62.お待たせしてる場合じゃない
お待たせいたしました。第二部開始です。
相方を超えるために頑張る颯真と、超えて欲しいけど負けたくない真白にしばしお付き合いください。
俺が真白を超えるまで、現状維持。
それを真白は受け入れてくれて、その日を待っていてくれてる。
そりゃ頑張るに決まってるんだけど、何をどうすれば真白を超えられるんだ?
うちの事務所で男性アイドルは俺と、女装ユニットのメンバーだけ。ちょっと参考にならないしカナタさんには……いや、情報発信の実力はあると思うんだけど、前回がアレだし。真白とのこと色々聞かれても面倒くさいし。
とりあえずは大手事務所のアイドルの研究でもしてみるか。
と思っていたら、忘年会という名目で呼び出された。社長に。そしたらなんかカナタさんもいた。なんで。
うちの事務所のめんどくさいツートップに挟まれて肉を食う俺。味わえないっつーの。社長の奢りだから思いっきり食べてやるけど!
「真白くんから黒沢くんに色々と報告があってね、僕としても颯真くんから話を聞きたいなと」
それって社長として?個人的に?なんて、野暮なことは聞けない。一応社長だし。
「えっと……真白からは、なんて」
「いずれかのSNSで颯真くんのフォロワー数が真白くんを抜いたら、付き合うことになったと」
「えーっと……はい、そのとおりです」
あー、真白の反応からわかってたけど、確定なんだな。嬉しいけど、その分遠回りしてる自分がちょっと馬鹿馬鹿しいっていうか、なんていうか。いや、ここは曲げられないとこなんだけど。
「颯真くんから?」
「はい」
ここまで静かにカナタさんが話を聞いてるのが不気味だ。いや、社長の前だし、大人としては正しいのか。
「……欠片は集まったんだね」
「はい」
何がどうなったら恋なのか、わからない俺に、社長が教えてくれたもの。独占欲や、嫉妬心も、恋心のかけらだって。
そして俺は、真白の笑顔や、悲しそうな顔や、今まで見逃していた小さな言動なんかに、いままでとはちょっと違う感情を抱いて。それが一つ一つ集まって、確信した。
真白が好きで、恋人になりたいって。友人じゃなく、恋人として、真白の特別な存在になりたいって。
「そうか。いや結構。それまで颯真くんの活動もより活発になるということだね」
「そう……ですね」
「それで」
ここまでにこやかに話を聞いていた社長が、声色を変えた。固く感じるそれに、思わず背筋が伸びる。
「二人が恋人になった暁には、アイドル活動はどうするつもりなのかな?」
……やっべ、考えてなかった。
いや、現状だってあれこれ言われてるけどなんとか続けてるわけだし、活動中は今まで通りとか、いけるんじゃないか……?
俺はともかく真白はそういうの、平然と現状維持でできそう……俺はともかく……で、できるか……?
「……まだ答えは出ていない、ということでいいかな?」
「は、はい……すいません……」
うなだれる俺。目の前にはカルビ。取り敢えず口に入れる。美味い。米もいっとけ。
「まぁ、僕としては何らかの形でタレントとして活動を続けていってほしいけれど、そこは君たちの判断に任せよう。さて、それじゃカナタ君、しゃべっていいよ」
「ってかさぁ颯真!なんで俺に報告がないわけ!?せっかく真白くんを磨き上げてやったのに!俺功労者よ!?なんなら颯真からも感謝されたいわ」
社長の「待て」を解除された途端、カナタさんが猛烈な勢いで話し始める。
ん?真白を磨き上げた?
「いや、ちょ、初耳なんですけど、真白を磨き上げたってどういうことですか?まさかあのときの化粧はカナタさんが!?」
「いやいや、当日は無理でしょ。きみら学校あったし。事前にレクチャーしといたんだよ。服選びも手伝ったし、髪のお手入れも教えてあげたし、アクセも貸してあげたし」
聞いてない。聞いてないよ!なにそれ、そんなことが?
……真白がそれだけ頑張ってくれたのは嬉しいけど、なんでカナタさん?
「……なんか、釈然としない」
「なんでよ!?真白くんの完成度高かったでしょ!?なんならもうちょっと露出させたかったけど本人が嫌がるからあの程度にとどめたんだからね!?」
そりゃあの日の真白は綺麗、だったと思うし。露出は、配信でちょうど話題になってたから気を使ってくれたのかもしれないし、本人の希望かもしれないし、そこはわからないけど。
でもなんかなぁ!なんかカナタさんが噛んでると思うと素直に喜べないんだよなぁ。
「しかもせっかく貸してあげたアクセは使わず戻って来るしさぁ。あの子の頑固さなんなの?」
なんか真白の悪口言い始めたぞ。別に真白は悪くないじゃん……ないよな?
「……そりゃあそうだろうね。別の男性が付けていたアクセサリーを身に付けて颯真くんに会いにいくなんて、あの子が許容できるとは思えない」
ぼそり、社長が言った言葉に、じわりと頰が熱くなる。なんかそれって……言い方アレだけど、俺の女って感じが、する。
「なにそれぇ!潔癖すぎない!?まだ恋人でもないし、プレゼントしたわけでもないのに!?」
「真白くんだからね」
「かぁ~!高校生!ピュアっピュアじゃん!」
何やら文句を言いながら、小さい体のどこに入るのかという勢いで肉を食うカナタさん。……ほんと、なんで。
「なんでカナタさんなんだよ……」
女の友達とかだったら、俺もこんなモヤモヤしないんだけどな。そう想いながら呟くと、カナタさんがピタリと箸を止めた。
「知りたい?」
ニンマリと、しましま模様のピンクの猫みたいに笑った先輩の頭を引っ叩きたくなったけど、なんとか堪えた。堪えた俺偉い。
「聞いたんですか?」
「そりゃね。わざわざ君たちの近況を餌に俺を釣ろうとしたくらいだから、何か考えがあるんだろうなと」
何してんだよ真白!一番ヤバい人に話してんじゃねーか!
「背水の陣だったらしいよ」
「は……?」
カナタさんの言葉に、思わず瞬きを繰り返す。いや、意味はわかったぞ。なんかこう、後がない、ギリギリの状態、みたいなことだよな?え?何が?
「周りに“そのつもりがある”って示すことで、自分が逃げられないようにしたって。……そうしなきゃ、現状維持で終わりそうだから、って」
……そ、そんな大変な決意が?あ、あれか!わざわざ教室で話したのもそういうこと!?
「な、なんでそんな……」
現状維持だって、別に困ることはなかったと思うんだけど……いやそれより、真白が逃げ道塞いだとか、なんか、処理が追いつかない。
混乱する俺をよそに、カナタさんは箸の先で円を描きながら続ける。
「あの子さぁ、女としての自信が底辺に近いんだよね。あれだけの素材持ってるくせに。颯真ともあれだけ仲良いのに、まだ他の女が付け入る隙があると思ってるし、自分じゃ足りないというか無理というか、そういうのめちゃくちゃ拗らせてて」
「……え……」
「だからね、ものすごい勇気が必要だったと思うわけ。女として颯真の前に出てくのは」
「……」
「……そういう真白くんの決意を、お前は“待て”したわけだ。しかもわけわからん男のプライドで」
「えええ……」
箸で指されても、行儀が悪いとかそんなん気にする余裕はないかった。
なんそれ、な、俺、実はものすごく失礼なことした?やばい、今からでもやっぱ変な縛りやめて告白し直し……駄目だろ流石にそれはカッコ悪すぎる。
箸を握りしめたまま頭を抱えた俺に、社長はこともなげに言う。
「いいんじゃないかな」
「でも社長!」
なぜかカナタさんが食って掛かるが、社長は涼しい顔でタン塩を飲み下した。
「真白くんから、颯真くんの告白に対する文句はなかったと聞いているよ。颯真くんが伝えたときも、そうだろう?」
「はい」
「じゃあそれが答えだよ」
……真白はそれでいいって、とくにイヤだとは思ってないってことだよな。それで、いいんだよな?
「……なんすかそれ。そのままの君でいい的な?っはー、真白くん、心広いな」
な、なんか、俺のわがままを真白が聞いてくれてるっていう現状が、胸に突き刺さったぞ。
これはせめて可及的速やかに真白を超えて、待たせる期間を最短にするしかない。やるしかない!
「社長!相談があります!」
カナタのセリフが現実になったのですが、言った本人も言われた人もすっかり忘れています。




