59.クリスマスイブの恋人たち(仮)
とうとうだ。とうとう来たよ。クリスマス・イブ。
俺は待ち合わせ場所で真白を待っている。いつも遊ぶ駅前の待ち合わせスポット。学校が終わって自宅に帰って、着替えてからの集合だから、もう夕方だ。
めちゃくちゃ寒いけど、なんだか周りの人たちも少し浮かれて見える。
知ってたか?この日ってちょっとお洒落な飯屋は一ヶ月も前から予約が埋まってて、しかも高いクリスマスディナーのコースしか選択肢がなかったりするんだってよ。
そんなん、ファストフードや定食屋、良くてカフェぐらいしか行かない高校生が知ってるわけないよな。俺は知らなかった。
それをさぁー、うちの相方はさぁ、さらっと手配してくれちゃってんの!しかもちょーどいい価格帯で!よく見つけられたよな。
こういうのスマートって言うんだよな。必死さを見せずにさらっとやってみせる。
いや、イケメンすぎるだろ?
そもそも顔が良くて頭も良くて運動神経も良くて、これ女子が騒ぐのも仕方ないよなっていう……。
そんなイケメンが、間もなく現れるわけだ。イケメンではなく、女子として。
っべー、緊張してきた。
まがりなりにもアイドルやってるわけだし、今日は彼氏(仮)なわけだし、イケメンさで負けるわけにはいかないと気合い入れてきたんだけど、入れすぎたかな……。
普段はあんまり着ないジャケットとか着てみたんだけど、笑われないよな?一応お袋からは合格点をもらったから、大丈夫だと思うんだけど。
いやそれより、真白がどんなカッコで来るかだよ。そもそも女装してる……女装でいいのか?とにかく、女のかっこしてるのなんて、それこそ雨に降られて部屋着に着替えたときくらい……いや、そこでショートパンツにズームインするな俺。その前の服脱いだ後姿も思い出すな。今から会うんだからやめやめ!
……えーっと、とにかくまともな女装はここ数年見たことないわけで、方向性さえまったく予想がつかない。
いやまぁ、露出はないって本人も言ってたし、いきなりフリフリヒラヒラの女子力全開な服とかもないだろうし、そんなに普段とは違わないはずだ、うん。
「おまたせー。ごめん、思ったより時間かかった」
声の方を向けば、そこには真白がいた。
体の大部分を覆っているコートはいつも通りだけど、その裾から見える足はタイツとブーツを履いているし、パチパチとまばたきを繰り返す目元はいつもより華やかだ。派手ではないけれど、化粧をしているのはわかるし、なんというか、雰囲気が、ぜんぜん違う。
思えば少し、声が高い気もする。え、双子の姉とか言わないよな?
「……ここでそこまでびっくりする?」
はっとして口を開けたが、何を言ったらいいのか分からず。
「いや、似合ってる」
「ふふっ、服も見てないくせに」
とっさに口をついたお決まりの台詞を、笑われてしまった。でもなんか、その笑いも心地良いっていうか……。
「その、いつもどおりで、いいんだよな?」
「うん。っても、そんなに時間ないし、ゲーセンか、ちょっとお店冷やかすくらいかな」
「了解」
会話の区切りで歩き出そうとして、真白にコートの袖を掴まれた。
「手」
「え」
つ、繋ぐってこと?見ればコートを摘んでいる指先も、いつもよりキレイな気がする。こ、この短時間でネイルまで塗ってきた!?マジじゃんガチじゃん!
指先から真白の顔に視線を移すと、なんかこっちが申し訳なくなるような、ガッカリした顔をしていた。
「……いや、手、冷たいし、やっぱいい……」
「まっ、待て」
まだ何も言ってないのに諦めようとする真白の指先を掴む。確かに冷たい。冷たくて、細くて、ちょっと不安になるくらいの指先から、手の甲まで掴み直して。
「……こ、恋人のつもり、なら、しといたほうが、いいだろ」
「……そこまで無理しなくていいけど……」
うああ、ここでどもる俺のバカ!嫌嫌やってる感じだと思われてるぞ!違うんだよそーじゃなくてさぁ!
「無理じゃない!」
「……まぁ、颯真が良いなら……」
俺のはっきりきっぱりした否定をどう受け取ったのかは知らないが、取り敢えず真白も頷いてくれた。
ぎこちないながらも手を繋いで、ようやく俺たちは歩き出した。
……あれだな、手を繋ぐと必然的に距離が近くなるんだな。あとなんか、真白の足元がいつもと違うから、ちょっと気を使うな。……なんとなくいい匂いがするのは、真白の化粧とかなんかなのかな。
そんなに大きくいつもと違うわけじゃないのに、ゲーセンまでの数分が妙に落ち着かなかった。
そしてゲーセンに入ると今度は暖房が効きまくってて、暑いくらいに感じた。脱ぐ?といつもの調子で聞いてから、女子相手に脱ぐはねぇだろと思ったけど、真白はいたって平然と頷いた。
「上着脱ぐと荷物が嵩張るのがなぁ」
なんて、いつもどおりに文句を言いながらコートを脱ぐと、女子らしく襟の開いた、ふんわりした白いニットと黒のショートパンツが現れる。赤っぽいタイツとブーツを履いた脚も含めて、なんていうか、女子が憧れるようなラインだ。
「これから飯食うしプライズ系はなしだな」
「あぁ、まぁ……」
「何やる?けっこー人いるな、空いてそうなのは……」
でもなぁ、言ってることはいつもどおりだし、ペースを握ってるのは相変わらず真白なんだよな。
……いやダメじゃん!?なんかちょっと俺もいいとこ見せとかないと彼氏(仮)としてダメすぎないか!?
こちらも脱いだ上着を片手に慌てて真白の横に並ぶ。あ、そうだよまずはちゃんと服を褒め直してだな。
「あ、颯真」
「ん?」
「今日の服、似合ってる。かっこいい」
にっこり、多分美少女と言っていいだろう真白にさらりと褒められて、俺は顔が熱くなってしまった。
「……そーいうとこだぞ」
「ん?ああ、俺がかっこいいって話?」
そう……そう、なんだけど。そうじゃなくて。
「だからさぁ……俺にもカッコつけさせてくれよ」
「それは颯真が自分で頑張るとこだろ」
「そうなんだけど!先にやられちゃうと後出しでカッコ悪いじゃんよ」
「……先に?」
首を傾げる真白は、わかってなさそうだ。ならまぁ、後出しでもいいか。
「真白も、似合ってる。かっこいいし、ちゃんと、女子っぽい」
「え、あ」
おっ、珍しく真白が返事に困っている。やった。いややったじゃなくて。
「んと……ありがとう……」
うっ……照れてる……あからさまに照れて視線を外している……これはちょっと……可愛い……ぞ……。
「……」
「…………」
「と、とりあえずなんか、遊ぶか」
「うん、そーだな、うん」
思わずお互い黙り込んでしまったが、なんとか気を取り直してゲームに向かった。
ふー、危ない危ない。やられるとこだった。やられるってなんだ。
それから三十分くらい、いつもどおりに遊んだ。いや、俺たちはいつもどおりだったんだけど、やっぱこの日にゲーセンで遊んでるのって圧倒的に一人身が多いわけで、カップルに見える俺達は悪目立ちしていた気がする。ふと周りを見るとこっちを見てる奴と目が合ったりして、いつもより視線が気になったのは間違いない。
いつもどおり、真白が男装してればこんなことにはならないのにな。女の格好してるだけでこうなるのか。
……いや、うん、真白が美人、ってのも、あるのかもしれないけど。
ちょっとだけもやもやしたものを抱えながら、コートを着込んだ俺達は寒空の下に出て、真白が手配した店へと向かった。
クリスマス・イブ前半はいつもの颯真視点でお送りしました。後半は真白視点でお送りします。




