52.俺にしかできない?
きっとまた真白だけが悪く言われてるんだろう。そう考えると何かしなくちゃと思うけど、だからって真白に冷たくするとかはない。
じゃあどーすんだ、と唸っても俺に妙案はなかった。ので、頼りになる人に相談した。
「……何か対策とか、ありますか?」
困ったときは黒沢さんに聞け。いやちょっと働き過ぎでお疲れっぽい黒沢さんに相談するのは気が引けたが、とりあえずは担当マネージャーさんが最適解だろう。
急なビデオ通話での打ち合わせにも快く応えてくれる黒沢さんは、ほんと頼りになる。
「それは、何に対して?」
現状を説明して「なんとかできないか」と相談した俺に対する、黒沢さんの返答に焦る。あれ?俺の説明わかりにくかった?いやいや、一を聞いて十を知る黒沢さんだぞ。つかそもそも、そんな複雑な話じゃないのに、なんで確認されてるんだ?
「えっと、だから、真白だけが悪く言われること……」
「それなら、ないわね」
「ないですか」
「ないわね」
……いやいやいやいや、そんな、即答でばっさり。
そんな俺の声に出さないツッコミに答えるように、黒沢さんが続ける。
「違う方向ならやりようもあるけど」
「違う方向?」
「そう。言われるのはね、もう、仕方ないのよ。彼女たちにとっては真白くんはそういう存在だから。でも、問題が真白くんの気持ちなら、フォローのしようはあるわ」
そっか。問題なのは言われたことに対して真白が嫌な思いをすることだもんな。
……これ本人に聞いたら全然平気って言いそうだな。
言いそうだけど……平気、ではないと思う。多分。いや、真白なら大丈夫……いやいや、こういう決めつけは良くない。アイコラおじさんのときもそれで失敗してるしな。慎重にいこう。真白は傷付いて……るかはわからんけど、嫌な思いはしてる。多分。
「フォロー、どうしたらいいですか?俺にできることってあります?」
そう聞いたら、黒沢さんはやけに嬉しそうな笑顔を見せた。なんで?
「もちろん。颯真くんにしかできないわよ」
俺にしかできないとか、責任重大じゃん。いや待てよ。俺そんな特別なスキルとか話術とか持ってないけど、大丈夫か?
そんな心配をよそに、黒沢さんは「やり方」を教えてくれたわけだが……それはなんというか、そんなんでいいの?と聞き返したくなるものだった。
「それじゃー今日はここまで!今日も見てくれてありがとう!また次回の配信をお楽しみに〜」
「次もよろしくな〜!」
黒沢さんに相談した翌日の配信、真白の様子はいつもどおりだった。
イチャイチャうんぬんと言われてからも俺の態度は変わらず、コメント欄では俺が優しいと褒められたり、二人の関係が尊いとか、仲良しで嬉しいとか、あと何故か真白が可愛いとか言われていた。
いや真白は常にイケメンだったと思うのだが、そこはまぁ、個人の感性とかなんか、そういうのだから置いといて。
問題は見えないところで真白がディスられてることであり、それに少なからず嫌な思いをしているだろう真白が、そんな様子を一つも見せないことである。
多少は俺に頼るようになったとはいえ、強がりで意地っ張りな真白がほんとの弱音を吐く相手は俺ではないということで、それはそれで相方として歯がゆいというか……いや、そこは今どうこうできるもんでもないし、まずは先に出来ることから、だ。
「真白」
「うん?」
機材の片付けをしながら声を掛ける。
あー、しかしほんとに、こんなんでいいのかな。
いや良いんだ。やれることはやっとこう。
「イチャイチャとか、言われるのさ。恥ずかしいは恥ずかしいけど、俺はもう、別にいいかなって思って」
「うん」
顔をディスプレイからこちらに向けた真白は、まじまじと俺の顔を見つめてきた。いやそんな、大事な話ってわけじゃないんだけど。
「だから何か変えようとかは思ってないんだけど、その、真白はまた、色々言われてるんだろうなって」
「黒沢さんに聞いた?」
「違う。俺が自分で考えた」
「おぉ、成長したな」
なんだコイツ、人のこと舐めすぎじゃねーか?それくらいわかるんだよ!……いや、数か月前までは、わかってなかったけど。今の俺にはわかるんだよ。
ていうか話の腰を折るな。本題はここからだ。
「とにかく!言わせたい奴には言わせておいていいから!俺らは俺らのまんまでいくからな!外野にあれこれ言われて俺達の付き合い方変えるとか、そういうのは絶対しないから!」
正直、これが真白の気持を支えるのに有効なのかはまだ確信が持てない。
でもこの方針は俺の考えと同じだし、それを黒沢さんが言えと言うなら言っておいたほうが良いんだろう、多分。
ちょっとだけ、俺を舐めてる真白への怒りと、あとはもちろんあれこれ言ってくる奴らへの怒りも含まれて、思いの外語気が強くなってしまった。
俺の方からこんなふうに決めつけで宣言するとか今までなかったから、真白がどんな反応するかちょっと心配だったんだけど。
「……うん。ありがとな」
「……っ」
目を細めて、少し照れくさそうに笑う真白は、男装してるのに、ちゃんと、女の子に見えた。
いや、いやいやいや、なんで心臓鳴ってんの俺。普通じゃん。笑っただけじゃん。
まぁ喜んでもらえたみたいだし良かったけど!?さすが黒沢さんだな間違いないな、俺にできることなんてこのくらいだし俺にしかできないって言われてもまぁたしかにそうなのかもしれないけど。
「颯真がそう言ってくれると、気が楽だな」
「ん、あぁ、おう」
俺だから。
……いやいや、そこまでの意味はないだろ。違う違う。そうじゃ、そうじゃない……でも、ひょっとしたら。
俺だから、真白を支えられるって、自惚れても良いんだろうか。
「今度のオフさ、愛羅と会ってくる」
「へー、久しぶりだな。代表合宿終わったんだっけ?」
「そう。向こうから連絡くれた。よっぽど遊びたかったみたい」
それから数日後、学校で昼食をとりながら真白が言い出したのは、リトルリーグ時代の女子メンバーとの約束だった。愛楽は硬式野球を続けていて、まぁ競技人口の少なさもあるけど、なんと年代別の日本代表にまでなっている。
真白にとっては多分、一番仲の良い女子だったはずだ。中学も高校も違ったし、愛楽は野球で忙しかったから、ほとんど会ってないみたいだけど。
「いーなー……俺も会いたいな」
「……愛楽に?」
真白の声が硬い。訝しむような問いに、軽く手を振る。
「違う違う。リトルリーグのときの奴ら皆。イベントのとき来てくれた奴もいたけどさ、ほとんど話せなかったじゃん」
「あぁ、そうだな。……夏休みに会ってなかったか?」
「同中の奴らはな。全員とつながってるわけじゃないし……」
ふーん、と答えた真白は、しばし食事に集中していた、ように見えた。今日は残り物弁当だそうだ。偉いな。詰めるだけでも俺はやろうとは思わないしな。一人暮らしは大変だな……なんて思ってたら、予想外の提案をされた。
「……最初だけ、颯真も行く?」
「え!?」
それって女子同士のデート?に俺が入り込むってこと!?いやいや、それは流石に。でもちょっと、代表合宿の話とかは聞いてみたいけど……いやそれにしても……。
「暇なら顔見て、お互い近況報告だけしたら?俺はその後も遊ぶ予定だし」
「……んじゃ、最初だけ」
気まずそうな予感はしなくもないが、真白がこう言ってるなら大丈夫だろう。愛羅もざっくりさっぱりした性格だしな。うん。
次回辺りから週一更新に……できたらいいな……。




