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43.守るなんておこがましいかもしれないけど

今年もよろしくお願いします。

そして、震災の被害に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。どうか一日も早く心穏やかに過ごせる日々が戻ってきますように。

引いた手を逆に引っ張られ、真白が振り払おうとしているのに気づいて、逆にさらに強く引っ張った。大きな通りから一本細い道に入る。ここにも人はいるけど、さっきほどではない。

困惑と怒りを浮かべた真白の顔を見て、力を入れすぎたことに気づいた。掴んでいるのは指ではなく手首だから、骨がどうとかいうほどではないだろうけど、ちょっと痛かったかもしれない。


「悪い。でも」


手は離さない。少しだけ緩めて、でも逃れられないくらいには捕まえておく。


「……無理なら帰ろうぜ。別に、今日ここでどうしてもって買い物じゃないし。通販でもなんとかなるだろ」


キャップのつばの下から俺を見上げていた真白の視線が、横に泳いで、下を向く。


「……知ってる人がいれば、大丈夫」


ぽそりと、ぶっきらぼうに聞こえた返事は、かえって痛々しく感じた。


それって、一人で慣れない場所にいると、大丈夫じゃないってことだよな。

それを、怖いとは言えない奴なのもわかってる。

……くそ、俺が思ってたよりずっと傷付いてるじゃねーか。何でなんも出来ないんだよ、俺は。

難しい顔をした俺に、真白もまた顔を上げて、不機嫌そうな視線を投げてきた。


「……手、離せよ」

「……本当に、俺がいれば大丈夫なんだな?」


本当は怖いとか、そういう誤魔化しは許せない。自分一人が我慢すればいいとか、真白はやりそうで嫌なんだよ。そもそもそんな思い、する必要ないんだからな。

確認の問いかけだったけど、嘘はつくなよという圧を込めて言うと、返事までに少し間があった。


「……大丈夫」


まっすぐに見つめ合ったまま、少し考え込んだ真白は、ふ、と息を吐いて、らしくないくらい穏やかに、というか、なんか、こう、柔らかく?蕩けるみたいに、微笑んだ。

さっきまでの雰囲気とは全然違ってて、一瞬俺は呆気にとられて。


「颯真がいてくれれば、大丈夫」


ぎゅっと、心臓が掴まれたような感覚がして、なんなら手を離すどころか、手を引いて……抱きしめたいと、思ってしまった。


「じゃ、じゃあ行くか。その、さっさとお使い終わらせて、その、地元で何か食おうぜ」


慌てて手を離した俺が、急に顔を背けて歩き出したから、真白は変に思っただろうな。うん。でも、だってさ、顔熱いから、ちょっと待ってくれ。


「うん」


素直に返事をして一緒に歩き出してくれた真白はいつもどおりなのに、一緒に歩く俺の気分は違う気がする。いや、何が違うって言われても、うまく言葉に出来ないんだけど。

……親友とか、相方じゃなくて、なんか、こう……女の子と歩いてるって感覚……のような。

いやわからないんだけどな!?経験ないしな?見た目はイケメンだしな?

……でもちょっと、周囲の視線やなんかから、守らなくちゃって思ったのは、事実なんだよな……。


とはいえ見た目はただのイケメンだし、服屋も何度か行ってるとこで、店員さんも顔見知りがいたし、心配するようなことは何もなかった。

いやそうそう何かあっても困るんだけど。


ともあれ無事に買い物を終えて、地元に戻る電車の中で俺は安堵のため息を付いた。

地元なら安全ってわけでもない……のは、例のアイコラ見ちゃった友人がいるんでなんとも言えないけど、でもまぁ、地元の安心感はあるわけで。


真白も気を張っていたのが緩んだのかもしれない。

夕方になり満員に近くなった車内で、たまたま目の前の席が空くと、席を譲るべき人がいないか探すこともなく腰を落ち着けた。いやそれでいいんだけど、いつもはそういうの、ちゃんとする奴だから。ていうか意地でも座らないみたいな謎の強がり発揮するからな。


……今は、素直に座ってくれて、よかった。


強がりを忘れてくれたのもそうだし、身体が触れる距離で隣に立つのもなんか、いつもと違って落ち着かなかったんだよな。いや、触りたいとかそういう邪な気持ち……も、ほんのちょっとあったかもしれないけど、それより。

真白が心配してたような輩がいないかとか、痴漢みたいなやつが寄ってこないかとか、いつもはしないような心配もあって。

座席に座ってくれたことで、ようやくそのへんもなくなって安心できたわけだ。


気付けば、荷物を抱えたまま真白は眠っていた。俯いた顔はキャップで見えないけれど、電車の揺れに合わせて頭が揺れてるから、完全に落ちたんだろう。

たいして歩いたわけじゃないし、気疲れだろうか。いや、この間ファンに言われて気付いたんだけど、こいつめちゃくちゃ忙しいんだよな。

一人暮らしってことは家事全部自分でやんなきゃいけなくて、進学科で成績落とさないためには勉強もしなくちゃいけなくて、そのうえ配信とかレッスンとか動画撮影とか、合間にSNSの投稿とか、確かに俺の数倍忙しい。睡眠時間削っててもおかしくない。

動画編集くらいで文句言ってすまんかった。


ゆっくり眠ってほしいな、と思う。

アンチとかアイコラおじさんとか、そういう変なものを気にしないで、のびのび活動して、猫みたいに日向で微睡んで、起きたら俺に憎まれ口叩いて、俺の反応に笑って。

そういう真白でいてほしいと、思う。


今は荷物を抱えている手を掴んだときの感触を思い出す。指が余るくらい細くてびっくりした。中学に入った頃はまだ、真白の方が手が大きいくらいだったのに。どっちの指が長いとか、変化球の握りができるかとか、そんな話ができたのはあの頃までだったな。

そのうち俺の身長が真白を抜かして、野球を辞めた真白は体力面では張り合うことをやめて。そりゃそうだよなって、納得してるうちに学力でめっちゃ引き離されて。


俺が故障して、野球が出来ないって落ちこんで、目標もなくして途方に暮れてたとき、真白が声かけてくれて、あちこち連れ出してくれたりして、なんとか立ち直れて。

こいつとだったら楽しく高校生活送れそうだなって、同じ高校を受験するって決めて。

無事合格して喜んでたら、なんか距離取ってくるし。何でだよって詰め寄ったらそれじゃお前に彼女できないだろとか言われて、いや今思えばそのとおりなんだけど、そんなんより真白と一緒にいたいって言って。

……いやアレめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってたんじゃないか?俺。

真白を女だと思ってなかったから出た台詞だったけど実質告白だよな……。


今でも、同じ状況になったら同じようなこと言うだろうけど、ちょっと違う。

彼女なんかどうでもいいとは、言えない。

彼女にするなら真白がいい。


いや、うーん、理想の彼女ってなると、真白とは逆方向の女の子なんだけど、出会ってもいない女の子より真白が大事ってのは変わらなくて。

……真白がいい、って、今の俺なら言える気がする。

真白と付き合うってどんな感じだろうって、前に思った時はエロいことしか想像できなかったけど、今日はなんか、そのへんがちょっとわかった気がするんだよな。


あの、俺を信頼しきってくれた笑顔に心が動いて。

その笑顔を守りたいって、幸せであってほしいって、思えたから。

やっと欠片を一つ拾いました。

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