53.女子ってなんでさぁ
真白が『颯真も一瞬連れてく?』と打ち込んで数分後、愛羅からは『きてきてー!相方公認デート!!楽しみ!!』と、テンションたけーな、と思わせる返事が来た。
これで俺の参加は確定だ。最初だけだし、あとは二人で楽しくやってくれれば良い。
集合時間と場所を確認して……っても、どうせ放課後だから真白と一緒に行くことになるんだけど。
数日後、再会した愛羅はだいぶこう、イメージが変わっていた。俺の中では小学生の時の、ショートカットで男子以上に男子らしいイメージのままだったから仕方ない。
髪は短めだが男に見えるほどではない、女子らしい長さだし、何より化粧をしていてギャルっぽい。
俺の隣にいる真白が男らしすぎるのもあって、真白と愛羅を思わず見比べてしまった。
「ミュー!久しぶり〜っ!」
「ん。合宿お疲れさん」
「もぉー、疲れた!ほんと!心身ともに!」
抱き着く愛羅、その背中を叩く真白。
……傍目には高校生カップルがイチャイチャしているようにしか見えないな。そして俺のお邪魔な感じが際立つな。
「颯真も久しぶり〜。元気そーだね」
「ん、ああ。そっちも」
「あっはっは。元気じゃないとね〜!次は自分のチームの試合もあるし!」
ほんと元気だな。この明るさがチームの雰囲気を良くしてくれたのも懐かしい。愛羅ともう一人、俺の相方だったキャッチャーの二人がムードメーカー、真白がブレインっぽい感じだったんだよな。
とりあえず近くのカフェで飲み物と、女子二人はスイーツを頼んで話の続きだ。
「へー、代表監督、そんな感じなんだ」
「そう!めっちゃ厳しいのかと思ってたからさ〜。優しくてよかったよ。その分コーチは厳し目だったけど」
「練習内容的にはどうなの?」
「そんな変わったことはしてないよ。強度は高いし求められるレベルも高いから、プレッシャーはあるけど……あ、一個珍しいのがあってね……」
三人で盛り上がるのはやっぱり野球の話。代表の経験者なんてなかなかいないもんな。聞いてて面白い。
一時間は話しただろうか。一区切りついたところで、俺がそろそろ帰ろうかとスマホの時刻を確認したところで。
「んで二人はどーなの?」
「どうって……」
「相変わらず親友?くっついた?」
聞き返した真白は「あぁ」と軽く返事をしたが、俺としてはめっちゃ心臓にくる質問だった。んなもん本人を前に聞くな。いや二人きりなら良いとかでもないけも、気まずいにもほどがあるだろ。
「なんかこー……前向きに?検討中、みたいな」
真白の返答はそのとおりなんだけど、前向きって言われるとなんかちょっと……違わないんだけど!そのつもりではいるんだけど!
「えっえっ、なにそれ、進展あったの!?なんかあったの!?きっかけとか!」
そして聞いた愛羅の食いつきがすごい。そしてキッカケについては話せない。うっかり(エロ方面の)勢いで告白してキレさせたとか。話せるわけがない。
そんな俺の心情を慮ってくれたのか、真白がそのへんぼやかしながら答えてくれる。
「まぁそこは色々……ほら、アイドル活動始めたら、色々他人からの見え方も気になったりとか、自分の見方も変わったりとか」
「へぇ~。そーなんだ。そんなもん?ミューとか、あ、真白とか、ますますイケメンになってるけど」
どうなの?と俺に視線を向けられたが、そのとおりなので言うことがない。うん。ますますイケメンになってるんだけど、何故か女の子っぽさを感じる……いやエロ方面じゃなくてね?そういう瞬間が増えたんだよな、最近。
「……まぁ、色々あって」
と、便利な台詞で逃げてみたが、愛羅の興味は尽きていない。視線が痛い。これはかなりキツイ戦いになりそうだな。ここはあれだな。
「そーゆーのは女子だけで頼む、じゃ!」
千円札一枚をテーブルに置いて、さっさと逃げ出すことにした。通常ならアプリできっちり支払うのだが、ここは見逃してくれという賄賂的な意味合いもある。飲み物だけの俺が二人の分を少し払ったことになるので、とりあえず納得してくれると思うというか納得してくださいお願いします。
怖くて二人の方は見れなかったが、行くなとか待てとか言われなかったから大丈夫だろう。たぶん。後は二人きりになって、真白が「実は……」とかいって暴露しないことを祈るのみである。ほんと怖い。女子怖い。
帰宅した俺はぐったりしつつ夕飯をとり、おふくろに愛羅の話をし「どうだった?」と、聞かれて「元気だった。女子怖い」と答えた。
「あらあら。愛羅ちゃんに真白くんとのこと聞かれたの?」
「そう……ていうか別に、付き合ってるわけじゃないし、話せることとかないし」
「……そうねぇ」
「…………」
「……………………」
あれ、なんだこの沈黙。
リビングにいるのは俺とお袋だけ。夕飯の片付けをしているお袋が、作業に集中している……のではないと、なんとなく感じられる。
あれか?おふくろも女子だからこっちの話したいのか?話せることはないぞ!?
「……風呂入ってくる」
またもや逃げた。
いやもう、逃げるしかないだろ。
何なんだよ。何も進んでないのに話せることなんてないっつーの。期待しないでくれよほんと。
そして風呂を出たあと、深夜に近い時間に 今度は真白から連絡があった。流石に愛羅とは別れて自宅に戻ったらしい。
この時間に打ち合わせで通話したりはいつものことなので、俺も特に身構えることなくビデオ通話をつないだわけだが。
「……で、進捗は?」
「……進捗?」
真白の問いかけの意味がわからない。動画の編集作業のこと、ではないらしい。何の進捗だ?と小首を傾げていると、重々しいため息が返ってきた。
「あんまり、聞きたくなかったんだけど」
「うん?」
じゃあ聞かなきゃいいじゃん、とは言えない雰囲気だ。嫌な予感しかしない。
「……俺との関係、は、進んだと思う?」
「えっ。あー……その……それは……」
進んでる、様な気はする。その、前より更に近付いたような気はするし、友達に対するのとはちょっと違う感情が湧いたりしてるし。でも、それを口に出して、真白に伝えられるほどかというと……。
「……俺としては、進んでる、つもりなんだけど」
俺が口に出そうかと思った台詞が、真白の口から出てきた。少しだけ自信なさげに、視線を下げて。
「颯真が同じように……じゃなくても、ほんとに前向きなのかは、わかんないというか……確かめておきたいっていうか」
このタイミングでこの質問。間違いなく愛羅と話しててなんか言われたに違いない。余計なことしやがってとも思うけど、真白が前向きなんだって聞けた瞬間、俺は確かに喜んだ。嬉しいと思った。
「お、俺も、その、前向き、ではある……」
真白ほどはっきりと、進んでるとは言えないけど。向いてる方向は同じだと、思う。
「……ん。じゃあ、とりあえず、いい」
ほっとしたような、微かに細められた目元。真白も同じだ。同じ方向を向いてるのが、嬉しいと思ってくれてる。
「ところでだな。愛羅がやってくれたんだが」
「ん?」
急に表情も雰囲気も通常運転になった真白の発言に、今度こそ嫌な予感がする。愛羅、何やった。
「俺等と一緒に撮った写真を、ご丁寧にタグ付けて投稿してくれやがりました」
「あのアホぉ!」
これから毎週火曜日更新の予定です。あくまで予定です。




