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48.決着と、新たな挑戦

黒沢さんによると、警察から連絡があったのはついさっき。

犯人を捕まえたのは今朝のことで、自宅にいるところに踏み込んだ、らしい。

それ以上の情報は、俺達には与えられなかった。ひょっとしたら住んでるとことか、他にも黒沢さんや真白の両親にはいってるのかもしれないけど、それを俺達に伝えることはないだろう。そのへんは一応、色々あるんだろうと察して納得した。警察官の子供だからな。俺達もそれなりに理解はしてる。


「動画のほうも、なんとか閲覧できない状態にはできたみたい」

「……そうですか。ありがとうございます。ご心配おかけしてすいませんでした」


安堵のため息のあと、真白は黒沢さんに頭を下げた。お前が謝ることじゃないだろう。そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいで、黒沢さんも首を横に振った。


「悪いことなんて真白くんは何もしてないでしょ。心配はしたけどね!さ、あと十分位で移動するから、荷物まとめておいてね」

「はい」


そして部屋にはまた、俺達二人だけが残された。


「そっかぁ……終わったのか」


呟いた真白の視線は、黒沢さんが出て行ったドアの方を向いたままだ。

ボンヤリとしているのは、実感がないからだろうか。


「良かったな。とりあえず、これから先の心配はなくなったってことで」

「うん」


()()があったこと、作った奴や見た奴がいたことは覆せない。きっと真白はこの先もなにかの拍子に思い出して、嫌な気持ちになったりするんだろう。

それを少しでも楽にしてやれるなら、俺にできることはしてやりたいけど……なんか、あるんだろうか。


「……悪いことだけじゃ、なかったかな」


ぽつり。真白が溢した言葉が意外で、おれは思わず目を瞬かせた。


「女としての需要があるんだって、ちょっとは自信になったし。あと……」


またそんな言い方。何だってこいつは、普段は自信満々なくせにこうなんだ。とはいえそれをうまく本人に伝える言葉が見つからないまま、眉をひそめた俺に、真白は少し皮肉げに笑ってみせた。


「思ったより颯真が頼りになるって、わかったし」

「……言い方」


はは、と笑った真白が、今度は柔らかく、照れくさそうに視線を外して笑った。


「うそ。俺が、颯真に頼っていいんだって、思えた」

「……うん」


それなら、俺も。嬉しいし、悪いことだけじゃなかったって、言える。


「まぁ次はないだろーし?ほんとに貴重な体験だったわ。年齢的にも未成年で被害者になるのはこれで最後だろ」

「あー、来年は成人なんだな」


フラグ、とかって真白が自分で呟いてたけど、まぁそこは大丈夫だろ、流石に。

それよりもっと前向きに先のことを考えようぜ。


「まだ酒は飲めないけどな」

「それ!何なんだよ、成人って!選挙くらいじゃん!」


法律に文句を言い出した真白は元気そうだ。うん、へんな思い出は一旦頭から消えたみたいで、良かった。


それから荷物をまとめて、黒沢さんたちスタッフとともに打ち上げに向かった。

ちなみに、今回まったく無関係なカナタさんが打ち上げに混ぜてくれと言ってきたらしいが、黒沢さんがしっかりお断りしてくれた。何なんだあの人。




「というわけで、料理動画に挑戦します」

「なんで?」


イベントの数日後、真白の高らかな宣言に、そう返すしかなかった。

真白んちのキッチンに連れてこられた時点で嫌な予感はしてたんだよな。非常に不本意ながらリアクション担当になってしまった俺は、たまにこうしてぶっつけ本番の企画をやらされるのである。

でもホント無理だって。調理実習でしか料理したことないもん。


「何故と問われれば、一周年を超えて新しいチャレンジしようぜってことだな。ラーメンとかチャーハンとか、自分で作ったりは?」


一周年超えて新しいチャレンジ。それはうん、納得するしかない。


「しない。せいぜいカップラーメン。ていうか夜食とかお袋にバレたら叱られる」

「意外と厳しい?」

「うーん。ほら、うち男四人兄弟で、さらに親父もめちゃくちゃ食うから、食材の買い出しとか管理とか、大変らしくて」

「あー、確かにな。宅配でも賄えないものもあるし、そうなるとおばさんの買い出しも一苦労か」

「そう。それにかなりの量作って出してるのに足りないのかって、がっかりするらしい」


既にカメラは回っている。だべりつつ没になることを祈るが、多分無理だろうな。


「なるほどなるほど。それでは、片岡家の台所を切り盛りするお母さんの手助けができるよう、颯真をちょうきょ……教育していこうと思います!」

「いま調教っつった?」

「まずは実力を図るために、肉じゃがを作ってもらいます」

「無視だな」


肉じゃがとか無理じゃん。難易度高すぎじゃん。いや何が簡単なのかもわからんけど、多分レベル高いやつじゃん。


「調味料以外はこちらで適量を用意しました。失敗して食べさせられるのは俺なので、アホみたいな量作るなよという予防線です」

「失敗前提じゃん」

「なお味付けは本人の舌に任せます」

「それだよ怖いの」

「怖いのは俺も一緒だ。一蓮托生。頑張ってくれ」


くそっ。そう言われると真白もそれなりにリスク背負ってるから責め切れない。どーすんだこれ。やるしかないのか。


「ちなみにエプロン2種類用意してあるけどどうする?」


シンプルなカーキのエプロンと……なんでピンクのフリフリ?


「これは料理で滑っても絵面で笑いが取れれば動画として成立するかなーという、俺の優しさです」

「優しくはないな」


カーキでいいよ!これ以上恥の上塗りしたくない!


かくして俺の料理チャレンジが始まった。

ちなみに真白はアドバイス禁止のため、バッテン付きマスクをつけている。


「なぁにんじんって皮剥くの?」

「じゃがいもの大きさこんなもん?」

「水……え、沸かしてから入れるの?具材が先?」

「やべ、醤油、入れすぎた。これ水足せばいい?」


悪戦苦闘の末出来上った肉じゃがは、見た目はそれっぽくできた。いけるんじゃないかこれ?企画としてはアレだけどいけちゃうんじゃないか!?いざ実食!


「……かってぇ」

「しょっぱ……」


うん、惨敗だった。じゃがいもは火が通ってないし、味はなんかこう、しょうゆ味だった。


「頑張って完食してから反省会だな。次回のために!」

「やんのかよ次回!」


やたら前向きな真白のせいで、料理動画は続くことが決まってしまった。

その後なんとかじゃがいもを噛み砕き飲み下し、醤油味の肉を食べ尽くして反省会となった。正しい手順や調味料のレクチャーを受ける。


……でも敗因の一つが真白にあることは秘密だ。

ここで裸エプロンとか妄想して勢いだけの告白したんだよなっていう、トラウマが料理の邪魔をしたのは間違いないんだ。うん。

アイコラおじさんはイベントに参加しようとしたところで逮捕されました。社長が危惧していたのもアイコラおじさんの凸。真白も黒沢さんと社長の口振りでそれに気付いてました。知らぬは颯真ばかりなり。

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