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40.嬉しいけど怖い。怖いけど。(真白視点)

作者的に書きやすいのは颯真より真白なんですが、それだと面白くないのと、真白の良さが出てこない気がしたので普段は颯真目線で進めております。

正直に言うと、一瞬だけ嬉しかった。

颯真が付き合っちゃえばいいって言ったとき、それが許されるならって。

でもどう見ても何も考えずに……っていうか、エロいことしか考えてねぇなってわかっちゃったから、一瞬で喜びは怒りに変わった。


あのさ、俺が今までどんだけ頑張ってきたと思ってんの?

颯真が呑気に俺と肩組んでる後ろで、物凄い目で俺のこと睨んでる女子がいたの知ってるか?

昼飯一緒に食おうぜって声掛けられただけで、また?とか、いい加減にすればいいのにとか、なんでか俺に向けられた陰口なんか、聞こえてないだろ?


別に俺神経図太いわけじゃないし、傷つくし、嫌な気分になるし。

それでも一緒にいたいからって、誰からも文句言われないように、男でいようって気を張ってきたのに。


エッチできるならしたいから、付き合えばいいって、何だそれ。


もうね、怒りと悔しさで頭爆発したよね。できるだけ颯真に衝撃的な言葉をぶつけて目をさまさせてやろうとしたら、ああいう言い方になったんだけど。

あのあと2時間くらいはまだ怒りが収まらなくて、黒沢さんに話聞いてもらって、話しながらまた怒りが再燃したりして。

頭のどっかではあんな突き放し方して悪かったなとも思うし、でもやっぱり反省しろとも思うし。


でも。

気付いてた。

颯真に女として見られるのは、嫌じゃないって。

抱けるって思われたのが、嬉しいって。

だからあんな、颯真に変な気を起こさせるような態度を取ってしまったんだって、わかってる。


黒沢さんにも、女友達にも言われたけど、俺は女としての自己評価が低すぎる、らしい。

自覚はないというか、別に低すぎるわけじゃないと思うんだけど。


だってそもそも一人称「俺」とか言っちゃってるし、可愛いものとか身に着けるどころか触るのも避けてるし、可愛くなりたいとか思ったこともないし、性格的にも可愛げとかないし。それよりかっこよくなりたいとか思ってるし。

顔とか体型とか、そのへんは悪くないと思うけど、それだけだよな。

男子からの評価を考えれば、女子としての点数なんて付けようもない。むしろ評価しろと言われた相手のほうが可哀想だ。


……まぁ、アイコラ騒動で物好きがいることはわかったし、身体さえ女子ならそれでいい人もいるんだとは、理解してるんだけど。でもそれは恋愛っていうより性欲的な部分の話だろうし。


俺を、女として好きになってくれる人なんて、もしいたとしても出会えないくらいの確率でしか存在しないだろうなって、諦めてたから。


嬉しかったんだ。ほんとに、一瞬は。


言い方とか会話の流れとか、そういうのが違ってたら、受け入れていたかもしれない。

でもふと、本当にそうしていたらどうなってたのかを考えたら、怖くなった。


付き合おうって言われて、うんって返事して、その先は?

エッチしてみて、やっぱり違うなって颯真が思ったら?颯真にお似合いの、もっとイイ子を見つけたら?

その先で、俺は今みたいに颯真の隣にいられる?


怖い。

颯真と離れなきゃいけなくなったらって、今までも何度も考えたし、離れる覚悟もしてきたつもりだったけど、怖い。

一度「恋人」って特別な席に座ったら、きっと今よりもっと辛い思いをする。

そんなの、耐えられない。


あぁやっぱり今のままがいい。親友のままで隣にいたい。離れるときの傷や痛みを最小限にしたい。


そんなことまで、恥ずかしながら黒沢さんに話してしまったんだけど。


「でも、今より幸せになれるかもしれないよ?」


モヤモヤとしたもので充たされていた頭の中が、すっとクリアになった瞬間だった。


「幸せ……」

「うん。今でもあなた達の間には異性でも同性でも入り込めないけど、恋人になったらそれこそ誰も入り込めないよね。それが続くかどうかなんて、誰にもわからないことでしょ?」


今以上の幸せってなんだろう。でも、恋人ってのもずっと一緒にいられる一つの形ではあるんだろう。

今より……いや、今が十分幸せなんで、その上って思いつかないんだけど。


「……あのね、さっきもう一個のスマホに颯真くんが連絡くれたみたいで、社長が話してるんだけど」


社長。だいたいいらんことしかしないでお馴染みの社長。何話してんだ。


「だいぶ反省してるし、真白くんのことは大事に思ってるし」


面映いけど、うん。それは、しってる。


「今以上が思いつかないんだって。二人ともそこで止まってたのね」


なんだか、恥ずかしい。颯真と同レベルかよとか、そんな反応が俺らしいんだろうけど、なんかこう……(うぶ)だねって言われたみたいで。


「あの……俺、が、もし……進みたいって、思ったら」

「うん」

「……困りますか?」


本当に恋人になるなんて未来があるんだとしたら。そこに向かって進むんだとしたら。今の活動は無理なんじゃないか。それって周りの人には迷惑なんじゃないか。そんな理由をつけてまた、俺は立ち止まろうとしている。

怖いんだよ。そこに踏み出したら、壊れてしまうから。今までの関係が。


「ぜーんぜん。むしろもっとやれ!って感じだけど?」

「え」


予想外のお返事でした。


「まっとうなアイドルなら頭抱えるし叱るけど、あなたたちはそこも込みで売ってるんだから。ま、アンチ対応とかはもう少し大変になるかもしれないけどね」

「それは……困るって、言うのでは」

「仕事が増えるのは困るって言わないの」


いやそうじゃなくて、そもそもそれも込みで売ってるとか、社長みたいなこと言わないでください。

え、ほんとにいいの?


「あなた達が前を向いて活動してくれれば、それでいいの。だから後ろ向いたり閉じこもったりしないで?」


そうか。

今までに拘って、もう変わり始めてるものを無理矢理元に戻そうとするのは、後ろ向きなのか。


「なので当面は、仲直りして、それからね?どうしたいのか、ゆっくり考えればいいのよ」

「……はい」


悔しくて苦しくて頭にきて、泣き腫らした顔ではそれも難しそうなので、翌朝の俺は一つ嘘をついた。


スタートからこんなんでちゃんと向き合えるのかと思ったけど、颯真はちゃんと謝ってくれて、俺も俺なりに素直に謝れて。保留って結論はまぁ、俺も同じだし。少し時間をかけてもいいのかな、なんとかなりそうだなって安心してた。でも。


「昨夜から、変な妄想とかしてないからな!もう大丈夫だから、ちゃんとアイドル活動できるぞ!」


安心……するトコ、なんだろうけど。俺は不安になってしまった。

それって、もう俺のこと、女として見てないってこと?前に戻っちゃった……いや、俺の昨夜の態度が酷すぎてそれよりマイナスに行っちゃったんじゃ、なんて不安が頭を過った。


「……俺とエッチしたいとか、ドキドキしたりとかは、ないってこと?」

「んんっ!?」


あ、大丈夫だ。

自分でも不安げに聞こえる声で尋ねた途端、颯真はめちゃくちゃ動揺した。これはけっこうしっかり意識してくれちゃってるな?

相変わらずエロ方面に引っ張られてそうな気もするが、とりあえずそれは置いといて。


「あー……ごめん、大丈夫。わかった。全然なくなったなら、そもそもなかったことにするもんな。保留ってことはそういうことだよな」


颯真に芽生えた何かは、ちゃんと残っていたらしい。それが嬉しくて、それをもっと俺に向けてほしくて、俺は自分でも意外なほど上機嫌になっていた。


その日の夢に出てきた颯真はいつもどおりで、ちょっと前の日常を寄せ集めたみたいなそれは、たしかに心地良かったけれど。


もっと欲しいって、それを確認できたから。

俺は進むことにした。


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