68.母の後押し
「颯真は、真白くんと付き合うためにも、アイドルとしてもっと人気になりたいのよね?」
「……なんなの、急に」
料理動画の撮影を終え、真白が帰宅したあと、おふくろに声をかけられた。まぁ、おおむねそのへんのことはクリスマスデートのあとに話した……というか、聞かれた結果暴露することになったから、間違ってはいないんだけど。
「颯真だけが、っていうのは、お母さんもちょっと思いつかないんだけど」
そこそこ失礼だな。自分の息子にもう少し自信持たせてくれよ。
「二人揃ってなら、少し後押しできるかなと思って」
「料理動画はもういいよ?」
いやほんと、順調だったけど順調過ぎて、受けない気がするんだよな。これから編集頑張るけどさ。なんだかんだ、俺が失敗しないと成立しない気がするんだよなぁ。
「失礼ねぇ。そうじゃないわよ。昔の知り合いが女性誌の編集やってるの。若者カルチャーを紹介するコーナーがあるから、ネットアイドルとして取材してもらえるかもって」
「お願いします!」
本来なら真白や黒沢さんに相談する案件だが、即答してしまった。いやだって、雑誌だぜ!?発行部数どのくらいか知らないけど、俺らのSNSより多くの人の目に留まるのは間違いない。
頭を下げた俺に、お袋は満足気に微笑んだ。
「というわけで、取材の依頼が来ました。正直、うちとしてはAliceblueより売り出したいグループはあるんだけど、ご指名だからね」
「すいません」
呆れた様子の黒沢さんに、思わず頭を下げる。そりゃそうだ。俺ら、事務所の中じゃ真ん中より下だもんな。トップグループに露出してもらったほうが売り上げには貢献できるだろう。
「いいわよ。顔つなぎだけでもありがたいし、異色揃いのうちの事務所でも一番話題性はあるしね」
「話題性っつーのが微妙ですけどね」
「贅沢言わないの」
真白はひたすらにうちのお袋に感謝して褒め称えていた。まあ、普通にすごい人脈だとは思う。前の衣装の件もそうだけど、なんならお袋のプロデュースって金取れるレベルなのでは?と思ったりもする。
「普段はモノクロの小さいコーナーらしいんだけど、時期的に特集にしてもいいってことで、そこそこの紙面を割いてもらえるみたい」
「へー」
いや、すいません。女性誌とか見たことないんで、どの辺がすごいのかわかんないです。
発行部数がすごいから、載るだけでもすごいってのはわかるんだけど。
「取材って、対面でインタビューみたいな?」
「どちらかというと密着取材をご希望みたい。いま話題のネットアイドルってどんな活動してるの?みたいな」
「……配信とか動画の撮影、編集、あとはレッスンとかを取材ってことですか」
「そうね。それで、真白くんのご自宅に入ってもいいか、ご両親に許可を取ってもらえる?」
「わかりました。普段配信で映してる範囲なら大丈夫だと思いますけど。レッスン受けてるスタジオの方は……」
「そっちは事務所からお願いするから大丈夫」
こういう話になると、ついつい俺は聞くだけになってしまう。こういう、なんでも面倒くさそうなのは真白にお任せ、っつーのもよくないよな。
「あの、俺がやれることは」
「そうねぇ……まぁ、覚悟しておいて」
「覚悟?」
なんの覚悟だ?一気に有名になるってこと?
「多分、颯真くんが予想してない肩書がつくことになるから」
黒澤さんの言う肩書の意味はわからないまま、お袋が知人の編集者に連絡をしてから、2週間足らずで取材が決行された。思ってたよりだいぶ早かった。
取材に来たのはお袋と同年代の女性で、最初にお袋が立ち会ったのもあって、打ち解けて話をすることができた。聞けばお子さんが中学生だそうで、数年前はYouTuberに憧れていたとか。
まぁ、そんなこんなで、2日間に渡って、配信やレッスン、動画の編集なんかを取材してもらった。
実際に誌面に載るのは少し先だけど、取材受けただけでもなんか、芸能人みたいでちょっとワクワクした。
なんて言ってる間に、2月に入り、やたらとハートを見かける時期になった。バレンタインだ。
去年も事務所あてにチョコもらったりしたけど、あのときと比べたらファンの数は数倍になってるので、期待半分怖さ半分って感じだ。
……真白からは、毎年もらってる。手作りのを。
といっても、家族にあげたり友人同士で交換してる余り、という、義理だかなんだかわかんないチョコではあったのだが。いや、うん、手作りチョコをもらえるだけありがたいんだけど、ほら、去年までは真白のこと、女子だと思えてなかったと言うか、家族からのチョコと同じような感じで受け取ってたから……。
…………贅沢だったな、俺。
今年はちょっと違うのかなとか、付き合うの保留にしてる俺が言うのもあれなんだけど、やっぱり期待はしてしまう。とはいえ、こっちから聞くのも微妙なので、ソワソワしてるだけである。
「今年もチョコレート待ってます!俺にチョコレート食べ放題を味わわせてください!」
なんて、配信で大袈裟に頭を下げる真白の横で、俺もノリを合わせる。
「真白に負けたくないんで俺にもください!チョコじゃないのも大歓迎です!」
むしろチョコだけだと食べきれないのでしょっぱいのください。優しいファンはそのへんも理解してくれて、「おせんべいでいい?」とか「う〇い棒何本くらいいける?」と声をかけてくれる。ほんとありがたい。
事務所のほうで手作りはNGと言われているので、皆被らないように色んな店を探してくれてるみたいだ。
「去年もらったあれ、動物の立体的なやつ、あれボリューム凄かったよな」
「あぁうん。チョコの塊って感じで、食べても食べても終わらない気がした」
「あとさ、チョコじゃないけど飴細工ですごいのあったじゃん、花の形の……」
「あれすごかったな。しばらくうちのリビングに飾られてた」
こうしてもらったものの話をすると、それを送ってくれた人が喜んでくれる。なんなら1個ずつ開封して食べるとこを見せたほうがいいのかもしれない。
そしてバレンタインとは別に、ファンにも報告だ。
「えー、ちょっと前に、俺達Aliceblueが取材を受けまして。なんと、雑誌に載せていただくことになりました!」
真白の告知に、拍手と喜びの声と驚きの声で溢れるコメント欄。雑誌の名前を上げると、ますますその反応が膨れ上がる。
「来月号、って言っても今月発行らしいんだけど、見てもらえると嬉しいです」
俺の出番として与えられた台詞を読み上げると「読むよ!」「絶対買う!」「電子版あるよね?」などのコメントが続く。自分たちのSNSだけじゃなく、ほかのメディアで取り上げられると、こんなに喜んでもらえるんだな。
バレンタインも楽しみだけど、雑誌も楽しみだな。
のんびりとそんなふうに思っていたら、おふくろにちくりと釘を差された。
「バレンタイン、颯真は真白くんにあげないの?」
「えっ。いつもホワイトデーに返してるじゃん」
しかも真白ご指名のお菓子を。真白も喜んでるし、それでいいんじゃないの?
「それでもいいと思うけど……ほら、せっかく料理も始めたんだし、サプライズで作ってあげたら喜んでくれるんじゃないかなって」
その視点はなかった。でも確かに、真白に何か作ってプレゼントするっていうのは今までなかったな。俺が作ったところで美味いもんになるわけないし、買って渡した方が間違いないと思ってたけど……。
今、真白がそういう理由で既製品を渡してきたら、俺はがっかりするだろうなと思えてしまった。美味いとか出来がいいとか、そういう話ではなく、手作りだと嬉しい。……多分、真白も。
俺の顔色から、その辺の気配を察知したのだろう。お袋がにこにこしながらタブレットを持って近づいてきた。
「ほら、このくらいなら颯真でも出来ると思うのよ。もちろん、必要なら手伝うし」
「……お願いします」




