに頭を下げる。


「気にしなくていいのよ。探索者の先輩の余計なおせっかいなんだから」


 と、タカムラさんはポーションの代金も気にするなと暗に告げる。


「で、でも……」


「私達お婆ちゃんの事なんて良いから、その分貴方達の後輩が困っていたら力を貸してあげて。ねっ」


「……分かりました」


 年の功とばかりに言いくるめられてしまった探索者達は、これ以上食い下がっても迷惑だろうとお婆ちゃん達の善意を受けとめる。


「あの、お礼という訳じゃないんですけどこれから潜るなら気を付けてください。今日は妙に魔物達の気が立ってるみたいで、やたらと攻撃的なんですよ」


「まぁ、そうなのね。教えてくれてありがとう」


 そうして、探索者達と別れた私達は再び下層へ向けて動き出したんだけど……


「た、助けてくれぇー!」


 またしても助けを求める声に遭遇してしまったのだった。


「また誰か襲われてるの!?」


「先ほど魔物の気が立っていると言っていたが、どうやら手ごわさも上がっているようだ! これは気が抜けないな!」


 と、これまで良い所の無かったフレイさんが今度こそ自分の出番だと先頭に立って駆ける。


「そうですわね! 貴族として弱き者を守るのは当然の役目! わたくしの魔法で……」


「うわぁぁぁ!」


「いかん!」


「先に行くわね!」


 エーネシウさんがセリフを言いきる前に悲鳴の主の姿が見えた瞬間、リドターンさん達とタカムラさん達が飛び出す。

 まさに突風とばかりの素早さで戦場に飛び込んだお爺ちゃんとお婆ちゃん達は、今まさに殺されようとしている探索者と魔物の間に割り込み、一瞬で魔物達を殲滅してしまった。


「しょぼーん……わたくし、弱き者ですの?」


 ええと、比較対象が悪かったって事でひとつ。

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まさか、神が気づき始めたとか?
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