51.イチャイチャとかじゃないんだよ
まだ少しバタバタしておりますが、エタってはおりません。落ち着くまでは不定期ですが更新は続けますので、のんびりお待ちいただけると幸いです。
イベントが終わって一ヶ月以上経った。秋も深まり、ハロウィンのちょっとした仮装(今季のアニメの敵役、らしい。俺もちらっと見たことある)もお披露目し、なんなら年末年始の予定を立てる時期になってきた。
真白は相変わらず、忙しさを感じさせない飄々とした態度で勉強したり配信したりレッスン受けたりしている。
けど、こうしてほしいとかこれは無理とか、そういうのを俺に言うようになったので、俺も、すげーな、って感心してるだけではなくなった。んじゃここは俺がやるから、手伝うから、そんなことが自然にできるようになって、やっと胸張って相棒って言えるようになった気がする。
と同時に、今までがちょっと、頼りなかったんじゃないかと反省もしている。大丈夫って真白が言うの、鵜呑みにしちゃってたもんな。
今はだいぶ、頼られることも増えたし、真白の笑顔も増えたような気がする。こう、皮肉っぽいのじゃなくて、ふわっと……自然な、いや、ちょっと違うな……うまく言えないけど、いい感じの。
今日は黒沢さんと打ち合わせだ。真白は用事があるとかで少し遅れると連絡があった。
「颯真くん、調子良さそうね」
「はい。アイドルとしての実力はまだまだなんですけど、ちょっと自信ついてきたというか」
「いいことね。活動方針は変わりないとして、動画や配信でやってみたいこととかある?」
「いや、ないことはないんですけど……うーん……」
正直、やってみたいことはいくつかあるんだけど……ソロで、って前提が入るから、やれないんだよな。ニコイチって事務所の方針に反対したいわけでもないし……。二人でやるとなるといつもどおりっていうか、突き抜けられないというか。
そのへんを声に出さずに考え込んだ俺を見て、黒沢さんは首を傾げた。
「問題は時間?予算?真白くん?」
あー。流石だな黒沢さん。わかってる。
「……真白、って言うのも、違うような気がするんですけど……」
「なるほど。真白くんとはやりにくいけど、ってことね。そこは真白くんと相談ね」
「はい」
そうだなー。そうだな、うん。まぁどうしてもって話でもないし。まずは話してみるか。
「ところで颯真くん」
「はい」
「真白くんとはその後変わりないのかしら?」
んっ。んんっ。
えーと、この場合はつまり、やらかし告白以降現状維持を選んだけど、そのまんまか、という意味だよな?
そのまんまといえなくもないけど違うというか、微々たる変化があったというか。
その、真白が頼ってくれるのもそうなのかな、とか、俺の気持ちとしても、完全に真白を「性別:真白」とは思えなくなったというか。
それをどう言葉にしていいものか、うんうん悩んでいるうちに、黒澤さんが追撃してきた。
「ファンの間では、颯真くんが真白くんに優しくなったとか甘くなったとか言われてるみたいだけど」
「なんで!?」
いやほんとなんでだ!?そんなあからさまに真白の扱い変えたつもりはないぞ!?
「私から見てもそんな雰囲気は感じるわね。真白くんも甘えていると言うか……」
「いや、頼りにされるようにはなりましたけど、甘えって……そんなんじゃ……」
「もちろん誰が見てもってわけじゃないわよ。普段から二人をよく見てる人からすると、変わったように見えるってだけ」
「いやそれ……ファンにはそう見えてるってことですよね……」
うわー……顔が熱い。自覚してなかっただけに恥ずかしい。なんだそれ。いやまだちょっと納得いかないとこもあるけど、黒沢さんが社長みたいに面白がってこんなこと言うはずはないので、多分事実なんだろう。
甘えて甘やかしてって、そんなんなんか……イチャイチャしてるみたいじゃん……。
「お疲れ様でーす。遅くなりました……颯真?どした?」
そしてこのタイミングでやってくる真白。顔を抱えた俺は、まだちょっと、手を外せない。
「ファンの間では、二人のイチャイチャが加速してるって盛り上がってるって話」
黒沢さん!俺のときと表現が違う!より恥ずかしい!
「あぁ、あれですか」
いや知ってるんかい。
真白。お前……お前、なんで知ってて平然としてんだよぉ!
おもわず顔を上げて、まじまじと真白の顔を見てしまう。照れも恥じらいもないポーカーフェイス、ふてぶてしいイケメンである。
「え、ていうか颯真、自覚なかった?」
「ないよ。あったら控えてるよ」
イチャイチャとか言われて普通にしてらんないだろ!無理無理!恥ずかしすぎる!ていうかイチャイチャじゃないから!
「……控えなくていいじゃん」
隣の椅子に腰を下ろした真白は、拗ねたように零した。……いや、なんでそこで拗ねる?
「仲よしアピールは事務所の方針だし、わざとやってるわけじゃないし」
いや、それはそうなんだけど。俺の羞恥心の問題で、と声にするより早く、真白が続けて爆弾を投下した。
「……俺は嬉しかったのに」
「っ!」
いや、あの、そ、上目遣いとか、ちょ、無理、てか、なん、イチャイチャとか言われてんのに嬉しいとか、それ、完全に俺のこと、好き……。
はくはくと口を開け閉めするしかできない俺を見て、黒沢さんが息を吐いた。
「自覚がないのも困ったわね。颯真くんが変に意識しちゃうと困るから言わないつもりだったんだけど、意識させた方が良いって社長の読みは間違ってなかったみたいね」
いやいや結局社長かい!あの人この状況でいいと思ってんの!?俺次の配信とかどうすりゃいいの!?
「……颯真のしたいようにして、いいけど」
あからさまに狼狽えた俺に、気遣うように真白が声をかけてきたが、いや。したいようにって……。
「イチャイチャとか言われるのが嫌なら、冷たくするぐらいでもいいし」
冷たく……いや冷たくって……そもそも何がイチャイチャとか言われてるのかわからんし、冷たくしたら今度は喧嘩したとか言われてファンが悲しむだろうし。……なんかさっきの口振りだと、真白も悲しみそうだし。
「いや……その、今のまま、で」
「そう?」
小首を傾げた真白は、それでも少し嬉しそうに見えた。
いや、うーん。そりゃ別に、冷たくする必要まではないと思うし……でもなぁ、うーん……。
「……自覚できたようで何よりだわ。それよりさっきの、やりたいことの相談は?」
「あ、そうだ!あのさ、ダンスの動画、やってみたいんだけど……やるなら俺一人でって感じのやつで」
「ほうほう?」
黒沢さんの軌道修正により、イチャイチャうんぬんはいったん放って置かれることになった。
ていうか、何を持ってイチャイチャと言われてるかはまだ自覚できてないので、対処の仕様もないんだよ。なるようになれだ。
……と、一回は開き直ろうとしたんだけど。
その後の配信でファンの反応をよくよく見たら、確かに。真白のちょっとしたお願いというか指示というか、そういうのに俺が素直に応えると、コメント欄が湧くのがわかった。こんなん普通じゃんって思ったけど、たしかに前はお前なあとか、また俺かよとか、文句言いながらやってた気がする。
……やってはいたんだよ、前から。でも反応が違うし、真白の言い方というか頼み方というか、そのへんも微妙に変わってるんだよな。
いやこの程度のことによく気付くな皆。そしてこの程度の変化でイチャイチャとか言わないでくれ頼む。
しかし問題は他にもあった。
俺達の仲が良いと喜んでくれるファンが大半だが、そうじゃない人もいる。
真白のアンチが、この状況を喜んでいるはずがない。




