56.三十分クッキング(また醤油味)
クリスマスやら年末に向けて、ちょっと気合い入れるかーと思っていたわけだが、その間も配信や動画撮影はあるわけで。
ネタ探しと撮影準備に追われるうちにどんどん日にちが過ぎていく。やべぇ。
「本日は、颯真の料理チャレンジ第二弾、豚肉の生姜焼きです!」
「好物なんで頑張ります!……これ、肉じゃがよりは簡単と思っていい?」
「あー……うん、多分」
相変わらず不安しかないが、料理動画第一弾はそこそこ好評だったので第二弾の撮影に臨むことになった。他のネタ探してる余裕がなかったともいう。
メニュー的には炒め物?だから、多分前よりはまともになると思うんだよな……多分……。
「今回も俺の口出しはなしで、メインの材料のみ適量をご用意しております。それではどーぞ!」
えーと、何かイメージだと豚肉に下味?つけてから焼くんだよな。あとキャベツの千切り……いや千切りって初心者には無理じゃね?いけるか?
本日の結果。
しょうが醤油味のカチカチの肉と半生の玉ねぎ、無残な姿のキャベツ
……なんでだよ!けっこういけたと思ったのに!
「まぁ、生の煮物よりはまだ……あと下味にみりんを入れたのは偉いと思う。学習したな」
「それでも醤油味だけどな」
「みりんはもっと多くてよかったな。あと生姜多すぎ」
「それな。こんな辛い生姜焼き初めて食った……。玉ねぎ柔らかくするにはどうすればいいの?これ以上焼いたら肉焦げない?」
「薄く切る」
「そっちかぁ!」
「ていうかなんで味見しないの?」
「え、していいの?」
「いいよ!禁止してないよ!プロだって主婦だって味見するだろ!」
反省会をしながらの試食は、美味しくないという一点を除けばわりと楽しい。
いやでも、これマヨネーズなかったらキャベツも無理だったわ。すげー時間かけて千切りにしたのに、俺の知ってる千切りじゃなかったっていう……。
撮影が終わったら編集の打ち合わせだ。
料理中は発言できない真白は、ツッこみたいタイミングがかなりあったみたいだ。この動画だけは2人で編集しないと形にならないな。
「次はお菓子でもいってみるか?」
「いやいや、お菓子作りとかぶっつけは無理だろ……せめてちゃんと手順確認してやらせてくれよ」
「まぁたしかになぁ。生焼けの焼き菓子とかは流石に食べるの嫌だし……」
次はまた一ヶ月か二ヵ月後ってことで、料理動画は続くことになった。
「そういや最近フォロワー増えてきたな」
「おう。努力の甲斐あってな」
そう。野球ネタだのなんだの、色々挑戦してみた結果、じわりとだがフォロワーが増えてきたのだ。
このまま真白を抜いてやる!……と言えるほど差が縮まったわけではないけど、まぁ、前進には違いない。
……そのくらいは、勝ちたいんだよなぁ。
「なぁ、料理動画ってまだ続けるの?」
ファン、らしいクラスメイトからの問いかけに、首をひねる。やってほしいというよりは、やめてほしいニュアンスを感じ取ったからだ。
「次回もやろうとは言ってるけど……つまんなかった?」
「いや、テロップうまく入れてて面白かったんだけど、ほら……アンチがさ」
アンチ。この場合はあれだよな。真白のアンチだよな。
「なんで俺メインの動画でアンチが騒ぐんだよ。別に真白もそこまでひどいこと言ってないだろ?」
そう。ちょっとマイルド過ぎるかな〜と思うくらい、真白のツッコミは冷静で、トゲがなかった。毒舌のほうが喜ばれるのに、とか思うくらい。俺への気遣い……なのかどうかは、わかんないけど。
「いや〜、まぁ、お前への対応もあるけど、それよりさ。最後に真白の作った正解の料理食べるじゃん?あれがなんか、たいして料理上手でもないのに女子力アピってるとかなんとか」
「なんだそれ」
いやほんと、何だそれ。
そりゃ別に、真白が料理上手かって言われたらそうでもないけど、なんでそれが女子力アピールになるんだよ。じゃああれか、料理に挑戦してる俺は、女子力を磨いてる状態なのか?
「もうさー、アンチは真白が女子っぽいことすんの全般だめなんだよ。メイクでも料理でも」
「……はぁ……んで、やめといたほうが良いと」
「まぁ……余計にアンチを煽らなくても、と」
心配してくれてるのもわかるし、わざわざ真白に嫌な思いさせたいとも思わないけど……。
「いや、続ける。アンチの言うこと真に受けてやりたいこと諦めたりしないって、真白と決めたから」
そうなんだよな。言いたい奴には言わせておけ、だ。俺たちを応援してくれてる人が喜んでくれて、俺たちが楽しければ、それでいいんだよ。
って、俺がかっこよく宣言した話を、下校中に真白にしたら。
「いや、俺も先生役は無理あるな〜と思ってたし、ちょっと考えてたことがあって」
「え?」
なんでか真白が教師役を降りると言い出した。
「颯真のお母さんにお願いしようかと」
「やめてくれよ!」
無理無理!家族と動画で絡むとか無理!兄弟ならまだしも、親とか無理だって!
「えー。顔出しはしないからさ。圧倒的に料理うまいじゃん。先生に適任じゃん」
「生徒が嫌がってんだよ!やめてくれよ!」
「ええー」
真白はまだ諦めていないようだが、ここは拒否させてもらう。なんとしてもだ!
「真白だって自分の家族と動画出たくないだろ!」
「うちの場合は親が出たがらない。弟は顔出し無しでゲーム実況なら良いって言ってる」
「いやそれはうちの親……だって……」
……どうかな、おふくろ……軽く芸能活動してたみたいだし、良いわよ〜とか、言いそうな気もする……。
俺が考え込んでる間に、真白は何やらスマホをいじっていた。
「出てくれるって〜」
「は!?ていうかいつの間におふくろと繋がってんの!?」
OK!と書かれたスタンプが、たしかにうちのお袋から送られている。速すぎる。送るのも返すのも。
「はぁ?お前がうちで寝落ちたとき、誰が連絡とってると思ってんの?」
「あっ、すいません」
それもそっか……いやしかし……そうか……。
「次回は年末くらいになりそうだし、揚げ物とかいいかもな〜」
「いやだから初心者!ハードル上げ過ぎなんだよ!」
メニューに突っ込んでいるうちに、お袋が出ることは確定してしまった。しまっていた。
くそっ!こうなったら料理以外のことを話さないようにしっかり釘を差して……またなんか真白がスマホ弄ってるんだが?
「真白。何して――」
「せっかくなんで颯真のお母さんへの質問を募集しとこうかと」
「すんな!」
「もうした」
だから速いんだって!
見れば真白のアカウントには、うちのお袋がそのうち動画に出るかもしれないから、今のうちに質問募集、という投稿がされていた。すでに反応があって、消そうにも消せない。鮮やかすぎるんだよ手口がよぉ!
「いいじゃん、ファンは喜ぶ、俺も美味しい料理で口直しができる、WIN WINで」
「そこに俺は入ってないんだが?」
「俺の料理よりは美味いもん食えるじゃん」
「別におふくろの料理は毎日食べてるし」
「贅沢ぅ〜!自炊してる身からしたら贅沢だぞ!?あんな美味しい料理出してもらえるなんて!」
「それはまぁ、そうなんだけど」
いやだったらうちに夕飯食いに来ればいいじゃん、とは思ったけど、問題はそこじゃないんだよなぁ。
「あ、俺も料理教えてもらえるっていうのもプラスポイントだな」
「……真白が、お袋から……」
…………………………いや、ここは深読みしないほうがいい。うん。きっとそうだ。
せめて次の料理動画のテーマが、ものすごい難易度とかにならないことを祈っておこう。




