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71.誰のために

「えっ、俺に?颯真から?」


バレンタインデー当日。真白んちに着いて最初に、そう、真白より先に俺が動いた。手作り感丸出しの包装(いやだってお店みたいにできるわけないじゃん)をしたチョコを真白に差し出すと、声も顔も驚きまくってくれた。うんうん、いいな、こういうの。仕掛けられる側になることが多いから新鮮だ。


「そ。お袋の助言を元に、俺一人で作りました」

「うっそマジで!?え、開けていい?食っていい?」

「もちろん」


うん……いや、喜び過ぎなくらいだな。ちょっとこう、期待外れな仕上がりだったら困るなとか、今更心配になってきたぞ。


「ふわ〜……ケーキ?」

「えっと、ガトーショコラ?ってやつ」

「すご……え、お菓子作り初めてだよな?失敗しなかった?」

「うんまぁ……いや、食ってみないとわかんないけど」

「えー、じゃあ一緒に食おう。ちょっと待って、紅茶淹れてくる」


リビングに俺を置いて、真白はキッチンに向かってしまう。お湯を沸かして、皿とフォークも出してきた。


「じゃあ、お湯沸く前に俺からも。今年はおまけじゃないからな?」


冷蔵庫に入れてあったらしい、冷えた小箱。おまけじゃないと改めて言われると、そしてお菓子作りを経験した身だと、有り難みが倍増する……いや、倍じゃ足りないか?3倍?5倍くらい?

とにかく、ありがたいそれを受け取って、口を開く。


「ありがと……いや、あの、今までも貰ってたけど、感謝が足りなかったっていうか、大変さがわかったっていうか。だからほんと、ありがたいっていうか、嬉しいっていうか」


学校でもいくつかチョコもらった……いや、真白もだいぶもらってたけど、それにも増して、やっぱり、真白からの手作りは、嬉しい。

たどたどしく伝えた感謝の言葉に、にんまりと笑った真白はすぐには答えなかった。お湯が沸いたらしく、キッチンに戻ってお茶を用意して、俺の作ったガトーショコラを切り分けてから戻ってきて、言った。


「そこまできたならあと一歩だな。ひとまず颯真の力作をいただいてから、だ」

「えぇ……あと一歩ってなんだよ……」


何があと一歩なのか、全然予想もつかないまま、俺の力作が試されることになってしまった。緊張の一瞬だ。


「いただきます」

「いただきます……」


フォークで切り分けて、口に入れる。うん、味は大丈夫。濃厚なチョコレートの甘みが広がって、ぶっちゃけ俺はこの一切れで十分なくらいだ。

そして真白の様子を伺う。しばし真顔で咀嚼。え、だめ?と心配になった所で、笑みを浮かべた。


「うまい。ほんと美味い。ありがと、颯真」


その瞬間、ぎゅと心臓が握られた気がした。これ、あれ?状況的には胃袋を掴んだ!って俺が手応え感じるとこなのに、なんか、逆に掴まれたようなこれは、何なんだ!?


「……な?美味いって言ってもらえると、嬉しいだろ?」

「いや、あの……うん」


嬉しい……いや、嬉しいのはもちろんなんだけど、なんか、それ以上の何かが、俺の中に湧いてきてるんだけど……。


「んで、喜んでもらえるならまたやろうかなって気になるだろ?」

「うん……」


真白の言ってることが、わかってるのに頭に入ってこない。これはあれかな、嬉しいが限界を超えたみたいな状態……?俺のやったことで、ここまで真白が喜んでくれたことが。


「……しあわせ?」


ぽつり、口からこぼれた言葉が、普段は口にしないような、大げさで甘ったるいものに感じられて、思わず真白の顔を見つめてしまった。

俺のうっかりな一言を聞き逃してはくれなかったらしい。真白は不思議そうな顔で思考すること、数秒。


「幸せだよな?この状況。あぁ、俺のも美味いって言ってもらえたら、さらに、だけど」


そう言って、俺に渡したはずの箱を自分で開けて、中身を一つつまんで、ぼけっと開けていた俺の口に放り込む。

口を閉じて味わうと、その温度だけで溶けて広がって、消えてしまう。生チョコだ。


「……うまい」

「よかった。じゃあ、文句なく幸せだな」

 

にこにこと、ほんとに、素直に、嬉しそうに笑う真白を見てたら、俺の顔も溶けた。小難しいことを考えるのは苦手だ。だから、気持ち優先でいいんだと思う。とりあえず、今は。


「うん。幸せだ」


そっかー、相手のためにものを作って喜ばれるって、こういう感じなのか。そんなに手先も器用じゃないし、考えたことなかったな。

そんな感想を、ガトーショコラをつつきながら、まとまらない言葉で零したら、ぺろりと1切れ平らげた真白が唸った。


「うーん……作る、に限定しなくていいと思うけど……」

「どーゆーこと?」

「相手のためにしたことで、喜んでもらえれば、それだけで嬉しいってこと」

「それは、まぁ……わかる」


紅茶を一口飲んで、真白が続ける。


「ファンの人たちが投げ銭してくれるのも、それが基本だよな。まぁ……認知されたいとか、特別になりたいってのも、あるだろうけど」

「そっか。そうだな」

「でも……――あー、やっぱいいや、それより飯どーする?」


言いかけて、途切れたその先が気になる。飯も大事だけど、なんかこの話題は、ちゃんと、真白の考えてることを知りたい。


「飯は後でいいから、それより続き。でもって何だよ」

「えと……」


真白の目が泳ぐ。言いにくい、と顔に書いてある感じ。しかし、俺の無言の圧力に屈したらしく、口を開く。


「……そう思えるのは……喜べるのは、好き、だから、かなって……」


ファンの心理としてはそうだよな、って頷きかけて、意味が違うと気付いた。

俺と、真白の話だ。

ぶわりと顔が熱くなる。真白も顔を覆っている。


「こんなん言わせるなよバカ!」

「ば、馬鹿ってお前……いや、その……」


じゃあ言わなきゃいいじゃん、とは言えない。そりゃ、俺が聞いたんだし。でも、お互いにこんなに恥ずかしい思いをするとは思っていなかった。


「とにかく!飯食って配信の準備するぞ!」

「お、おう……」


いやもう、なんか、ガトーショコラだけで腹一杯な気分なんだけど。……いやそれは気のせいだな。腹は減ってる。ただなんか、何かを食いたいとか、そういう気分じゃない。なんていうか……気持ち的に、落ち着かなくて。


「ケーキ食ったしチャーハンくらいでいい?」

「あぁ、うん、頼む」


気を取り直して、ガトーショコラを食べた皿を片付ける。真白は残り物でチャーハンを作っている。考えてみたら俺、真白に何度もっていうか、毎週のように飯作ってもらってるな。

……真白は、俺のために作ったもので、俺が喜んだら嬉しいってこと……だよな?

思わず手元を凝視していたら、真白が嫌そうな顔をした。


「これは別に、お前のためとかじゃなく、自分のため……の、ついでだからな?いちいち自分のためとか勘違いすんなよ?」

「あっ、すいません」


自意識過剰だった。恥ずかしい。いやまぁそうだよな。一緒に帰って一緒に配信とか撮影とかするから、ついでだよな。うん。自意識過剰。考えすぎ。


すごすごとリビングに戻って、配信前に投稿とレス。こういうのをこまめにやるのが、俺の長所。と、黒沢さんにも言われたので、目標を見つけた俺はさらにコツコツ頑張っているのである。

ほどなくチャーハンが出来上がり、インスタントの味噌汁と、なんか野菜のツナあえみたいなものがテーブルに並んだ。


「召し上がれ」

「いただきます」


そしていつもどおり、食べて、食べ終わったら配信の準備……って、今度は真白が俺のこと凝視してるんだけど。


「な、何」

「……颯真のためじゃないけど」

「お、おう」

「……でもまぁ、うまそうに食ってくれれば嬉しいよ」

「……おう」


うん。ちゃんと、言うようにしよう。こういうの、コツコツやるのが、俺のいいとこ、だと思うし。多分

もうちょっと進めたかったんですが、その前に少しもだもだしてもらいました。

年内もお付き合いありがとうございました。なかなかまとまった執筆時間が取れないのですが、なんとかエタらず来年も頑張りたいと思います。皆様良いお年を!

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