61.決めた!
真白とのデートは、楽しかった。いつもどおり楽しかったけど、目に入る真白の姿がいつもと違ってはっとしたり、周りの視線が気になったりした。
それでも、真白はいつもどおりで、変わらなくて、安心した。
でもさー、いつもどおりだとそれはそれで、こう、ちょっと……俺が気合い入れ過ぎなのかなとか、プレゼント、外したかなとか……。
そんなこと、思ったんだけど。
「……ありがと」
お洒落で美味しくて、ちょっと物足りないディナーの最後の方でプレゼントを渡すと、真白はそう言って微笑んだ。
俺に似合うわけないとか、他にもっとあっただろとか、そんな文句言われるかもと思っていたプレゼントに、あんまり素直に、嬉しそうに真白が笑うから。
そういう顔、もっと見たい……というか、そういう顔をさせてやりたい、とか、思ったりした。
慣れない服で慣れない手繋ぎをして、人混みの中でイルミネーションを見て、さっさと帰宅しようと促す真白はホント、いつもと変わりないんだよ。もうちょっと一緒にいたいとか、イルミネーションの綺麗さに感動するとか、そういう恋人同士のクリスマスっぽいのは全然なくて。
……でもそれが心地良くて、そのくせ、歩き出したと思ったら繋いだ手に力が入って、いつもより小さい声で、不安気に「どうだった」なんて聞いてくるから。
「決めた」
「は?」
いや「は?」ってお前。もうちょっと可愛げある返事はないのかよ。ないな。真白だもんな。
「いや、えっと、決めたん、だけど、あー……」
そしてここで、断言できない俺である。いや、言っちゃっても良いんだけど、流石にこう、今の今、決めたことを伝えるのはちょっと、心の準備がしたいというか。
……いや、真白が不安そうに見てるぞ。ここで決めなくてどうする。まだ確信が持てないというか、言っちゃったらあとには引けないけど、もうここしかないだろ。
とはいえ道端で話すことでもない。目の前にあったちょっとした休憩スポットのベンチに座るよう促して、深呼吸。
冷たい空気を胸いっぱいに入れて、モヤモヤと緊張を吐き出す。
「……真白」
「うん」
横に座る真白は、ちゃんと膝を揃えて、姿勢を正して俺の方を向いている。
決心。決意。そんな言葉が浮かんでくる。
うん。これは、俺にとってのケジメだ。
ずっと一緒にいてくれた真白との、これからを決めるっていう、ケジメ。
「……今日一日、デートしてみて、わかった。俺と真白は、友達でいても、恋人になっても、楽しく過ごせるし、変わらずにいられる」
「……うん」
真白が下を向く。いや違う、泣き出しそうな顔をしている。なんで泣くんだよ!まだ何も結論言ってないだろ!
「だから……だから、恋人に、なりたい」
「え」
ばっと顔を上げた真白の瞳は、涙の膜を張っていて、街灯の光を受けてキラキラと輝いていた。
驚きと、喜びが、いつもより華やかな顔を彩っていく。
「……けど、今の俺じゃ、足りないから。その……彼女のほうがイケメンとか、やだし」
「……うん?」
あー、何か、うん。予想通り、あんまり伝わらないかも。でもこれは、俺としても譲れないとこだから。咳払いをして、続ける。
「だから、真白よりいい男になったら告白するから、待ってて欲しい」
「……いつだよ、それ」
ぐっ。ここでこの切れ味のツッコミ。瞳うるうるさせてた乙女はどこ行った。心なしか表情も冷めたものに変わっている気がする。
「えっと……とりあえず、SNSのフォロワー数で、真白を超える、まで……」
「いやそれ道のり長すぎないか?」
「いや、総合だと厳しいかもしれないけど、どれか一つくらい、俺が頑張ればなんとか」
「えー。それ、負けたいけど負けたくないやつ」
そ、そりゃ簡単じゃないことはわかってるけど、彼女の方がイケメンです女の子にモテますとか、男として許せな……あれ、いま、負けたいって。
「ま、頑張れよ。どんだけかかるかわかんないけど……待ってるから」
告白の前に答えをもらってしまった。すごくいい笑顔で。
あれ、なんか俺、勝手に遠回りしてる?これ、ここでゴールできた感じ?
「……と、とりあえず、そういうことだから!それまでは現状維持で、よろしく」
「ん、よろしく。さー、冷えてきたしさっさと帰ろうぜ。家帰って温かいもの飲みたい……うち寄ってく?」
「えっ、あ、いや、それは」
あっさりと立ち上がった真白の、さっきまでの会話の余韻なんて欠片もない様子に慌てる。いやあの、恋人になりたいとか言った直後に家に誘われるのってなんかちょっと、邪な期待をしてしまいそうになるんだが。
「そう?んじゃさっさと帰ろう。俺も明日の準備しないと」
そ、そうだった明日は配信があるんだった。
ていうか普通に学校あるし。変に意識しすぎるな俺。明日以降も現状維持って、俺が言ったんだし。
「……まぁでも」
先を歩く真白の手を取ろうか、迷う。まだ……まだ、今日は恋人(仮)で、いいよな?
何か言いかけた真白の手を掴んで横に立つと、一瞬驚いたように目を瞬かせた後、生意気という言葉にピッタリの笑みを向けてきた。
「俺を超えるまで、こういうお誘いはもうないかもな?」
お誘いとかわざわざ言って、俺の反応を楽しんでるな。ほんっとこいつは……性悪で、素直じゃなくて。
「……すぐ超えてやるよ」
「んふふ、楽しみ。そう簡単には負けてやらないからな」
でも、好きだ。
こうして一緒にいる時間も、減らず口をたたく生意気さも、負けず嫌いも。
全部ひっくるめて、真白ともっと、一緒にいたい。
「どうだった〜?うまくいった?」
帰宅して早々、玄関で早速お袋に詰め寄られた。いやー、あの、何をしてうまくいったって言うんですかね。うまくはいったと思うんですけど。
答えにくくて、でも多分、顔に出てたんだと思う。
「……あら、うまくいったみたいね?それで?どうなの?恋人になったの?」
「……それは、まだ」
「えーっ、なんでよぉ!楽しみにしてたのに!お祝いしたかったのに!」
「いやあの……お祝いとかは勘弁してほしいっていうか」
なんて話しながらリビングに向かったら、弟2人が微妙な顔をしていた。おい小学生、もう寝る時間だぞ。
「なーんだ、だめだったんだ」
「いや、兄さん落ち込んでないし、脈アリとか保留とか、そんな感じじゃない?」
「いけそうってこと?」
「多分そう」
いやいやお前ら、勝手に何言ってくれてんの。
……間違ってはいない気もするけど。
「……とにかく、俺が真白のフォロワー抜かすまでは、今まで通りだから」
「あら」
「えっ」
「……なんか、面倒くさいことしようとしてる?」
おい三男。核心を突くな。
「なるほどねぇ。それじゃお母さんも協力しなくちゃね」
「いや協力って」
「お料理動画、やるんでしょ?」
……忘れてた。
「颯真の株が上がるように、お母さんも作戦考えるわね」
「いいから!余計なことしなくていいから!」
俺が必死にお袋を止めている横で、三男と末っ子は三男のスマホを覗いていた。
「うーん。今のフォロワー数から……けっこう厳しい道のりじゃない?無理ではないと思うけど……」
「ねぇ真白くんに手加減してもらったら?」
「それは無し!」
俺が超えなきゃ意味ないんだよ!ていうか数字はあくまで結果だから!真白よりいい男になるのが目標だから!
そんなこんなで大騒ぎして、片岡家のクリスマス・イブは幕を閉じた。あー、親父がいなくてよかった。絶対お袋に味方してたわ。
まぁとにかく、俺の目標は決まった。
そもそも、相方には負けたくないもんな。
やっとタイトル回収できました。第一部完結ってことで、少しお休みいただきます。第二部で本編は完結、その後番外編までいきたいなーとは考えてます。




