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6.キャラ作ってない?

「なー、なんか俺に気ぃ使ってる?」


真白にそう言われたのは、配信の翌日。

俺がお袋に説教されて三日後。

特に配信や動画撮影の予定もなく、レッスンもない月曜日の放課後。

何もないんだけど、結局二人で帰宅中だ。いやだって、最寄り駅一緒だし、二人とも何も予定ないの分かってるし。

こんな言い訳も、そういや「デキてる疑惑」を目にしてなきゃしなかったんだけど。

梅雨に入ってだいぶ経つ。雨傘の下、白いシャツと黒いスラックスを履いた制服姿の真白は、ぱっと見ちゃんと男子高校生だ。でも隣りにいる俺からすれば、やっぱり違う。


この数日、ぶっちゃけ色々、俺の中でだけ色々あって、へんな距離のとり方をしていた自覚はある。

昨夜は勝手に「女っぽいコスプレ姿の真白」を脳内生成してしまい、それを打ち消す作業で忙しかった。

萌えたとか滾ったとか、そういうことはない。むしろ男友達が罰ゲームで女装させられたときの気まずさのようなものと、申し訳無さが大半だ。

……大半だ。衣装そのものの魅力というのは、まぁ、あるわけで、だからまぁ、そう、男の女装とはちょっとちがうというか……まぁ、そんな感じで。

そんなこともあったので、真白の問いにもすぐには返事ができなかった。なので、返事をする前に追加で念を押された。


「ガチ恋がいるとかいないとかさ、俺自身はとくに、気にしてないからな?」


うっ。そこまでバレてた。というかちょっと忘れかけてた。

いや、忘れてないぞ!忘れてない、忘れてない……。


「気にしてんのかどうかもわかんない相手に、そういう話すんなって、おふくろに言われたから」


こういうときは変に隠すより、正直に言うに限る。

でも、本人が気にしてないなら少しは安心できる。

いや、なんかモヤッとしたものは残るんだけど、それはそれとして。


「あー、やっぱりか。全然、ほんとに、俺にとってファンの子たちはファンでしかないから。『アイドルやってる俺』しか知らない相手に、惚れられても困るし」

「まぁ、それもそーだけど。でも、お前言うほど作ってるか?」


真白の顔がすんっと真顔になった。おっと、これはなんか、俺がやっちまった流れ?


「まぁ、作ってるとまでは言わないけど、見せるところと見せないところは意識してるよ」

「お、おう………そっか」


こういうことを当たり前にやってるんだなと思うと、何も考えず素のままで過ごしてる自分が情けないというか、申し訳ない気持ちになる。多少なりとも給料というか、金もらってるんだから頑張らなきゃだよなぁ、と俺は反省していたのだが。


「でもまぁ、颯真は作る必要ないもんな。羨ましい」

「……うらやま……?」

「ん。そのまんまで人に好かれるんだから、すごいよ、お前は」

「それは……」


考えなしとかそういう、からかう言い方ではなかった。だからなんともこそばゆい。

でもやっぱちょっとバカにされてるような気がしてしまうのは、多分普段の真白がそういう奴だからだ。毒舌。

でもそんな気分は、次の台詞で消えてしまった。


「だから変に作ろうとすんなよ?俺は純度100%の作り物だから、これでバランス取れてるんだから」


笑って言うんだよな、こいつ。ネタ扱い。自分の生き方を。

さっきの台詞まで、俺と比べて自分を下に見てるように思えてくる。


「……100%じゃないだろ」


思わず、ちょっと低い声で言ってしまった。

俺の親友は、そりゃちょっと変わってるけど、笑われるようなことはしてないはずだ。

真白は少し間を開けて、目線を進行方向に向けてから答えた。


「……うん。まぁ、お前と一緒にいるときは、半分以上はちゃんと、俺かな」

「低いだろ」

「そうか?あぁ。二人きりと、ファンの前ならもちろん違うぞ。今はそーだな……」


真白の顔が傘で隠れた。


「……90、くらい?」


100ではないけど、きっと一番100に近い数字をくれたことに、ちょっと安心した。


「……なら、まぁ、よし」

「何様だよ」


こっちを向いてそう突っ込む真白の顔は、ちゃんといつもどおり、不敵な笑みだった。


今日は野球中継もないし、そのまま家の近くで別れた。

で、俺はようやく妄想生成をやめた頭で、ないなりに知恵を絞ろうとしていた。


歌とダンスの練習は、今まで通り頑張っている。俺たちには実力以上にファンがついているので、ここは頑張るしかない。

動画と生配信は、このままで大丈夫だと黒沢さんに言われたので、とりあえず現状維持。楽しくやれてる。動画はそのうちもっとクオリティ上げたいけど、そこまで技術もないし人に頼めるほどの金はない。

SNSでの仲良しアピールは、真白が頑張ってる。多分今日も、画像は無理でも俺と帰宅したことくらいは投稿するはず。

じゃあ俺が頑張れることって何だ?


そんな考えをノートに書き出し、問題点を探していく。

よく俺らしくないと言われるけど、これは野球やってたときに教わったやり方で、けっこう俺には馴染んでる。

言葉にできないけどなんか引っかかるものがあるとき、何かしなきゃいけないけどそれが何かわからないとき、取り敢えず今やってることを書く。

それから足りなそうなものを考えて、やらなきゃいけないことを書く。

最後にやりたいことを書く。

これでけっこう、自分が何をすべきかわかる。


いや、高校受験のあと、アイドルやるって決めた時に開いて以来だな、このノート。

ともあれやるべきことの部分を絞り出さなきゃいけない。

うーん。引っかかってんのは活動そのものっていうより真白のことなんだよな。

あいつ自身は何も気にしてなさそうだし、問題とも思ってなさそうなんだけど。

……まぁ、投稿増やしてファンの数もますます増えたみたいだし、そりゃ気にしてないか……


……って、それだ。それだよ!俺のファンの数が!ますます真白に負けてるじゃねーか!


これはだめだぞ、うん。いわゆるコンビ芸人の「じゃない方」みたいになってるんじゃないか?俺。

そもそもネットアイドルの世界で活躍してるのはほとんどが女子だ。男性アイドルの居場所は少ない。

うちの事務所はキワモノ揃いで、女装男子グループも所属してるからそういう感覚薄いけど、俺達は完全に色物なのだ。

……まぁ、色物部分なのが相方なんで、俺だけ普通、ますます売れるもんがない、となるわけだが。

このままじゃますます真白だけが売れていく。それはむかつく。負けたくない。


そーだよ。真白にも黒沢さんにも「そのままでいい」って言われたけど、どー考えてもこのままじゃ駄目だろ。俺。

真白みたいに自分の見せ方を考えたことなんてない。ないけどなんかやらなきゃ駄目だ。

俺に何ができる?


真白に言ったら、一緒に悩んでくれるとは思う。「そのままで」とは言ったけど、俺がやると決めたらちゃんと助けてくれる奴だ。

でもなんか、頼りたくない。だって真白に負けたくなくてやることだし。


黒沢さんに聞いてみてもいいけど、あの人めちゃくちゃ忙しいし、真白と一緒に話を、って流れになりそうで嫌だ。


うんうん唸った挙げ句、俺は一人の先輩に連絡を取ることにした。

色物のプロだ。多分なんか、俺の知らないいろんな技術を持ってるはずだ。


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