54.男装アイドルの相方は心配性
愛羅と俺達、三人の制服姿のスリーショット、Aliceblueのタグ付き。
そこから考えられるのは、学校の特定と、生活圏の特定。もっとも、今回は愛羅に合わせて移動したから、普段行く街とは違ってはいたけど。それにしたって。
真白も深くため息を付いてから続けた。
「見つけた瞬間電話して削除させたから大丈夫だとは思いたいんだけど……良くも悪くもファンも増えてきたし、熱烈な子だとものすごい頻度でタグ追ってるみたいだから……どーかな、って感じ」
「黒沢さんには?」
「真っ先に連絡した。今バイトくん使ってファンの反応探ってくれてる」
「有能……」
なんかさっきの甘酸っぱいやり取りが吹っ飛んだな。やらかしてくれたな。なんかリトルリーグ関連で前もあったな。やめてくれよほんと。リトルリーグ自体はいい思い出なんだからさ。
「俺もちらっと覗いてみたけど、投稿から削除まで一時間も経ってないから目についてない……と思う。今んとこ」
「はー……だといいな。俺はもう本名だし別にいいけど、真白はなぁ」
「……お前だって家族に迷惑かかるかもだろ」
「高校バレても自宅はバレないだろ。つか大丈夫か?怖い……っていうか、その、心配になったり、とか」
アイコラおじさんみたいなのが真白の個人情報手に入れるとか、めちゃくちゃ怖いだろ。あれがレアな人種だって言っても、他にいないとは言い切れないわけだし。
んでもって、怖いとか素直に言う奴じゃないし。でもここで我慢させたくないし。あー、流石に今から家に来いってのは無理だよな……明日は家まで迎えに行くか?
「うーん……なんとなく不安ではあるけど……学校の特定はまぁ、いずれありうるかな、とは思ってたし」
それはまぁ、俺達も認識はしてた。うちの学生がそう発信すれば、あっという間に拡散するだろうし。学校側が個人情報の取り扱いについて口酸っぱく言ってるのと、知名度が低いから、たまたまこの一年ちょっとバレずにいただけだ。
でもなぁ。アイコラおじさんの件があったし、前ほど楽観視できないんだよな。アンチの存在とかもあるしさ……。
「……そんなに心配しなくても、大丈夫だって」
「いやでも……まぁ、そうなんだけど。……とりあえず俺も愛羅に文句言っとくわ」
「あぁ、それは賛成。あいつには反省させたほうがいい」
黒沢さんから連絡来たら共有、真白は明日のために今日はもうエゴサしないこと、なんて約束をして、通話を終えた。
エゴサして良いことなんてないんだよ。経験者は語る。
ともあれ愛羅だ。あのアホ。写真撮った時点で言っとくべきだった。言わなくてもわかるだろうと思った俺等のミスでもあるけど、考えなしにも程がある。
「おい愛羅。やってくれたな」
「ごめんって……ミューからもめっちゃ怒られたし……反省してるから……」
しょんぼりを通り越してメソメソした様子の愛羅に、ちょっとだけ怒りが薄れる。でも問題はそこじゃないんだよ。
「真白はなんて言ってた?」
「ファンに凸されると厄介とか、学校や家族にも迷惑かかるとか、そういうこと……」
やっぱりな。真白のことだからそんなんだと思った。
「……真白はアンチが多いんだよ」
「え」
「あと、あんなナリでも男性ファンもいる。ちょっと前にトラブルもあったりした」
「え、えっと」
「だから、お前が思ってるより、危険なの」
「ご、ごめん、あたしそんな、ミューが……そんな」
愛羅のショックもわかる。真白も小学生くらいまではあんなにトガッてなかったし、そんなに嫌われることもなかった。
でも、愛羅と離れてからの真白は、男装が日常になって、変わり者扱いされて、煙たがられたりし始めて。
男らしくなるほど、女子からの評価は二分されて、男子からは冷めた目で見られて。
それでもアイドル活動してるうちにへんなのに目をつけられて、ひどいフェイク動画を公開されて。
「……本人は言わないと思うから、俺が言ったけど。そういうことだから……気を付けてくれよ」
「わ、わかった。ほんと、ごめん。あの、ミューに改めて……は、言わないほうがいい?」
「……言わなかったってことは、そうなんじゃないかな」
「……わかった。ごめんね、颯真。あと……ミューのこと、お願いします」
何をだよ、って言いたかったけど、うん、とだけ言っておいた。
うん……俺の、役割だよな。
というわけで、俺にできることを考える。ファンの目に入ったかどうかは事務所で探ってくれてる。そこからの対応も、多分俺達が動くより事務所に任せたほうが良いだろう。
となると、俺にできることは真白のサポートなわけだが……うーん……さっきの会話の感じからだと、大丈夫そうではあるけど……。わかんねーよなぁ……真白のことだし。でも深夜だしな。今から連絡もなしだな。ってことは明日。とりあえず早めに家出て、真白のこと迎えに行くか。うん。そうしよう。
……ということをお袋に報告し、成長したわねぇ、と感心された。
なんかこれこの間も体験したな。真白にやられたやつだ。流石に親にムカつくことはなかったけど、なんか微妙な気分だ。俺って今までそんなに頼りなかったか?……なかったんだろうな、きっと。能天気だったわ、うん。
迎えに行ったら、真白は驚いてはいたけど、迷惑そうな顔はしなかった。心配しすぎ、とか言いつつ、少しだけ喜んでるようにも見えた。……うん、正解だったみたいだ。
あのあと愛羅から、改めて謝罪のメッセージが来たらしい。
そして黒沢さんからは連絡がないので、多分ファンの目にはついてないだろうと。
「ひと安心だな」
「ん……あのさ、颯真」
「うん?」
最寄り駅に向かう途中、並んで歩く真白はいつもと変わりない。寝不足とか、体調不良とかの心配はなさそうだ。良かった良かった。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だから。強がりとかじゃなくて……」
「そうか?あ、なんか嫌だったか?」
女の子扱いというか、守られる側になることを嫌がるという面倒くさい性質なのを思い出した。まーな。負けたくないし弱いと思われたくないってのは、真白のらしさでもあるしな。
しかしそーなると俺にできることって……。
「……嫌では、ないんだけど」
「ん?」
「嬉しいんだけど……くすぐったいというか、落ち着かないというか……ちょっと、反応に困るというか」
嬉しい。そーか、俺が心配するのは嬉しいのか。……じゃあいいじゃん。目を逸らしてしまった真白は多分、照れている。なんだよ、このくらいのことでそんなに反応してくれるなら、むしろやるぞ。
「まぁ、心配なのは変わりないし、俺がしたくてやってることだから。嫌じゃないならやるよ」
「えっ……いや、嫌じゃないけど、その……」
断る明確な理由はないんだろう。俺の予想外の答えに、真白は目に見えて動揺しながら、反論を探っている。うん、ポーカーフェイスの真白にこういう反応をさせられるのは、正直楽しい。
「わざわざうちの方回ってくるのも大変だろうし……」
「いや、大した距離じゃないし」
「ていうか、ほんと、大丈夫だから。今回はそんな、心配もしてないし」
「俺は心配だった」
「え」
なんでそこで目をパチクリさせる。心配だから来たに決まってんだろ。
「あー、見つかるかもとか、変な奴が来るかもとか、そっちより、真白が不安なんじゃないかって、そっちの心配」
「……な……そんな……」
いや絶句するようなこと言ったか?
……いや立ち止まるな。距離ができたぞ。
あ、これまた、そんなに弱くない、とか怒られるやつ?
「……過保護」
笑った。
なんかすげー嬉しそうに、笑ったよ。
どういう心理かよくわからんけど、俺が心配するのは嬉しいらしいので、とりあえずこの話はここで終了。
俺が足を止めて、真白が追いついて、そこからはもう、いつも通りに学校に向かった。
割と世話焼きな颯ママ。




