架空のとある男の話
この物語 (?)はフィクションです。
こんな人物がこの世にいるかも知れない。
そんな妄想の産物です。
なので登場人物は実在しません。
あくまでも架空となります。
なんとなく非公開化
話をしよう。
あれは26万年前だったか、1万4千年前だったか……いや、ここ数年の話だったか。
私にとっては昨日みたいなものなのだから、その辺はいいか。
ある所に、正義を胸に抱いた男がいた。
その抱いた正義に従い、己の正義を貫かんと日々を生きていた。
その正義は法律を遵守するもので、法律が出来た経緯や込められた思いには理解を示さず、書かれている文言が絶対であり、その文言が曖昧である時は自身の解釈が絶対的な正解であるとする正義の徒である。
男は法律をよく守り、正論をいたく好み、その法律に違反する者に対しては強く強く敵意を抱く。
法律こそが正義で、それに背く者は絶対悪であると、悪を憎んでいるのだ。
そしてその憎むべき悪へは、正義の名の下に正論をもってグウの音も出ないほどに叩き伏せ、悪を根絶してやらんと立ち向かう誓いを己にした男である。
なぜそこまでに悪を憎み正論を常に用《もち》いようとする男に育ったのかはトンと分からないが、それほどまでに正義を頑なに盲信する男である。
その結果に、小中高校全てで悪に対しての怒りに震え、その全てと戦うことになっても正義を固く信じる男に育った。
男が大学に入学してすぐ。
彼にとって受け容れ難い光景に出くわした。
講義を受ける際には、彼は最前列の座席を選ぶ。
講師である教授等の目の前だ。
それは目が悪いからであり、単純にその辺は学生が避けたがる場所であるから座りやすいためでもある。
それとそんな場所に堂々と陣取る心意気を見せることで「お前凄いな」と感心して他人から話しかけてもらえるかも知れないという、下心もあるが。
それを高校生以前からもやっていたので、大学でも繰り返していた。
だが、入学してから大学で数日経っているが、誰も話しかけてこない。
それと高校の時よりなんだか浮ついている様に見える学生が多く見える。
講義終わりにそっと学生の近くを通ると、連中は講義や学科に関係無い話をしていて、時折「モテたい」や「女子と仲良くなりたい」とつぶやくこともあった。
これに男は激怒した。
自分だってその気持ちは無い訳ではない。
そんな話が出来る仲間が入学早々に出来るコミュニケーション能力の高さが羨ましい気持ちもある。
……いや、この大学は附属校があるので、エスカレーター式に進学している者でみなそれ繋がりで知り合いなのかも知れない。
外部からの進学だから、周りは知らない人ばかりで息が詰まる所から来る苛立ちも無いとは言わない。
様々な要因が絡み合い、正義の徒である男の我慢の限界を突破した。
ここは学舎だ。
学生が学ばなくてどうする。
これは嫉妬ではない。 学生の本文を疎かにしている者への、正義の糾弾なのだ。
早速、次の講義の時に糾弾を行った。
学生なのに勉学に励まなくてどうすると。
その勢いのまま、糾弾は講師へ向いた。
学ぼうとしない学生をなぜ注意しないのか。
注意しても学ぼうとしない学生がいるなら、その者は学生としての本文を放り投げた学生でない別の者である。
男の口はよく回った。 その口は調子が良く、勢いが増す。
そんな学生モドキが講義室にいるのは、キチンと勉学に励む学生の邪魔になる。
この学生モドキ達を退学にしては如何か。
こう演説を打った男がどうなったか、それは明白だろう。
他者からすれば、この男は行き過ぎた正義をもって語って、さらに一足飛びに断罪を行おうとする異端者である。
世間からのウケは、明らかに良くない。
男の言う正義と悪はグラデーション状になっていて、明確に分けられる部分は区分が極めて難しいものであるから。
だが彼はそれを許せない。
もしかしたらそのグラデーションを認識出来ないだけなのかも知れないが、認識てきても彼が彼であるならそこは、明確に分けようと躍起になる事だろう。
一度講義室で演説してしまった以上、それが学内で広まるのは早かった――――
――――主に娯楽的な話題として。
一般的な学生は、講師が立つ教壇の近くは、講師に目をつけられやすい事をリスクと考えて部屋の後方へ行きたがる。
一般的な学生は大学のキャンパス生活は楽しみながら勉強をする場所であり、勉強のみに明け暮れる学生生活なんて息が詰まってしまってお断りだろう。
講師だって勉強しろとしつこく言い続け、学生達に煙たがられるのは勘弁だろうし、そんな疲れる事を何度もしたくはないだろう。
そんな事は常識又は少し考えれば分かることで、ある程度理解し許容するものである。
が、そんな事を男は理解しない。
彼は彼の信じる正義の徒であり、社会秩序や平穏を第一義としないから。
正義を執行された結果に社会秩序等があると、彼は信じているから。
そんな男の苛烈な思想による演説の結果、彼は“からかい”を受ける事になる。
他の学生は男に対して皮肉を込めて「とても真面目な学生」と呼んだ。
その言葉自体はいい言葉だろうが、男は見逃さなかった。
男にかける言葉とするには、目が笑っていたから。
本来この学生達は強烈すぎる個性を認めて、もう少し話して男がどんな者かを精確に見極めたいと……言い換えれば仲良くなろうとしただけなのだ。
が、男はその態度に腹を立てた。
「真面目で何が悪い」 と。
これで話しかけた学生は理解した。
この男とは仲良く出来ないだろうと。
だがそのやり取りを聞いた他の学生が、その話が本当か確かめる事象が多発し、男は間違った方向へ確信してしまった。
馬鹿にされたと。
コイツ等は人を馬鹿にするのが趣味の、人間のクズ達だと。
勘違い甚だしいが、男には話しかけてきた人達は別人だと認識が出来なかった。
何度も同じ事を言ってくる、と。
全員を一纏めにして1人の人格としてしまったから、こんな勘違いが生まれてしまったのだ。
この瞬間から男は、同じ学科内で孤立する事となる。
この男が孤高を好むなら、それで良かった。
しかし彼はこんな性格をしていても、誰かと接していないと寂しさが爆発するタイプだった。
つまり誰かヒトに寄っていっては、自分の正義に合わない部分を見つけてしまい、正義を執行して仲違いをしてはまた別のヒトに寄っていく。
その性質通り、孤立が寂しくなった男は大学のカヌー部に目をつける。
そしてそこで新入部生の歓迎会が行われた。
ここでも彼はやらかす。
大学の新歓は20歳超えの学生がいるので酒が出る事もある。
その酒を、まだ20歳未満の学生にも出すことは、まま有る。
飲酒の強要はいけないと言われるようになってからも。
だが、ここでは少し違った。
男がその新歓の場で、先輩が話のきっかけ……部に馴染む助け舟を出そうとして、冗談のつもりで酒をすすめてみた時だった。
男が正義に震えたのだ。
彼はまだ20歳前の年齢だ。
男が一心不乱にスマートフォンをいじり、先輩へ画面を見せる。
そこには飲酒に関する法律が踊っていた。
男は冗談が分からない。
心遣いも分からない。
故に彼は、違法行為の誘いをされたのだと受け取り、激怒した。
そして始まる大演説。
正義は男にある。
先輩は実際には、酒を飲もうとしたら止める気でいたのだが、その前に猛反発なんて生ぬるい反発を受けて目を白黒している。
相手が悪かった。
まさかこんな強い行動に出られるとは、思っていなかったから。
男はこの一件から、同じ学科どころか大学の全体で有名になってしまった。
場の空気を読めず、全てを台無しにする者として。
鼻つまみ者として。
そして昔からの経験でその空気にだけは敏感な男は…………。
更に激怒した。
彼は己の信じる正義を執行しただけである。
それに理解を示すどころか、嫌な顔をされたのだ。
それはつまり、正義に対する抵抗。 それすなわち悪であると。
そう彼は理解した。
この大学の全体でそうなのだ。
つまりはこの大学は悪の巣窟であったと、男は解釈した。
なので男は正義を執行しようと、この悪がはびこる大学を正義の力で叩き伏せようと、戦いに身をさらす決心をした。
やることは簡単だ。
正義を執行するだけだ。
具体的には男が悪と判じる事柄を探し、それをまとめて白日の下にさらす。
学内ではビラとして形にして、ばら撒くことで知らしめる。
学外へは、ネットという便利なツールによって、経験談形式にして告発という形でこの大学が悪だと広める。
更には大学全体が悪に染まっているのだからと、大学を閉鎖できる権力を持つ政治団体にも告発状を認めて送った。
だが、効果はまるで出なかった。
その告発した内容があまりにも独りよがりで、相手方の事情を知れば空回りも良い所だったり、思いの丈を文面に全て叩きつけた結果読みにくい文章になっていたのも有るかもしれない。
それによって、彼が余計に激怒したことは言うまでもない。
こんな正義を執行していては、大学だって黙っているのも限界にきてしまう。
が、男からすればそれは悪からの不当な押さえつけに見えてしまう所業である。
その大学より、男は罰として厳重注意の上で訓告を受けてしまった。
その訓告を受けたのは、男が大学に入学してから、わずか半年の事だった。
彼は自身がした行いは全てが正義の行いであり、合法であると思っているし、違法にならないならそれは正しいことであり他者へ迷惑をかけていないと思っている。
故に正義を乱発すれば疎まれたり迷惑がられるとは思っていない。
親切心でやりすぎだと嗜めてくる者は、正義の執行を邪魔してくる悪であり、聞き入れる耳を持たない。
男はどこまでも、正義の徒であった。
そんな男は大学を去り、彼が絶対に正しくて正義であると、大学は間違っている。 世間は間違っていると敵視し、そんな世間……世界を変えようと国の要職に就く事を志し今も戦っている。
大前提として、フィクションでございます。
なんか生きる事そのものに苦労しそうな、どうやりゃこんな人間が育つのか分からない、そんな難儀な人物をイメージして書いてみました。
が、何度でも言いますが、フィクションです。