49.弱音と甘え
イベントも終わったし、新しい試みとして料理動画もやってみたし、ファンは喜んでくれてるし、順調に活動は続けられている。
で、だ。
俺の当面の目標は歌とトークのスキル上げである。とはいえトークは習う相手もいないしそこは別に上げなくていいと真白からも黒沢さんからも言われた。何でだ。できるに越したことはないだろ。
「いや、俺へのツッコミは出来てるから、それで成立してるし」
「そうそう。MC的なことは真白くんに任せて、この形で良いと思うわ」
リモート(真白んちでやってるんでリモートなのは黒沢さんだけだが)での打ち合わせで、二人にそう言われて納得した。確かにな。真白とはなんかこう、いつもどおりに話せるし、遠慮無くツッコめるから、そこは俺も大丈夫だと自信が持てる。
「その分リアクション期待しとく」
「なんでだよ」
いやほんと、リアクション芸人と化していくのはどうかと思うんだが。真白もそれを期待してネタ考えるのやめてくれよ。
「ボイトレの回数増やしてもいいかなってこちらとしては思ってるんだけど、真白くんの忙しさや配信の頻度を考えるとね……」
黒沢さんの言う通り、真白にこれ以上なんかやれと言うのは酷だろう。ていうか言われれば負けず嫌いなこいつはやり切るだろうし、それはめちゃくちゃ負担になるはずだ。
隣にいる真白を見て考える。真白の負担を増やさずに歌のレベルアップ……。
「……いや、真白は関係ないじゃん。俺のレベルアップなんだから」
ボソリと言うと、嫌そうな顔が向けられた。
「抜け駆けかよ」
「い、いやだって、歌は真白のほうが上手いし、これ以上レッスン入れるのも厳しそうだし、だったら俺だけ……っていうのは、抜け駆けか……」
うーん。悪くないと思ったんだけど、真白からすると微妙なんかな……。
「良いんじゃない?個人的にレッスンを受ける子もいるし、それぞれ伸ばしたいものは違うんだから」
ちょっと険悪な雰囲気だったけど、黒沢さんがそう言ってくれて、一応真白も頷いた。
「わかってます。颯真が空いた時間もアイドル活動に使うってのは、颯真の自由だし。ただ……」
一度ちらりと俺に視線を寄こしてから、真白は少し俯いた。
「羨ましいとか……一人で先に行っちゃうみたいで、ずるい、というか……寂しいっていうか」
えっ。
寂しい、寂しい!?
な、なんかちょっと、顔が熱くなってきたんだけど。そ、そういうシーンじゃないよな?これはあくまで相方としてのアレで、こういう反応するとこじゃないんだろうけど、なんだろう、なんか、ちょっと。
「………………」
「………………」
二人そろって、無言。
「……反対じゃないってことで、いいのかしら?」
「……はい」
こうして、俺は歌のレッスンを増やすことになった。
「……ダンスも、考えなくちゃな」
一通り打ち合わせが終わり、黒沢さんとの通話を切ってから、真白がそんなことを言い出した。
考えなくちゃってどういうことだ?
「正直、これ以上先は……同じ振りは無理かなって」
あ。
そうか。俺が歌で感じたことを、真白はダンスで感じてたんだ。
でも真白は、時間にも余裕がないし……身体能力の部分は、きっとどうしようもない。身体の大きさも筋肉の量も違うんだから、当たり前だけど……限界を訴える真白に、なんだか胸が痛む。
「だから、振りは少し変えてもらうことになると思う。よろしく、振り担当」
えっ。俺?
いやうん、確かに、ダンスの先生と一緒に振り考えてるけど、それは真白もじゃん?……いや、真白はあんまり、自分からは口出ししてないか。
つか驚き過ぎて胸の痛みどっかいったわ。
「いや、よろしくって……」
「色々あんだろ。歌のパート分けてダンスのパートも分けるとか、立ち位置変えるとか、それぞれの得意な動きでソロパート作るとか」
「なんかすげー難しいこと言われてる気がする」
それほんと、俺だけじゃ無理だわ。先生に泣きつくしかないな。……なんか色々負担が増えてるけど、仕方ない。俺が言い出した部分もあるし、何より。
「頼りにしてるぞ、相棒」
今まで一人で抱え込んでた真白が、無理だって素直に認めて頼ってくれたんだから、応えたい。
「わかったよ。なんとかやってやる」
そう言って拳を突き合わせると、あとは片付けして解散……。と思っていたら、真白の動きが止まった。なんか他に、今やんなきゃいけないことってあったっけ。
真白の顔はなんというか、真面目?困惑?そんな顔だった。
「いいのかな」
「何が?」
いやほんとに何が?
今の流れは真白は全部納得してと言うか、真白が決めたようなもんだとおもうんだけど?
「……いや、颯真に色々、わがまま言ってる気がして」
「わがまま……?」
全然ピンとこないんだけど、さっきの振りのこと?他になんかある?ないよな?
「……わがままだとは思わない……っていうか、俺としては、頼りにされて嬉しいくらいだったんだけど」
素直にそう言うと、今度は驚いた顔してた。なんだその反応。
「……嬉しい?」
「え、いやまぁ、無茶振りすんなよーとは思ったけど。今まではむしろ真白に頼りすぎてた気がして。だから、俺に頼ってくれるのは全然、構わないっていうか」
ぱちぱちとまばたきを繰り返してから、真白は「そっか」と呟いた。
「あ、でも無茶ぶりはやめろよ!あとリアクション芸ばっかはやだからな!」
「あー、そこはまぁ、要検討ってことで」
「いやそこは頼むぞ!?」
なんかこう、今までは親友っていっても、真白が出来すぎちゃってて俺の出番なかったんだけど。これからはそうでもないってのが、ちょっと嬉しいし……。
甘えられてるみたいで、ちょっと気分良い。
……ん?甘えられて気分良いって何だ?これってなんか、あれだな?友達に対してのあれじゃないよな?
つまりこれはその、社長の言ってた恋の欠片、ってやつ……。
「……」
「どした?」
「……なんでもない」
顔が熱いけど、まだ赤くないと思いたい。
甘えられるのが嬉しいという欠片を一つ、俺は拾ったらしい。




