第107話 隠し部屋大改装大会(乙女の心の衣替えなのです)
「どうにも殺風景だなぁ」
ダンジョン探索を終えて隠し部屋に戻って来た私は、休息のために家具一式を並べた光景に風情の無さを感じていた。
まぁね、そりゃあそうだ。
石造りの冷たいダンジョンの小部屋の中にポツンとソファやテーブルが置いてある。
寧ろシュールですらあるよ。
「うん、これはよくない。とてもよくない」
具体的には精神衛生的によろしくない。
今までは命懸けでそれどころじゃなかったりお金が無かったりで気にしている余裕が無かったけれど、今の私はそれなりに強くなったし懐も温かくなった。
ならば次にする事は人間らしい落ち着いた空間を手に入れる事ではないだろうか?
「という訳でマイルームの大改造をします!」
「おー!」
「キュイー!」
リューリとクンタマがパチパチと拍手をして場を盛り上げてくれる。
「まず殺風景で冷たい床には絨毯、だと面倒なのでホームセンターで買ったフローリング用の薄い畳を敷きます! でもそのまま置くと畳が傷むので、その下に組み立てマットを敷きます!」
ジグソーパズルみたいに端っこの凹凸をはめ込んで組みたてるマットを設置し、その上に薄い畳を置く。
「更に殺風景な壁の代わりにこれまたホームセンターに売っていた大型のメッシュパネルを設置! そこにアクセサリや綺麗な布を壁紙の代わりに吊るして簡単な仕切りにします!」
これで一気に華やかな見た目になったよ!
「そして天井の岩と岩の境目にねじ式のフックを埋め込んで、ランプ型のルームランプを設置!」
これでうすぼんやりとしたダンジョンの一室が一気に明るくなりました。
ランプは灯りの色合いが違うものを数種類買っておいて、その日の気分で色を変える予定。
こんな風に贅沢に付け替える事が出来るのも荷物がたくさん入る魔法の袋のお陰だね!
「更にソファーにはフワフワのクッションやぬいぐるみをセットオーン!」
ボスッという音を立ててクッションとぬいぐるみがソファーに同席する。
「これで一気にオシャレな見た目になったね!」
うんうん、中々いいぞ。
「毎回出し入れするのは面倒だけど、やっぱ家に帰って来たっていう安心感が欲しいもんね」
本当は隠し部屋の壁に壁紙を張ったり、床を改装してガッツリ改装したかったけど、ダンジョンでは外から持ち込んだ品は一定時間使わないでいると取り込まれてなくなっちゃうんだよね。
だからどうしても今回設置したもののように簡単に持ち運びが出来るようにする必要があったんだ。
「ほんと魔法の袋様々だよー」
でなけりゃこんな荷物になるもの持ち込めないもんね。
「テレビとかも持ち込めれば良かったけど、ダンジョンの中じゃ普通の電波は通じないみたいだしねぇ」
ダンジョン内で使えるDホンは魔力を使った特別な通信だから、月々の通信費やスマホ代がお高いらしいんだよね。
なのでテレビ番組とかの通常の電波の配信はコストの問題でDホン対応になってないんだって。
まぁ危険なダンジョンの中でのんきにテレビを見る人もいないだろうし、そりゃテレビ局も配信設備を無駄に高いダンジョン対応にはしないか。
「しかもバスタブとダンジョン探索用の簡易シャワーを設置して浴室も完備! お湯は魔法で確保できるし、ダンジョンが勝手に吸収してくれるから排水の心配もなし!」
一応お風呂に入る時は仕切りの配置を変えるよ。気分的な問題で。
ちなみにダンジョン世界なのでシャワーの動力は電気じゃなくて魔物からゲットできる魔石を動力にしてるんだって。さっすがファンタジー世界!
「更にダンジョン用の簡易トイレセット! 専用の仕切り板もついてるよ!」
こちらは連泊を前提にしたダンジョン用の組み立て式トイレセット。
魔法の袋かそれに準ずる輸送用の装備を持っている大人数パーティ御用達の品で、簡単にトイレを組み立てる事が出来るのだ。
ちなみに排泄物は折り畳みの便座の内側に凝固剤と消臭剤が入った袋をセットして、使用後は口を縛って通路の端っこに置いてダンジョンに吸収してもらう仕組みです。
「よーし、一気に文明的な光景になったね!」
これはもうちょっとしたワンルームマンションだね。
これでリラックスした生活が送れるよ。
「ねーねー、私用の家具も欲しいー!」
などと私が満足しているとリューリが自分用の家具が欲しいとおねだりしてきた。
「リューリの家具?」
「うん! 私も自分用のベッドやソファが欲しい!」
ふーむ、リューリ専用か。確かに一緒のソファでゴロゴロしてると、うっかり踏みつぶしちゃう危険があるもんね。
そう考えるとリューリ専用の家具はあった方が良いのかもしれない。
ただリューリ用というとおもちゃ屋さんで売ってるドールハウスみたいなやつ? でもおもちゃ屋に売ってるのは流石に安っぽいし、そうなると特注?
「あー、そうなるとどこかのお店で注文しないとか。でも注文するとしたら会員登録とか必要だよねぇ。でも私戸籍ないしなぁ」
ていうかどういうお店で頼めばいいのかも分かんないよ。誰か良いお店を知ってる人いないかな。
「アートさんは修行中でそれどころじゃないだろし……そうだ! タカムラさん達にメールで聞いてみよっと」
前に連れて行ってもらった服屋さんでリューリの服を作って貰えたし、その辺りのツテを頼れば家具を作って貰えるお店を紹介して貰えるかも。
てなわけでメールを送るとさっそく返事が返って来た。
『それならドール職人に頼むと良いわ。リューリちゃんのサイズなら私達が大雑把に分かるし服じゃないから細かい採寸の必要もないと思うわ』
成程、ドールっていう手があったか。
あれだよね、子供位の大きさの動かせる人形にゴスロリ服とか着せる奴だよね。
『よろしくお願いします。代金は次に会う時にお支払いすればよいでしょうか? それとも前払いですか?』
『その辺りはこちらで話を付けておくから、現物が完成したら連絡するわ』
という事で無事リューリの家具を注文する事になった……のだけれど。
◆
「うわーっ、すごーい!」
二週間後、タカムラさんからリューリ用の家具が完成したとのメールを受け取った私達は、若返りのポーションの件もあって秘密裏に彼女達に逢いに行った。
そして受け取った家具セットは、トンでもない代物だったのである。
もうね、見た目が王様や貴族のお姫様が使いそうなゴージャスなヤツだったの。
うん、絶対高いわこれ。数万とか平気で行くやつだよ。
「これ凄く高いんじゃないですか?」
流石に幾らしたのか聞くのが怖い。
「心配はいらないわよ。大半の素材は職人が自分で採取してきた元手ほぼゼロって話だから。費用は製作費くらいでいいですって」
「いやいや、それは流石に悪いですよ!?」
どう考えてもそんな値段で買えるものじゃないよ!?
「でもねぇ、そう提案してきたのは向こうの方なのよ。本物の妖精に自分の作った家具を使って貰えるチャンスなんて次はいつあるか分からないからって」
「それでも代金はちゃんと支払わないと駄目ですよ」
私が強く言うと、タカムラさんは肩をすくめて苦笑する。
「そう言うと思っていたわ。だからお互いが納得できるように安く譲る為の条件を考えてもらったわ」
「条件ですか?」
なんだろ、ドールに使えそうな素材をダンジョンで集めてこいとかかな?
「リューリちゃんが実際に家具を使っている所を撮影してその画像を送って欲しいですって」
「画像をですか?」
「そう、宣伝のためにモデルになって欲しいですって、嫌なら外には出さずに自分が個人的に楽しむために使うそうよ」
個人的にってどういう……
「んー、別にいいんじゃないのー。私もコレ気に入ったし」
と、当のリューリから気軽にオーケーが出る。
「いいの? 沢山の人に姿を見られちゃうよ?」
「写真ってあの凄く細かい絵の事でしょ。別にそのくらい良いわよ」
そんな訳であっさり提案を受け入れたリューリの撮影会が始まる事となった。
一応先方から撮影ポーズの参考としていくつか指定ポーズを受け取っていたので、まずはそれを元にリューリをパシャパシャ。
「ふふーん、綺麗に撮ってよね」
「任せて!」
まるでモデルとカメラマンみたいな会話をしながら私達は撮影を行う。
「いいよいいよー、可愛いよー!」
「ふふーん」
興が乗って来たのか、リューリも指定ポーズ以外のポーズをノリノリで取り始める。
ついでに私も撮影が面白くなってきて、ガンガン写真を撮り続けた。
その結果数百枚に及ぶリューリの写真が撮影され、それらはドール職人の下に全て送られたのだった。
「でも一番評判が良かったのはソファーで涎垂らして寝てる姿なんだね」
「なんでそんなのまで送っちゃったのよー!」
だって撮った写真は全部送ってっていわれたし。
まぁあれだ、すっかり家の中で飼われる事に慣れきって野生をどこかに忘れて来たようなとろけたポーズで寝る動物の写真に人気出るノリだよね。
「キュイ!」
プンスカしているリューリとは対照的にご満悦な声が下から聞こえてくる。
そこにはホームセンターのペットコーナーで買った丸形の猫ベッドにもぐりこんでご満悦なクンタマの姿があった。
「クンタマは本当にそれでよかったの?」
「キュイ!」
高級家具をゲットしてご満悦なリューリとは対照的に、クンタマはお値段2980円のペット用品に大喜びだ。
「君は金がかからなくていいねぇ」
今年も一年お読みいただきありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。




