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64.報連相

繰り返した真白は、なるほど、と頷いた。そう、俺のファンを増やすのに、ニコイチ路線では限界があるのだ。俺が精力的に動く分にはいいんだけど、それに真白を付き合わせるのも無理があるしな。時間的に。


「真白がいいならいいって、そのとき社長に言われたから」

「そーいうのは事前に俺に言っとくべきだろ」

「ごめん」


少し眉をひそめた真白に慌てて頭を下げたところで、スフレチーズケーキとハムチーズフレンチトーストが到着した。店員さんにお礼を言って、仕切り直し。


「ま、いいよ。せいぜい頑張ってくれ。そう簡単に抜かされるつもりはないけど」

「いやいや、早く抜いたほうがいいだろうが」

「……そりゃそうだけど」


唇を尖らせた真白が、いただきますとケーキに向かったので、俺も同じく手を合わせてフレンチトーストに手をつける。うん、美味い。


「ソロって何やんの?歌とダンス以外は今もやってるじゃん」

「うんまぁ、そうなんだけど。反応いいヤツはちょっと研究して真剣にやってみようかなとか、ダンスもちょっと、難しいのにチャレンジしてみようかと」

「へー。反応いいヤツってどれ?野球ネタ?」

「うん。ほんとは真白とやりたい……いや、何ていうか、ディープな話した方がいいかなとか、真白のツッコミないと間延びするとか、そういうのは、あるんだけど」


うっ。なんか、真白とやりたいって言ってしまったのが恥ずかしい。いや、理由はホント、本当なんだけど。ちゃんと野球好きでわかってくれる相手と話せたら面白くなるんだろうなぁとか、会話のテンポとか考えるとやっぱ真白しかいないんだよなとか、そういう……まずい、頭の中で考えてるだけでちょっと顔が熱くなってきた。


「真白がこれ以上あれこれ手を出せないのはわかってるし、別に無理してほしくないし、ていうかそもそも俺が真白を超えるためだし」


そう。そこ。まず俺が、自分で頑張んなきゃいけないんだから、真白に助けてもらってる場合じゃないんだよな。


「……ん、わかってる」


必死に言い募る俺を前に、なんでか真白は微笑んでいた。


「俺も、ほんとは一緒にやりたい」


うっ。

……やば、なんか、これ。……やばい、言葉にならない。可愛いとかじゃなくて、なんか……。


「ま、でも、早く超えてもらわなきゃならないしな。できれば受験前に?」

「お、おう……」

「颯真の頑張りに期待してる」


いつのまにか心拍数が上がっていた俺は、深呼吸をしてから食べるのを再開した。


「あ!」


再開してから思い出した。もういっこ、大事な相談が残っていた。思わず声を上げた俺に、またなんかやらかしたなこいつ、という真白の冷たい視線が刺さる。


「いや、あの、俺たちの活動、を、どうするかって話」

「どうって……あぁ、付き合うことになったら、ってこと?」

「うん。その、正直俺はそのへんノープランで……」

「ほんとに期待を裏切らないな」


ノープランな期待はしないでほしかった。ため息も甘んじて受け入れるしかない。うなだれる俺。


「でもそこも、颯真の頑張り次第だよな」

「え?何で?」


やけに優雅に紅茶に口をつけた真白は、すこしだけ意地悪そうに笑ってみせる。


「受験に間に合わなかったら、どっちにしろ活動休止してるわけだし?間に合わせる気があるなら考えとかないといけないけど」

「うっ……」


た、たしかに。真白が受験勉強で忙しくなってから告白したとして、その時期はどうせ活動してないし、ていうか活動してない状況で真白を抜いてもなんか……違う、気がする。


「ま、間に合わせる。受験までには、なんとか」

「んじゃ方針考えとかないとな。それぞれどうしたいのか固めて、すり合わせしてから黒沢さんに相談だな」

「お、おう……」


やば、やばいな、なんか、そんなに時間かける気はなかったけど、明確に期限が決まってしまった。これはほんとに、必死にやるしかないぞ。

焦る俺の前で、真白はやけにニコニコしていた。


「受験に間に合えば、デートくらいできるよな」


デート……いや、現状もほぼデートと言っても過言ではない気がするけど、確かに……この間の、クリスマスみたいに、ちゃんと女の格好した真白とデート……。


「がんばる」

「っふふ、小学生か」

「小学生よりはちゃんとしたデートしてやる」

「そう?俺は駄菓子屋デートでもいいけど」


それはそれで楽しそうだけど、そういうわけにはいかない。色々、男のコケンに関わる、気がする。

……その、もうちょっと大人のデートらしくだな……手を繋ぐ、よりは先に、進みたいとも思うわけで……。

いや、それが目的ってわけでも……いや目的ではあるんだけど全てではないというか、誰に言い訳してんだ俺?


とにかく、やる気を出した俺と嬉しそうな真白はお互いの料理を交換して味見をして、ネタになりそうな野球の話をしてから家路についた。

真白の期待に応えるためにも、明日からのアイドル活動頑張らないとな。まずは新年一発目の配信、それから新しく動画撮影して……あ。


「それじゃ、撮影よろしくお願いします」

「はいはーい。楽しみね。キッチン片付けておかなくちゃ」


そうだったおふくろの料理指導だったぁあ!

うちに挨拶を、と家に寄ってくれた真白とお袋は楽しそうに話している。

何やらされるんだろ、俺。いや今回は真白もやる……んだよな?むしろ俺の出来なさが際立つんじゃないか?

そんな心配をしつつお袋と真白の会話を聞いていたら、親父が玄関に現れた……と、こりゃ仕事だな。出勤時の服を着ている。


「今年もよろしくな。颯真のアホには多少キツく言ってやってもいいから、うまく操縦してやってくれ」

「はい」

「いや、はいってお前……」

「それじゃ、バタバタしてごめんな。また今度ゆっくり話しさせてくれ」

「はい、是非。行ってらっしゃい」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「……行ってらっしゃい」


俺そっちのけで、真白と親父の会話は進み、そのまま行ってしまった。何だよあれ。なんとなく釈然としないが、真白とお袋はニコニコしている。

……あ、いや、真白の憧れが親父とか、その情報は今関係ないから。嫉妬とかじゃないから。ほんとに。


「それじゃ、俺もそろそろ失礼します」

「荷物多いじゃない。颯真」

「わかってるって。俺の荷物置いてきたら送ってく」

「大丈夫だって……」

「真白。ここで行かないと俺がお袋に叱られる」

「そうねぇ。叱るわね」

「……じゃ、頼む」


お袋の援護射撃をもらって、無事真白を送る役目をもらった。荷物は半分こだ。


「……なんか、機嫌悪い?」


真白の家に向かう途中、そんなふうに聞かれて首を傾げた。


「いや?何で?」

「おじさん見送ったとき、そんな感じだった」


うっ。それはそのー。俺だけ蚊帳の外だったというか、そういう感じだったし……。


「親父が俺の扱いぞんざいだから」

「そう?」


そう……いうことにしといてほしい。まさか実の親に嫉妬したとは認めたくないし知られたくない。


「別に今は、大丈夫」

「そっか。……颯真は、その……俺たちのこと、家族に言ったんだよな?」

「え、あ、うん」


言ったっていっても、報告したというよりはぽろっとこぼしちゃったって感じだけどな。でもまぁ、俺が真白を超えたら……って話は、みんな知ってる。親父と兄貴にはおふくろから伝わっていた。言わなくていいし。……いや言ってもいいけど。


「そっかぁ……俺も、言っといたほうがいいのかな……」


そう言う真白の顔は晴れない。うーん。嫌なら言わなくても、とは思うんだけど、


「別にいいんじゃね?真白が言いたいタイミングで」

「そーなんだけど……ほら、明日には親も向こうに戻るし、お父さんなんてめったに会わないし」

「あー……」


確かにな。親と離れて暮らしてるから、そーゆー話するタイミングも限られるよな。

……そうか。真白は今、うちの家族からは俺の恋人予定という扱いをされてるわけで、真白が家族に話をしたら、今度は俺が真白の家族からそういう扱いを受けるわけで……ちょ、ちょっとなんか、緊張するな。


「……うん。まぁ、今はいいや。その時が来たら、言うことにする」


俄に緊張しだした俺の横で、真白はそう結論づけていた。ほっとしたけど俺の緊張無駄だったな。


「ということで、なる早で頼むぞ。負ける気はないけど」

「矛盾してんな」

「仕方ないな。俺の本心がそう言っている」


じゃあまぁ、仕方ない。付き合いたいからって手加減するような真白は、俺の知ってる真白じゃない。何があろうと負けたくないのが真白だし、そういう真白を超えたいのが俺なんだから。


「おーし、明日の配信から本気出すから見とけよ」

「張り切りすぎてコケる未来が見える」

「やめろよ!」


笑いあって、真白を送り届けて、そんな感じで、俺たちの新年は始まった。

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