第110話 大人の取引と修行の成果(若さは強さ)
「次は我々の番だな」
次の魔物が現れると、今度はリドターンさん達が前に出る。
見た目のインパクトと破壊力重視だったタカムラさん達と比べ、リドターンさん達は普通だった。
「はぁ!」
剣と盾を構えて堅実に魔物の攻撃を受け流しながら切り捨てるリドターンさん。
「ふっ」
魔物の攻撃を回避しながらすり抜けざまに敵を切り捨てるスレイオさん。
「だぁ!」
防御魔法で敵の遠距離攻撃を防ぎながら自身もメイスで叩き潰すストットさん。
「『火連弾』!」
魔法を放ち後方の敵を纏めて撃ち貫くキュルトさん。
はい、凄く安心する普通っぷりでした。
「こんなものかな」
息を切らせる事なくあっさり戦いを終わらせたリドターンさん達。
「お見事です」
「大したもんだねぇ」
「積み重ねた基礎を感じたわ」
「そうね、実戦で積み重ねた安定感と言うのかしら」
タカムラさん達の評価も高く、お互いの実力をしっかり見せ合えたお爺ちゃんお婆ちゃん達。
「やっぱり若いって良いわねぇ。私達はもうアンタ達みたいに滑らかに体が動かないわ」
何て自虐っぽく軽口を叩くオタケさん。
「なら若返って見ませんか?」
そう提案したのはストットさんだった。
「え?」
「アユミさんから受け取った若返りのポーション、あれを定期的に使ってみませんか?」
「……どういうお話かしら?」
タカムラさん達の間にピリリとした空気が走り、全員の目が鋭いものになる。
「アユミさんの作った若返りのポーションはまだ詳細な情報が集まっていません。薬の効果はどれだけ続くのか、時間制限があるのか永続なのか。肉体への負担は無いのか、性別、年齢、病気など有無は影響を与えるのか。そういった様々な検証をしている最中なのです」
「つまり私達にモルモットになれと?」
自分達を利用するつもりかとタカムラさんがこれまで聞いた事の無いような凛とした迫力のある声で尋ねる。
タカムラさんっておっとりしたお婆ちゃんだと思ってたんだけど、あんな声出せるんだ。
「我々で実験してますが、どうしても検証には数が足らないのです」
「呆れた、自分も実験台にしてんのかい」
「私には連続投与の影響を確かめています。彼等は濃度や効果を発揮する下限の量の確認など、様々な角度から効果を試して貰っています」
え? マジで? そんな事してたの!?
「それ、アユミちゃんの負担になってたりしない?」
と、フルタさんが私に迷惑をかけていないかとストットさんを問い詰める。
「その辺りは儂が無茶をせんよう監修しておる」
と、キュルトさんがフォローに回る。
「成る程ね。確かに薬の効果を検証したいのなら幅広い人材を使って調べる必要があるものね」
セガワさんが成る程と頷くけれど、やはり目の光は鋭いままだ。
「でもアユミちゃんにどれだけ利益があるのかしら? あのポーションの件でこの子はかなり迷惑を被っているのよ」
ああうん、色んな人に追いかけまわされて、探索者協会が若返りポーションの販売仲介を提案してくれるまで逃げ回っていたからね。
「寧ろアユミさんが何も考えず手に入れたものをバラ撒いていた方が問題になっていたでしょう。我々が薬の効能を深く理解しておけば、いざと言う時に代わりに責任を取る事が出来ます」
「ええ!? そんな事考えてたんですか!?」
そんな、私はお爺ちゃん達に責任を肩代わりしてもらおうなんて思ってないよ!?
「素直に信じるんじゃないよ。こういう胡散臭い男の言う事は言葉半分くらいで聞いとくもんだ」
お、おう、辛辣ぅ……
「やれやれ、警戒されたものですね」
そんな緊迫した空気のなか、リドターンさんがタカムラさんの前に出る。
「信頼できないのも無理はない。貴方がたからは我々がアユミを利用しているように見えるだろう。だが信じて欲しい。この子は、我々にとっても可愛い弟子なのだ。その信頼を裏切る事は、決してしない」
真っすぐにお婆ちゃん達を見つめるリドターンさん。
「……分かりました」
すると、タカムラさん達は深い溜息と共に肩の力を抜いた。
「あれ? 私の時と比べてあっさり信用しませんでした?」
「お前さんはうさんくさ過ぎるんじゃ」
ああうん。ストットさんはね。物凄く生臭坊主だから。
「そう言う事なら私達も協力させて貰います。私達が目に見えて若返れば、未だにうろついている人達の目をこちらに引き付けられますからね」
「ご理解いただけて感謝する」
ニコリと笑顔で握手を交わすリドターンさんとタカムラさん。
どうやらお互いに打ち解け合う事が出来たみたいである。
「あのー、そろそろ私達も修行の成果をお見せしたいんですけどぉ……」
そんな空気の中、申し訳なさそうにフレイさん達がもう戦っていいですか? と声をあげたのだった。
ゴメン、すっかり忘れてたわ。