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9.やめてくれない。知ってた

「じゃ撮影始めるよ〜。こんにちは〜。あなたと私と君と僕、みんなにカワイイをお届けっ!カナタのメイクのお部屋へようこそ!今日はなんと、事務所の後輩、Alice blueの片岡颯真くんを可愛くしちゃいまーす!颯真くん、どーぞ!」

「どうも~。Alice blueってユニットで活動してます。片岡颯真です」

「そしてそして〜。今回はコメンテーターとして、颯真くんの相方、半田真白くんにも来てもらってます」

「初めまして。Alice blueの半田真白です。今回はメイクの知識ゼロの相方へのツッコミ役として、主に声だけで参加させていただきます」


そうして始まった撮影。

ぶっちゃけ居心地地獄だった。

カナタさんと二人でひっそり撮影して、化粧が終わればお役御免、一本動画流してもらって終わり、のハズが。


気付けば相方に見守られてるわ辛辣なコメント挟んでくるわ、なんならわざわざ俺にコメントさせて無知を弄ってくるわ、メイクどころか服まで用意されてるわそのままダンス動画まで撮影するわ、拡散狙ってショートもロングも動画投稿するわ。

何だこれ?やりたいとか一言も言ってないのにガンガンやること増えてるんだが。


「普段颯真くんはメイクしてる?」

「えーっと、配信とか動画とかやるときは、BB?CCクリーム?とかってやつだけ薄く塗ってます」

「なるほどなるほど。それも真白くんが?」

「はい……」

「その辺コイツ無頓着なんで」

「ちなみに真白くんは?」

「俺はCCクリームにパウダーはたいて眉描くくらいですね」

「なるほど〜。真白くんはね、シャドーとかハイライト勉強したら、もっとかっこよくなると思うよ!欲を言うとアイラインとかも書きたいとこだけど……颯真くんは、今回ちょっと眉弄らせてもらうから、それだけでもけっこー違うと思う」


えっ、なんかすげー小さいハサミみたいなの出てきたけど、眉切るの?聞いてないんだが?

しかし口を挟む間もなくカナタさんは喋り続け、止める間もなく手が動き、気付けばなんかいつもよりシュッとした眉になってた。

ていうか道具の数半端ないな?プロか?プロだわ。この人仕事として技術磨いてるもんな。

合間合間に真白のツッコミや感心の声が入る。

それから顔に何種類も化粧品を塗られ、色を乗せる前にすでに誰これ?な状態になっていた。これ、骨格変わってねーか?どんな技術?


「はい。とゆーわけでね、いつも言ってるけど化粧はベースが九割。ここを丁寧にやれば骨格詐欺メイクはほぼ完成!」

「おー」


ぱちぱち。真白が拍手している。

しかし骨格詐欺……すげーワードだな。

確かに鏡に写った自分の顔は、なんか顎とか角ばってるとこが目立たなくなってる……なんて感心してるうちに、仕上げが着々と行われていく。

あとは完成までのお楽しみと言われ、鏡とモニターは俺の目に入らない場所に移動した。


カナタさんはなんか色の説明してるけどよくわからん。何?ピンクって何種類あんの?パーソナルカラーって何?ラメにも種類とかあるんだ。涙袋っていうの?そこ。初めて知った。リップってそーやって塗るの?あぁ、肌色にしてからのほうがそのまんまの色がでるってこと?付けマって重いな?瞼が持ち上る気がしない。筋トレでウエイト上げてる気分。


「はい、メイク完成でーす!男らしい骨格の颯真くんなんで、特にフェイスラインの見せ方に力を入れてみました!女装男子や、フェイスラインにお悩みの女子のみんなの参考になったら嬉しいです」


そして用意された衣装を着て、ウィッグを被せられる。

地雷系とかだったらどうしようかと思ったけど、ダンス動画に似合うわりあいシンプルな髪型と服で安心した。いや全然安心は出来ないんだが。スカートだし。あ、ムダ毛処理は事前にやっとけと、カナタさんから動画付きで指示があったからちゃんとやってきたぞ。ワックス脱毛。かなり痛かった。一応動画撮ったけど、使えるかはわからん。つうかなんか、真白に見せたくない。


ともあれこれで完成だ。布のかけられた大きな鏡の前に立たされる。

はー。緊張する。吐きそう。

事前予想はバケモノだったが、下地を見たので少し、ほんの少しは期待できる。いやいや、やめておけ。何を見てもすげーって反応しとけばいいんだ、うん。


「それでは!本人に完成した姿を見てもらいましょう!どーぞ!」


鏡にかけられていた布が、すっかりアシスタントと化した真白の手で外される。

そこにいたのは、まぁ、うん、女に見えないこともない、俺だった。

顔だけなら、けっこー綺麗にしてもらったと思う。セミロングのウィッグのおかげで輪郭は見えないし、いつもより全体的に丸いと言うか柔らかいと言うか、そんな顔に見える。まつ毛バチバチの目だけならかなり完成度高い。とはいえそんなに眉細くしてないから存在感がすごいけど、流行りの形にはした、らしい。

けっこーほっぺたとかにも色々塗られてたから、もっと派手かと思ったけど、見た感じ色が乗って見えるのは瞼と唇くらいだ。俺の唇ってこんな形してたっけ?描いたから?

とにかく顔はいい。さすが詐欺メイク。これだけなら素直に感動できた。


しかしな、こう、体型はどーしようもないよな。

肩幅が目立たないふわっとした袖の付いた、すそのひらひらした膝丈のワンピース。なんとなくラインは女っぽいけど、体型補正まではしてないし、何より半袖から出てきてる腕が太い。筋肉質。スカートから伸びる足も同じく。

これな、鍛えてない細身の男がやればけっこー何とかなるんだろうけど、俺ちょっと前までごりごりの野球少年だったし、今もダンスと筋トレ続けてるからこう、隠しようもないんだよな、うん。女装してます!っていうのが全体から滲み出てて、痛々しさが半端ない。キツイ。

真白なら、と想像しそうになって、やめた。そりゃ、体型は女だから似合うかもしれないけど、顔の想像がつかなかった。女らしいメイクしてるとこなんて見たことないし、無理やり着せられたらめちゃくちゃ不機嫌な顔するに決まってる。

……まぁ、それはそれで、おもしろいっつーか、見たい気もするけど。


そんな想像から、カナタさんの声で引き戻される。


「颯真くん、感想は?」

「いやもう、メイクってすげーな、って。ちょっと自分でも信じられないです」


この際、顔についてだけコメントしておく。嘘じゃないから大丈夫!素直な俺の素直なコメントだ!

首から下には触れてくれるな。


「じゃあ相方の真白くんにも感想を」

「そうですね。首から上は完璧だと思います。カナタさんのメイク強すぎる」


首から上をわざわざ強調すんな!下が大惨事なのが隠せてねーわ!


「今回はこの後ダンス動画撮るので、服装は控えめにしといたよ。女装の基本、肩幅の目立たない袖、高めのウエストライン、裾の拡がりでAラインを作りました!颯真くんは筋肉質なんで、本当はもう少し色々ね、レースのストールかけるとか、ロング丈にするとか、見せ方はあるんだけど、それはまた別の機会にね」


別の機会には別のモデルでお願いします。


「あとね、真白くんにもそのうち、男装メイクのモデルやってもらいたいと思いまーす」


ぶっ込んできたぞこの先輩!

いや女装じゃなく男装メイクならいいのか?どうなんだ?


「今初めて聞いたんで、検討させてもらいまーす」


う、うまい!カナタさんの無茶振りにチクリと返しつつ、やるともやらないとも言ってない!俺にはできない!できなかった!



とまぁ、こんな感じでメイク動画の撮影を終え、休憩挟んで三人でダンス動画を撮影し、ようやく俺は俺本来の姿に戻ることを許された。

シャワー浴びて念入りに顔を洗う。クレンジングも、いつもは適当だけど今日はしっかりやっとかないとな。なんか色々塗って顔の皮一枚増えた感じだし。


その間、真白はカナタさんと動画編集や投稿の予定について話していた、はずなんだけど。


「やめてください!」


わりと緊迫した真白の声がして、俺は慌てて二人のところに向かった。

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