55.デートって言いました?
「どーするかねぇ」
「どーするかなぁ」
真白と二人、頭を突き合わせて悩んでいるのはクリスマスの配信についてだ。内容を決めるにはまだ早いけれど、日程は決めておきたいという話になったのだ。
まあうん、確かにな。恋人なり家族なりと過ごす人が多い……かもしれないし、イブがいいのか当日がいいのかは悩ましいところだ。去年は活動始めたばっかりでそんなん気にしてなかったけど、今は視聴者増えてるもんな。
カレンダー的には水曜日の配信がクリスマス当日で、イブはダンスレッスンがあたってる火曜日なんだけど……多分ここはダンス教室のイベントがあってレッスンがズレる。だからやろうと思えば火曜日も配信はできる。
「アンケートでもとってみる?」
「そーだな、よりたくさんの人に見てもらえる日のほうが良いよな」
「まぁでも、俺等の方でも何かあるかもしれないし、参考程度、ってことで」
「了解。真白のアカウントでやる?」
「またなんか言われそーだけどな。それが順当だろ」
はぁ……そうだな。SNSのフォロワー数は真白のほうが上だし、リーダーを自称してるし、それでも真白がやることに文句言う奴がいるんだよな……。いやまぁ、もう仕方ない。ここは諦めよう。いやフォロワー数で勝つことは諦めないけども。
俺たちの高校バレについての続報はなく、ファンには気付かれていないか、気付いても広めないでいてくれている、と結論付けた。
そしてクリスマスの配信についてのアンケート結果、一番多かったのは「どっちでもいい」で、次が「25日」僅差で「24日」だった。あんま参考にならねーな。
「これは……一応25日、かな」
「だな」
「今さらだけど颯真んちのクリスマスは?いいの?」
「あー、まぁ、飯とケーキ食うだけだし」
一応クリスマス当日にパーティーというのが片岡家の恒例行事なんだけど、末っ子もサンタクロースの正体は知ってるし、兄貴は一人暮らしでうちにいないし、親父は仕事が忙しくて参加できたりできなかったりだし、残った兄弟とおふくろで、チキンとケーキ食う日ってだけだ。プレゼントは何なら事前にもらったりするしな。配信前にチキンだけ食ってくとかもありだ。後はケーキ残しといてもらえればいいな、うん。
それに対して真白は一人暮らしだし、ボッチクリスマスになるわけで……配信で俺と一緒のほうがいくらかマシかもしれないな。
クリスマスイブはふたりとも暇になっちゃうけど、まだ学校もあるし普通のオフの日と思えばどうってことはない。
……いや、彼女とデートとか言ってる友達見たら、笑顔で頭引っ叩きたくはなるかもしれないけど。はー、彼女ほしい。
いや、彼女ほしーなー、って言うのはもう口癖みたいなもんなんだよ、この年頃の男は。多分。そこに深い意味はないしぼんやりした希望ってだけなんだ、ほんと。具体的なプランとか、なんもないし。
……誰に対して言い訳してんだ、俺。
「うーん……そっかぁ……そっか……イブが空くのか」
考え込んだ風な真白の呟きは、なんとも意味ありげだ。真白にとっては普通のオフとは違うということだな。ひょっとしたら両親や弟と食事を、とか考えてるのかもしれない。
「……なんか予定あんの?」
「いや……」
俺の問いかけにも、はっきりとは答えない。なんだろ、この感じ。未定?考え中?
まだ何やら考え込んでる真白をよそに、俺は配信のネタ集めだ。クリスマス当日とか何やれば良いんだろ。ファンにプレゼント……とか?プレゼントになるような新曲とかイベントとかの告知はないしなぁ。あ、1周年イベントで作ったグッズとか使えないかな。あとはファンにもやって欲しいこと聞いてみるか……。
「颯真」
「うん?」
考えがまとまったらしい真白が声をかけてきたので、俺も顔を上げる。まっすぐにこっちに視線を向けてくる真白は、なんだかいつもより目に力がある。
「デートしよう」
「うん!?」
えっ、デート。わざわざデートって言った。え、イブに?二人で出かけるの?カップルでいっぱいのとこに?俺等二人で?
「あー……イヤなら無理にとは、言わないけど。その……保留にしてから、2ヶ月くらい経つし……ちょっと、お試し、というか……」
「あ、え、うん、いや、嫌ではないけど、その、つまり?」
「……ほんとに付き合ったらどんな感じか、やってみない?」
や、やばい。なんか心臓が急に跳ね出した。緊張?混乱?わけわからんけど、でも。
「わ、かった……」
「ん、んじゃ、そういうことで。とりあえず空けといて」
えっ、なんか、急に、クリスマスイブにデートすることになったんだけど?
デート!?クリスマスデートってどうすんの?何すんの?あ、プレゼント、プレゼントは用意しないとだよな?服とかいつも通りでいいの?なんかちょっとは気合い入れるべき?あ、そもそも真白は……
「……あと、この日は、男装しないってことで」
そうなるよな!そう……え、何、じゃあほんとに、女のカッコした真白と、デート?
「ちょっ……となんか、どうしたらいいのか、わからない……」
素直に漏れた弱音に、真白が笑う。
「俺だってわかんねーよ。でもまぁ、他の人とおんなじ、とかにはしなくていいんじゃね?あぁ、プレゼントだけは、予算決めておこうぜ」
そっか。真白もわかんないのか。わかんないからやってみるんだもんな、うん。それに真白が、普通の女子と同じことして喜ぶとは思えないし。予算決めるとか、そんなんはっきり言っちゃうのも真白らしいし。
そんなふうに考えたら、少し落ち着いた。
「ちなみにプレゼントの予算、デートの予定なかったときと変わる?」
「あぁ〜……変わる、かなぁ?友達と恋人だと重さが違うかも?」
「マジで?そんな高価なプレゼントとか考えたことないぞ」
「いや高価ってほどじゃなくていいんだけどさ、友達よりはちょっとだけ……気持ち的に」
そんな話をしていると、雰囲気は配信の打ち合わせと変わりなくなってきた。うん……変に気負わなくてもいいのかもしれない。
「いや駄目でしょ」
クリスマス当日は配信すること、イブは真白と出かけることをお袋に伝えたところ、一刀両断された。
「クリスマスデートでしょ!?気合い入れなくてどうするの!?」
「いやデートってわけじゃ……まぁ、デート……みたいなもんだけど」
「というかそもそも付き合ってるの?まだなの?」
「えーっと……」
いつになく前のめりなお袋に気圧されて、ちょっと引く。衣装決めのときもガンガン口出してきたけど、それ以上だな。
「付き合ってはいなくて、お互いこう、親友の期間が長かったから、改めて恋人っていわれてもピンとこないというか、それでお試し、みたいな……」
「うんうんなるほどね?恋人になったと想定してのクリスマスデート……やっぱりいつも通りじゃだめよ」
「ええ〜……」
なんでだよぉ。いつもの感じなら気楽に行けると思ったのに。まだ一ヶ月くらいあるんだぜ?今から準備とか言い出しかねないぞこの人。
それは正直勘弁してほしい。そもそも俺のモチベがそこまで上がってない。
「とりあえず、その話は後で……」
「ええ〜?じゃあ当日までにお母さんがコーデ用意しといても良い?」
「いやその……」
めんどくせーから丸投げはありがたいんだけど、それでめっちゃ気合入った恰好させられるのも困るというか……どうしよこれ。
「母さん。兄さんのほんとのデートでも服選ぶ気?」
黙って聞いていた三男が口を出してくれた。さすがにお袋もそれは違うと思ったらしく、渋々引き下がってくれた。
「じゃあ、颯真が悩んだら相談してちょうだい。服でも、プレゼントのことでも」
そうだった!プレゼント!忘れてた!
こっちのが難題じゃね?恋人ならアクセサリーとか鉄板なんだろうけど、真白にそれってどうなの?
「……そのうち、相談するかも」
期末テストも近い中クリスマスの配信の中身も考えなきゃいけないってのに、デートのことまでとか……俺のキャパ軽く超えそうだな。
……いや、それは真白も同じというか、真白のほうが大変か。泣き言言ってる場合じゃないな。
とりあえずこっからクリスマスまでの一ヶ月、後悔しないように動くとしよう。
「頑張ってね、兄さん」
……なんか弟からの期待の視線も痛いけど、まぁ、やれるだけやってみよう。
お母さん、ものすごく口出ししたいし根掘り葉掘り聞きたいのをこれでも自重しています。




