42.今何つった?
デートとかって単語が聞こえたんだが、俺の気のせいだろうか。いや気のせいのわけあるか。そんな単語なかったらひっかからないわ。
「今なんて……」
「学校から真っ直ぐでいいか?着替えてく?」
「え、ああ、んー、着換えといたほうがいいんじゃないか?」
「駅のロッカーに着替え入れとくか」
「うん」
……あれ、何だっけ……いやいやいや。
「真白いま、デートとか言ったよな?」
「言ったけど?」
それがどうした、って感じだな。いやそんな当然みたいな顔されるとこっちが気にしすぎな気もしてくるけど。
「いや。言ったけどじゃなくて、なんでそんな……」
「なんでって言われてもな……別に、女子とかよく使うじゃん?待ち合わせて出掛けるのはデート、でいいじやん」
そんなに使うか?いや、使ってるかも……女子がそんな話してるのは聞いた気もするけど、真白の口から出てくるのは多分初めてなはずで、だからなんかこう、意図があるんじゃないかと……。
「はいはい。ひっかかるなら買い出しでいーよ。中身は変わらん」
おま……真白過ぎて安心するわ。この俺への雑な対応。なんでこいつに可愛いとか思ったのか不思議すぎる。
ともあれ事務所での打ち合わせとボイトレを終えて、帰宅した俺はいつもどおりみっちり走り込みと筋トレして、健やかに眠りに落ちた。
翌日は真白の家で、動画の撮影と配信があった。
つっても今回はイベント前に投稿する予定の動画で、活動開始からの一年間を振り返るような内容だ。二人で今までの投稿を見返して思い出話をしたり……ってことで、大掛かりな準備もなく、恙無く終わった。ただこれ編集がめちゃくちゃ面倒くさそうで俺の負担が重い。と言ったらたまにはお前も苦労しろと言われた。いつも俺が編集してんのに何でだよ。
配信はちょっと歌ったので、前日の練習の成果が試された。アイドルの本業となると緊張するんだよな。でもまぁ、大きなミスはなかったしファンの皆には好評だったので良しとする。
で、配信を終えて家に帰って、おふくろに翌日の予定を伝える。
「明日、真白と買い出し行ってくる。学校からまっすぐ行くから」
「あら、衣装?」
「うん。イベントの。だから、配信の時よりは派手なのにしようかって」
「そうね。かなり派手な色でもいいと思うわよ。お化粧もするんでしょ?」
「あー、まぁ、そうなるかな」
リビングで寛いでいたお袋が、タブレットを開いて画像を検索し始める。
衣装の提案をしてくれるらしい。
「まだイベントまで少し時間あるわよね?こういうのはどう?」
「キラキラ……」
「ステージならこれくらいでちょうどいいわよ」
「いや売ってないでしょ」
「作るのよ」
「誰が」
「お母さんの知り合い」
え、そんな人いるの?
「知り合いって……縫い物できるレベルで作れるもんじゃないんじゃない?」
「大丈夫よ。元プロだから」
え、そんな貴重な人いるの?
「デザイン描いてみるわ。真白くんのオッケー出たらサイズ教えてちょうだい」
な、なんかいつの間にか決まってるぞ?これいいのか?
「材料費と人件費はあなたたちの活動費から出すわね。あ、これに合わせる服なんだけど、これに合わせるならこういう……」
あ、もうだめだ。俺が口を挟む余地はない。
こと服のことに関してお袋はゆずらない。さすがにここ数年は自分で選んでるけど、お袋のチョイスで外したことはないどころか、褒められることが多いんで信用はしてる。
これはもうお任せだな。真白もそこんとこはわかってるし、このまま決まるんだろう……。
かくて、お袋プロデュースで衣装の大筋は決まり、買うものもバッチリ指定されての買い出しとなった。
いやこれお使いって言われたほうがしっくりくるな?
翌日、学校を終えて買い出しに向かう電車の中でお袋のデザイン画やらなんやらを一緒に確認する。いやまぁ、前日のうちにデータは送ったんだけど。速かったな、お袋。あの情熱はどこから来るんだ?
ひととおり確認を終えた真白も似たような感想を抱くんだろう、と、思ってたら。
「さすがは元読モだな」
「なにそれ初めて聞いたんだけど」
真白から出てきた情報に、思わず声を上げる。
「何で知らないの?」
「聞いたことないし」
いやいや、俺が白い目で見られるいわれはないぞ。
「まぁ俺も母親から聞いたから、子供には話してないのかもな」
「うーん……ミスコンに出たことがあるとは聞いたことあったけど」
「すごいなほんとに」
そんな話をしつつ、目的の駅で降りる。
夏休みが明けて数週間。少しずつ涼しくなってきたとはいえ、まだまだ半袖と冷房からは離れられない。
二人揃って大きめのTシャツにカーゴパンツだが、真白は珍しくキャップを被っていた。いつもは髪型崩れるから嫌とか言ってた気がするんだけどな。
「日焼け防止?」
「……まぁ、そんなとこ」
指さして言うと、なんだか気まずげに視線を反らし言葉を濁す。
おっと、これはなんか、俺に話したくないことを誤魔化そうとしてるな?そしてまさかつっこまれると思ってなかったな?いつもより雑な誤魔化し方だぞ?
「……なんかあるな?」
目的のビルに足を動かしながら、真白はすぐには答えず、ちらと視線を周囲に向けた。
「……ちょっと自意識過剰なだけ」
「何だそれ?」
「……見られてるかもって、思うようになって」
なるほど。芸能人気取りかよ!ってツッコまれるのが嫌なわけだな。
しかしそれにしては……不安げに見えるんだよな。
「……アンチを警戒してるとか?」
「いや、そっちは……なくはないけど」
違う?じゃあ何が、と思って、思い当たった。
「……そっか」
アイコラ作ったやつとか、見たやつとか、そっちだな。それは……それは、嫌だよな。怖いよな。
いくら見た人数が限られてるって言っても、身近にいないとは言い切れないもんな。
俺の返事で、真白も察したのだろう。無理に笑ってみせる。
「ま、颯真と一緒なら大丈夫だろ」
それは信頼でもあるし、冗談でもあるし、強がりでもあったんだろう。
「颯真?えっ、ちょ、何っ……」
気づいたら俺は、真白の手を握っていた。
次回更新は1月8日になります。皆様良いお年を〜。




