47.イベントが変えたもの
先週は急な休載、申し訳ありませんでした。体調は家族ともども全快……ではないですが、良くはなってきました。また今週から頑張ります!
真白を無視したファンは、一瞬真白の方へ目をやったけど、その後はまた俺とカメラマンとだけ、楽しそうに話して撮影を続ける。
撮影の後に残った時間も、やはり真白には声もかけない。会話に入ることすら拒絶しているのがわかる。俺はなんとか曖昧に笑顔を浮かべて、それでもやっぱり何かがざらついて真白に視線をやったけど、真白は次の順番のファンに笑顔やジェスチャーを向けていた。
ほんの数十秒だけど、俺には長くて苦い時間だった。
次にやってきたファンは、何か真白を気遣って声を掛けようとしてくれてたけど、真白がそれをさせなかった。
「ほらほら、貴重な時間なんだから、自分がやりたいこと全部やっとかないと!」
たしかに、ファンにとっては貴重な時間だろう。それを、俺達のために使わせないようにした真白は偉いと思う。
……青を身に着けたその子が、ぼそりと「推し変しちゃいそう」とか言ってたのは、聞かなかったことにする。
もちろんその後は、真白が無視されたり攻撃されるなんてことはなく。俺を推しだと言ってくれるファンも、ちゃんと真白と会話をして、ツーショットやスリーショットを撮影して帰っていく。真白のファンだって当然同じように、俺とも嬉しそうに会話してくれる。
あ、撮影チケットに手がとどかない子もいるだろうってことで、握手だけのチケットも入れてもらったんだけど、おかげでめちゃくちゃ時間かかった。でもなかなかファンと直接触れ合う機会はないので、やった甲斐はあったと思う。
撮影会兼握手会でファンをお見送りし終わると、関係者だけが残る。友人や顔見知りレベルは、長々と続く撮影会の終わりまでは待てなかったらしく、いつのまにか帰っていた。残ったのは事務所の人間と、家族だけだ。
「お疲れ様。すごかったわね。ちょっと感動しちゃった」
「お疲れ。ダンスかっこよかった」
「お疲れ様。なんか、すごいね。いつもの兄さんと違う人みたいだった」
「ねー。かっこよかった!俺もダンスやってみたい!」
「お疲れさん。頑張ったな。大成功だ」
最初に声をかけてくれたのは、うちのおふくろ。
それから兄貴と弟たちと、親父も。
ストレートな褒め言葉はちょっと照れ臭いけど、嬉しい。
「ありがと。あ、あと、初めまして……」
「あっ、初めまして!」
そして兄貴の彼女と初対面である。お互い微妙な緊張を抱えたまま自己紹介している間に、真白は真白で家族と話していた。
「ちょっと調子に乗り過ぎかと思ったけど、あれが喜ばれるのね」
「……お疲れさん」
真白のお母さんも、ファンの反応を見て思うところがあったらしい。まぁな、真白の俺様キャラ、親が見たら止めたくなるよな。
それにしても弟、もうちょっとなんかコメントないのか?
それからそれぞれの家族と黒沢さんを交えて少し話をして、俺達は一旦事務所に戻った。打ち上げがあるんだよな。前の事務所のイベントのときほど大人数じゃないけど、それでもバイトさん含めると結構な人数だ。
まだ撤収作業のある社員さんたちを待つ間、俺達はしばし休憩。座り慣れた事務所の椅子に身を預け、深く息をつく。
「あー……終わったぁ……」
「終わったなー」
机に突っ伏した真白は、今にも寝入りそうに見えた。まぁ俺と同じくらい動いたんだから、体力的にはそうなるか。打ち上げ行って大丈夫なのか?と聞こうとして、それより先に聞くべきことを思い出す。
「あれ、無視されたやつ。大丈夫……だったか?」
即座に対応して笑顔を絶やさなかったのは隣で見ていたけれど、それと内心は別物だ。傷付いたなら……俺にできることはないかもしれないけど、せめてそれを吐き出して欲しい。
気怠げに顔だけ上げて髪をかきあげた真白は、なんというか色っぽい……いやあの、ファンが喜びそうっていうか、イケメン方面でな?それでなんで不敵に笑ってんの?
「えー、別に?喧嘩売ってきたつもりかもしれないけど、そこそこうまくあしらえたし?」
ん?何か思ってたのと違うな?
「向こうは颯真と二人きりでお話してるから俺の入り込む余地はない、的なのを見せ付けたかったんだろうけど、それを汲んだうえで完全にお望み通りのポーズで編集しやすい立ち位置でフレームに収まってやったし?俺に難癖つけるとこなくない?」
ん?んん?
「ていうか金で買った時間しか相手してもらえないくせに俺と同じ土俵にあがったつもりになってんの笑える」
……えーっと……。
「傷付いてない……というか、相手にしてないってことでいいか?」
「そうだな。アカウント特定できたら悔しがってる姿を眺めたい気もするけど、それよりは忘れたいかな」
「……そっか」
なんだろう、何か守ってやらなきゃとか思ってたのが大きな間違いだった気がしてくる。いやまぁ、相方が強くて何よりなんだけど。
とりあえず、この大事なイベントで真白が傷付くようなことがなくて良かった。そしてファンにも喜んでもらえて良かった。
「これが最初で最後か〜」
「え、なんで?」
俺の感慨深い呟きに、何でかものすごくカラッとしたツッコミが入った。
「何でって。来年の今頃は活動休止だろ?」
「その前にやればいいじゃん」
「いやいいじゃんってお前……」
そもそも活動休止は、真白の大学受験が理由なんだけどな。その前から忙しくなるっていうか、真白の勉強にかけなきゃいけない時間が増えると思ったんだけど、なんかギリギリまでやる気らしい。意外だ。
「……真白は、なんなら解散してもいいと思ってるのかなって」
パチパチと瞬きをした真白は、もういちど机に突っ伏した。なんだ、どうした。
「……今日、楽しかったから」
「うん」
「イベントそのものもだけど、ファンと触れ合ってさ。ほんとに、俺達のこと好きで、応援してくれてるんだなって」
「うん」
おぉ、顔をあげない理由がわかったぞ。照れてるな、これ。
「だからまた、こういうイベントやりたいし……できれば、進学してからも続けたいって……俺の、希望」
「うん」
そっか。今日が真白にとってはきっかけになったんだな。この先も一所に活動できるのは、俺としても嬉しい。
「……うんじゃなくて、お前の考えを言えよ」
「え、あー……うん……その、続けたいってのは、俺もだし、嬉しいんだけど。別の理由っていうか」
真白が顔を上げた。というか今度はちゃんと体を起こした。聞く姿勢を作ってくれる、良いやつだ。だから俺も、拙いながらも気持ちを口に出せる。
「俺は今日、自分の不甲斐なさっていうか、できないとこが見えてきちゃって」
うん。まぁまぁうまくいったとは思うんだけど、ダンスはともかく歌とトークでは真白にかなり助けられたと思う。人前で、お金払ってもらえるような技術ではないと、痛感してしまった。
「だからこそ……もう少し成長したいっていうか」
「うん。颯真らしいな。良いと思う」
「……あと、会場の青色を増やしたい」
「そこは負けない」
笑う真白につられて、俺も笑う。
「じゃあ、まあ、これからもよろしく」
突き出された拳に、拳を当てる。
「うん。よろしく」
なんかいい感じの雰囲気で直近の活動について話し合い、移動までの時間を潰していたら、予定より少し早い時間に黒沢さんに声をかけられた。
打ち上げの前に俺達だけに話があるという。イベントのことじゃないんだろうかと首を傾げていたら、思ってもみない方向から爆弾が飛んできた。
「真白くんのディープフェイクの犯人、捕まったって」




