67.コロッケの先にある景色
すいません、バタバタしてて遅刻しました。
じゅーじゅー、ぶくぶく。
揚げ物をしっかり眺めることってあんまないよな。少しずつ色がついていって、剥がれたパン粉のクズが鍋の縁に泳いでいく。うん、なんかちょっと、わくわくする。
「そこ。眺めてないでキャベツの準備」
「えっ、コロッケで終わりじゃないの?」
「生姜焼きのときもやっただろ、はい千切りチャレンジどうぞ!」
うおおおお、千切り……もはやトラウマな千切り……!
いや、一度やったんだから二度目はもう少し……もう少し!
……。
…………千切り、ではないな……細切りだな……。
打ちひしがれる俺を押しのけて、真白が千切りにとりかかる。うんまぁ、ここ争うのも無理なのはわかってるんだけど、流石に自炊してるから俺の数倍千切りらしいのが出来上がるよね。くそっ!仕方ないとは言えやっぱ負けるのは悔しいな……なんかひとつだけでも料理で真白を超えたいとこだな。
なんて野望を口にしたら、あっさり「期待しとく」と返された。何だよその余裕!みてろよ!
「そろそろ……かな。生のものじゃないから、外側がうまそーなら大丈夫だと思うんだけど」
そうこうしてる間にコロッケはいい感じの色になってきた。
「いってみるか」
「よし行こう」
決意を込めて、真白がコロッケをすくい上げる。
崩れないようにバットの上の網に置いて油を切る。うん、良い出来だ。続いて俺のも。……焼き色は変わらないのに、見た目でどっちのか明らかなのは気にしないでほしい。ほら、1個は分裂しちゃったし。
そして千切りキャベツとプチトマト、コロッケを皿に盛り付けて完成だ。
『完成でーす』
ぱちぱちぱち。普段は俺たち2人だけの拍手だけど、今日はおふくろの拍手も加わってちょっと賑やかだ。
「それではお楽しみの試食タイムです。颯真のお母さんからどうぞ!」
3人分ってことで、俺と真白は自分で作ったのが一つ、お袋の皿にはそれぞれの作ったコロッケが乗っている。
「それじゃあいただきます。ふふ、颯真の作った料理なんて何年ぶりかしら。小学生の時に兄弟でカレー作ってくれたとき以来?」
「あー、あったな。兄貴が中学生だったから、俺は5年か6年あたり?」
うーん、兄貴が頑張ってくれたし、俺は野菜切ったくらいだったような……イマイチ自分で作ったって実感はないな。それを言うと今回もなんだけど。
お袋が先に箸をつけたのは真白のコロッケだ。さくりとした食感が伝わる音。うまそう。
「うん。おいしい。ちゃんとできてるわ」
「よっしゃ」
真白とハイタッチ。過去数回の、食べた瞬間失敗とわかるお料理チャレンジとは全然違う展開にテンションが上がってしまった。やはりうちの相方は優秀だな。
「でもちょっと衣が弾けちゃったわね。下味ももう少しつけてもよかったかも。次は颯真のね」
下味は同じだし、揚げ時間もほぼ同じ。つまり出来はそんなに違わないはず。ちょっとドキドキしながらお袋のコメントを待つ。
「……感慨深いわねぇ」
いやうっすら涙ぐんでるけど、そんなに!?出来が良かったってこと!?
「颯真がこんなことできるようになったっていうのもあるけど、真白くんと一緒にうちで料理してくれるなんて……」
あれ?なんか思ってたのと方向性違うな?
「真白くん、これからも颯真をよろしくね」
「あ、はい。頑張ります?」
真白もなんかどうしたらいいのかわかんない感じじゃん!ストップストップ!
「ちょ、そういうのいいから!ここカットな。俺たちも試食!」
「はいはい。それじゃいただきまーす!」
カメラも止めようかと思ったけど、面倒くさいのでそのまま流した。そして自分で食べてみて、確かになんか味が足りない気がした。ソースかけちゃえばいいんだろうけど、確かに満点ではないなぁ……。
「この、爆発したのってなんなんだろ?」
「水分が多いとこうなりやすいのよね」
「水分……玉ねぎですか?」
「というより、じゃがいもかしら?」
真白は真白で、揚げてる最中に軽く爆発したのが気になったらしくお袋に指導を受けている。
食べ終わったらいよいよお袋の出番だ。
「それじゃさっそくコロッケを作っていきます」
『よろしくお願いします』
「まずじゃがいもは皮ごとよく洗ってラップで包んで……」
「えっ」
思わず真白が声を上げた。だよな。俺も知らなかった。
「レンジでチン」
「……茹でないんですね」
「大量につくるなら鍋で茹でたほうがいいかもしれないけど、普通のご家庭ではこっちのほうがいいと思うのよね」
なるほど。うちでは大量に作るから茹でてたわけか。
「手間もそうだし、実は爆発させないためにもこのほうが良かったりするの」
「あっ、水分!」
「そう。さすがねぇ真白くん。茹でるより水気が少なくなるでしょ?茹でたときは一旦鍋に移して火にかけて、水分を飛ばしたりするんだけど……」
「マジですかめちゃくちゃ手間じゃないですかコロッケ!」
「そうよ〜。だからお店で買っちゃうのよね、揚げ物って。油の処理も面倒だし」
真白とお袋が盛り上がっている。ちょっとついていけないが、二人とも楽しそうなのでまぁいいか。
その後もお袋と真白メインでお手本の調理が進み、合間に挟まれる思い出話に盛り上がったり、ちょいちょい待ったをかけたりしながらコロッケが完成した。
……うん、うちのコロッケだな。改めて見ると完成度の違いがわかる。衣が均一だし形もきれいだ。
そして食べてみて味の違いにちょっと驚く。俺からするとやってることはほとんど同じはずなのに、なんでこうも違うのかと首をひねることしかできない。
「ありがとうございました。勉強になりました!」
「お役に立てて良かったわ。それに真白くんとお料理するの楽しかったから、また呼んでね。あ、動画じゃなくても、家に来た時にお手伝いお願いしてもいい?」
「もちろんです!」
なんかちゃっかりこれからも動画に参加しようとしてるし真白にも家事手伝わせようとしてるな?いや、真白は普段から手伝おうとしてるけど、夕飯に限ってはできた頃に帰宅するから手伝えてなかったって言い方が正しいんだけど。
「颯真もちゃんとお料理覚えなさいね。真白くんに酷いものばっかり食べさせちゃだめよ」
「……はーい」
「動画としてはそれでいいんですけどね」
真白お前……いや、ありがたいと言えなくもないけど……。
「だめよ、真白くんに何かあったら助けてあげられるようにならなくちゃ。うちのお父さんだっておかゆとチャーハンくらいは作れるわよ?」
「あー、そういや昔チャーハン作ってくれたな」
「そう。私が具合悪いときは、ちゃんと料理してくれたのよ。だから颯真も一つか二つ、得意料理を作っておきなさい」
「えっと……」
俺が納得している横で、真白が珍しく困った顔をしていた。
「今のは、カットで」
「なんで?」
面白くなかった?まぁそれもそうか。うちの家庭の事情語ったところでな。俺が指導されてるとこなんて……いや、真白なら嬉々として編集して笑いどころにしそうだけど。
「……その、ありがたいというか、嬉しいんですけど……前提が、友人とか相方に対するものじゃないっていうか……」
「あら!そうよね、ごめんなさい。つい……」
「……はっ!?確かに!?」
言われてすぐに気づいたお袋と、しばらく意味がわからなかった俺。結果すごく間抜けな反応になってしまった。
いや、とにかく、真白の言いたいことはわかった。今の会話、完全に、真白を恋人扱い……というか、将来のお嫁さん扱いしてた……無意識にだ。お袋も、俺も!
そう気づくと恥ずかしい。まだ付き合ってもいないのに!親子揃って何やってんだ!
「いや、あの、ありがたかったです。そう思ってもらえてるのは……」
真白は困っている、というより、恥ずかしがっている。……なんだこいつ、ちょっと可愛いな。
「ごめんなさいね。お兄ちゃんの彼女はほら、近くに住んでるわけじゃないし、なかなか会えないから。真白くんは普段からうちに来てくれてるし、娘とお料理って憧れだったから、ちょっと舞い上がっちゃって」
「娘……」
いやほんとにお袋、舞い上がりすぎだから!話が飛躍しすぎだから!
ちょっと落ち着くまで時間がかかりそうだったので、俺は一旦撮影を止めた。それからラストのコメントだけ撮り直して撮影は終了したわけだが、編集のときにまた、真白と二人そろって照れる羽目になるのだった。




