第104話 カニを配るケモ娘(これって一種の怪異なのでは?)
「「「美味―い!」」」
トレーラーキャンサーの子供を大量にゲットした私は、修行で頑張っているアートさん達を労う為カニパを開催した。
途中カニ鍋の準備をしたりしている最中に中級料理スキルをゲットしちゃったんだけどいいのか?私はただ鍋の準備をしてスーパーで買った調味料を入れたりしただけだぞ?
もしかしたらこの世界、行動の最終的な結果のクオリティでスキル取得の有無が決定されるんじゃないだろうか?
でないとこんなに簡単に中級スキルを取得できた理由が説明できない。
などとゴチャゴチャ悩んだもののカニの美味しさには勝てなかったよ。
はい、予想以上の美味しさに悩みとか吹っ飛びました。
あんなに大量にゲットできたから味はそこそこなんだろうなと思ったら全然そんな事なかったよ。
「「「もむもむ」」」
皆最初の一言以外は一言もしゃべらずカニを夢中で食べる。
「ほう、これは良いな。酒に合う」
「このカニばさみと言う道具は便利ですねぇ」
対してリドターンさん達は大人らしく優雅にカニを楽しんでいた。
というかいつの間にお酒を用意したんで?
良いなぁお酒。私も飲みたいなぁ。
「子供は駄目です」
あっ、はいそうですね。
今の私はどう見ても子供なのでNGでした。
◆
「はーっ、美味しかった」
「これほどまでに新鮮なカニを海に行く事なく食べられるなんて。貴族でもめったにない贅沢ですわ」
「うむ、それに量も凄い。まさか心行くまでこれ程の味を食べられるとは思わなかった」
良かった、皆の評判も良いね。
「ホント美味しかったですよー! あのトレーラーキャンサーを食べられるなんて思ってもいませんでした!」
特に喜んだのはアートさんだ。
でもルドラアースの住人のアートさんなら普通に食べる機会があると思うんだけどなぁ。
お店にも出回ってるだろうし。
これはアレかな? 地元もんだからこそ食べない名物とか、行かない名所みたいなヤツ?
「本当に美味だったよ。久しぶりに未知の味を楽しめた」
「ええ、とても美味しかったですよ」
「まぁ悪くなかったぞ」
「そんな事言って滅茶苦茶嬉しそうにカニミソを吸ってたじゃねぇか」
「う、うるさいわい!」
どうやらキュルトさんはカニミソがお気に召したらしい。
「あっそうだ。はいコレ。アートさんのご家族にどうぞ」
私は余ったトレーラーキャンサーの詰め合わせをアートさんに渡す。
「ええっ!? 良いんですか!? トレーラーキャンサーですよ!? 高いんですよ!?」
「すっごく沢山採れたから大丈夫ですよ」
まぁカニが高いのはいつの時代でもどの世界でも共通だよね。
「フレイさんとエーネシウさんにも……」
「いや、我々は辞退する」
「え?」
「わたくし達は家族の下に送る前にカニが悪くなってしまいますから」
聞けばこの世界には冷蔵庫が無いとのこと。
一応マジックアイテム冷やしたりや氷の魔法で冷やす事も出来るけど持ち運びに時間がかかるからその間に腐っちゃうんだって。
「じゃあリドターンさん達は……」
「十分過ぎる程楽しませて貰ったよ。我々も年だしね、美味とはいえ同じ物を大量に食べるのは流石に無理だ」
という事で辞退されてしまった。
うーん困った。まだまだたくさんあるんだよね。
量に関しては魔法の袋に入れておけばいいけどどれくらい持つかはよくわかんないんだよね。
「そうだ!」
◆
「うおおー! 美味ぇ!」
「これがカニか。初めて食べるな!」
私は顔なじみの冒険者のおじさん達にカニをプレゼントする事にした。
具体的には彼等が通う食堂に、食材持ち込み調理を頼んでみんなの分を作って貰ったのだ。
冒険者は食用の魔物を狩る事も多いからこうして調理だけ頼む事も出来るんだって。
「いやー、悪いな嬢ちゃん! こんな美味なものをご馳走になっちまってよ!」
「沢山採れちゃったから食べるの手伝ってほしかったんです」
「ははは! 俺達もそんな事言ってみてえなぁ!」
「ぷはーっ! 酒が進むぜ! 嬢ちゃんも飲むか?」
「え? いいん……」
「ばーか、ガキに酒を進めてんじゃねーよ」
ちっ、駄目か。
ともあれ、冒険者のおじさん達に提供した事でだいぶ減った。
けどそれでもまだ結構あるなぁ。
「タカムラさん達にも渡しに行くかな」
いつもお世話になっているし、お婆ちゃん達にもご馳走しなきゃね!
と思ったんですが……
「うわぁ、何アレ」
いつもの図書館にやって来ると、何故か無数の人でごった返していた。
「何これ、いつもよりめっちゃ人がいるんだけど?」
今日って何かイベントでもあるのかな?
でもその割には何か催し物が開かれている様子もない。
けどこの人達はギラギラした感じで周囲に視線を動かしている。
「例の少女……」
「若返りの……」
あっ、これ私を探してる人だ。
どうやら若返りのポーションの件でこの図書館にまで人がやって来ていたらしい。
うへぇ、何だか図書館の人に申し訳ないなぁ。
見た感じタカムラさん達の姿も見えないようだから、今日は帰った方が良いね。
「うーん、これは思った以上に大事になってるなぁ。図書館の人達に迷惑かけたくないし、ああいった人達をどこか別の場所に集める事とか出来ないのかな」
この様子だとタカムラさん達も迷惑かけてそうだし……
「って言うかよく考えたらアートさんヤバいんじゃ!?」
元々アートさんは特訓の名目で避難してたのに、家に帰ったらあの人達の仲間に見つかっちゃうじゃん!
「やば! カニに夢中で大事な事忘れてた!」
私は慌ててDホンを取り出すとアートさんに大丈夫かとメッセージを送る。
すると少ししたらメッセージが帰って来た
『こっちは大丈夫ですよー。ダンジョンを出た時は人に囲まれてしまったー!って思ったけど、すぐに探索者協会の人達がやってきて保護してくれたので』
良かった、無事だったらしい。
それにしても探索者協会も動いたのか。大事になってるなぁ。
『それでなんですけど、今度アユミ様に会ったら、若返りポーションを少数で良いから売ってくれないかって頼まれたんだけどどうしましょう』
「え? 売る?」
探索者協会にも若返りポーションが欲しい人が居るの? と面食らったんだけど、続きを読むとどうも違うっぽい。
『探索者協会の方で売りだせば、今アユミ様と私達に群がってる人達の注意をそっちに引き付けられるように出来るから、安心して生活できるようになるよって』
成る程、探索者協会がトラブルの窓口になってくれるって事か。
確かに皆が欲しがる品を売るお店が出来たら皆そこに行くよね。
それでも売って欲しいって突撃してくる人が居たら、それこそお店で買って、お店に全部任せてるって言えばいいわけだし。
『探索者協会は妖精と仲良くしたいから、ぜひ協力させてほしいんだって』
あっ、その設定まだ生きてたんだね。
ふむ、妖精云々の件を重視してくれるなら探索者協会に任せるのもありかな。
『分かりました。不定期かつ少量で良いならと返事をしておいてください』
「はーい」
などと緩い感じで連絡を終えた翌朝、アートさんからメッセージが入って来る。
『お早うございますー! カニ美味しかったです! 家族もすっごく喜んでました!』
おや、それはよかった。やっぱりカニは皆を幸せにしてくれるね。
『あと若返りのポーションの件も返事きました。寧ろそのくらいの方が希少性をアピールできて向こうに強くでれる……んだって。よくわかんないけど』
ホントにオッケー出たんだ。てっきり商売舐めるなって怒られるかと思ったのに。
でもまぁ向こうが良いっていうならいいかー。
尚、探索者協会がこの事を発表したら物凄い暴動が起きそうになったとかならなかったとか。
偉い人は大変だねぇ。
さーて、心配事も解決しそうだし、次のグルメをゲットしに行くかなー。