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38.かけら集め

「一欠片……」

「そう。それを捨てるも隠すも、育てるも、君次第だ」


捨てるとか隠すとか、それってつまり、真白に好きなやつができたら、笑って喜んでやれってことだよな。それはちょっと……難しいと思う。どう考えても相手にはマイナスの対応しかできない気がする。

育てる、ってのは、もっとちゃんと、自信を持って「好きだ」って言えるくらい、強い気持ちになるってことなんだろう。

正直、そんな気持ちになったことがないから、実感がないというか、不思議な感じがする。

でも、今すぐには捨てられないこの気持ちが、時間が経って育っていくものだとすれば、それはなんていうか、アリ、だと思う。


……いや、我ながら主体性がないっていうか、情けないんだけど。

それが一番、受け入れられるっていうか、いい未来のような気がする。


……逆に、時間が経って消えるってこともあるんだろうか?

それすらもわからない。経験のないことだしな。


黙り込んだ俺に、社長もしばし考えてから、口を開いた。


「いいんじゃないかな。今答えを出さなくても。活動方針については二人でまとめてほしいけれど」

「あ、えっと、真白が許してくれるなら、はい。……その、真白は怒って……ますよね?」


事務所で黒沢さんと話してるってことは、雰囲気くらいは社長も知ってるんだろう。できれば細かく教えてほしいけど、贅沢は言ってられない。


「うーん……いや、そうだね。真白くんも反省というか、言い過ぎたと後悔しているようだから、仲直りはできるんじゃないかな」


良かったあ!絶縁は回避できそうだし、マイナスも最低限で済みそうだ。いやでもほんと、これでまだ取り付く島も無いくらい怒ってたらやばかった。気持ちを育てるとかそれどころじゃなかった。


「真白くんと黒沢くんはまだ話が終わる気配がないから、明日にでも謝罪するといいよ。あぁそれと」

「はい!わかりま……なんですか?」


よーし、これで筋トレでもすればスッキリ寝られそうだ、なんて思っていたのに、社長はやっぱり社長だった。


「ファンの前であまり真白くんを意識していると、君が片思いしてるって盛り上がると思うんだけど、それについてはどうするつもりかな?」


片思い。いや片思いって。そんなんじゃ……いやでもそういうことか?ほんのりしか芽生えてないけど、これが恋心ってやつだとすると、それが真白には受け容れられないうちは片思いってことに……事実ならそれでいい……わけないだろ!何だそれ!恥ずかしすぎるわ!


「ふ、ファンの前では、冷静でいられるよう努力します……」


結局ここに戻るのかよ!エロ妄想の対処もできてねぇうちに新たに課題が出てくるとか難易度高過ぎだろう!


「うん。じゃあ頑張って」


やけにあっさりとした社長の返事に、はいとだけ返して通話を終えた。

……これはアレだな。頑張っても俺が挙動不審になることをわかっていて、あえてそれでいいと思ってるんだな。そういう人だあの人は。


社長のやり方にモヤッと?イラッと?なんかこう、釈然としないものを感じながらも、真白との関係がなんとかつながりそうで、見通しは明るい。

後はそう、俺の妄想と挙動不審をどうにかするしか……!





翌日、俺は晴れやかな顔で駅に向かっていた。

そう、昨夜は妄想コントロールの方法を調べまくって試したのだ。そして成功した。

何てことはない、まずは身体を使い込んで体力ゼロにして寝る。そして他に集中しなければならないことを作って、そこに自分を追い込めばいいだけの話だった。

まぁ、やったことあるから簡単ってだけで、初めてだったら四苦八苦してただろうけど。


というわけで、ほぼ深夜の時間帯に走り込みを始め、限界近くまで体力を消耗させてから筋トレして、2度めの風呂の後は泥のように眠った。

朝は朝で、そもそもそんなに妄想が暴走する時間じゃないんだけど、集中するために動画編集に没頭した。朝飯食うの忘れそうなくらい集中した。


動画の真白はあくまでもイケメンで、隙がないからか妄想が働くこともなかった。これならいけるんじゃないかという手応えを得られたんだから、そりゃ晴れ晴れとした気分にもなる。あとは謝罪だ。大丈夫。真白なら許してくれる。


すこし早めの時間に駅につき、ホームで真白を待つ。待ち合わせてるわけじゃないけど、次の電車に乗るはずだからそろそろ来る頃だろう。

そう思って待っていたら、来なかった。

……え?

これは、昨日のショックで起きられなかったとか、そんなん?そんなに?

いや、ひょっとして俺に会いたくなかった?


ざぁっと血の気が引く。会えないとは思えなかった。

ふらふらと電車に乗り込んで学校に向かう。


顔も見たくないとか、そういうことだろうか。

いや、社長は大丈夫そうって言ってたし。

単純に寝坊……も、有り得なくはない。

全然別の可能性は?ほんとに体調不良とか?


そう思い付いたら不安が心配に変わって、連絡を取ろうと取り出したスマホに、通知が一件。真白からだった。


『寝坊した』


それだけかよ!

おはようもスタンプもその後の状況も何もなしの、可愛げのないメッセージに、脱力して、安心する。


『間に合いそう?』

『多分』

『昼めし一緒に食おうぜ』


了解、とスタンプで返されて、いつものやりとりに顔が綻ぶ。

あぁ、大丈夫だ。


学校に着いてからは、例の友達とかクラスの女子から真白の体調を心配されたけど、朝のやりとりを伝えたら皆安心してた。あのやりとりで喧嘩してるとも思わないだろうしな。


昼休みまで、ここしばらくの活動が嘘みたいに脳内の画像生成AIは大人しくしていてくれた。

待ち合わせ場所の中庭で会った真白はいつもどおりで、喜んでも怒ってもいない真顔だった。

人の少ない場所へと足を進める真白に、ときめきは感じない。いつもどおりなら、今までと変わらないのかも知れない。でも。


「ごめん。昨日のは、ほんとに、考えなしだった」

「……うん」


日当たりの悪い校舎の裏手、誰もいない場所に座って、メシの前にそう切り出した。


「色々考えて、頑張ってた真白に、簡単に言うことじゃなかったし……付き合うってこと、も、簡単に考えすぎてた」

「……うん」


ちゃんと聞いてくれているのはわかる。でも、いつもより力なく言葉少なく感じる返答に、少し不安になる。

真顔だった真白が、少しだけ顔を曇らせている。早く、いつもの真白に戻ってほしい。下らないことで笑ってほしい。


「だから、あの……でも、まだ答えが、でなくて」

「……」

「もう少し、ちゃんと考えてから、気持ちが固まってから、結論……っていうか、決めたいと、思ってて」


真白の口がきゅっと結ばれて、何か言いたそうに薄く開いて、でも、すぐには声が出てこなくて。


「……なかったことには、しないってこと、だな?」

「うん」


それは流石に、無理だと思うし……俺の中にはもう、欠片が芽生えてる。

それがどうなるのかわからないけど、無理矢理消すことはできないと思う。


「わかった。俺も、言い過ぎた……セフレとか、そんなつもりで言ったんじゃないって、わかってはいたんだけど」

「いや、その……そう取られても仕方ないっていうか、そういうことかもって俺自身反省したと言うか……あ、でも!」


真白が不思議そうに目を瞬かせている。あ、これはちょっと、かわいいな。


「昨夜から、変な妄想とかしてないからな!もう大丈夫だから、ちゃんとアイドル活動できるぞ!」


良かった良かった、それじゃ明日からどうする?そんな流れになると、おれは勝手に思ってたんだけど。


「……俺とエッチしたいとか、ドキドキしたりとかは、ないってこと?」

「んんっ!?」


な、何を、なんでそんな、ないわけない、いや、これ正直に言っていいのか!?そんなん言われたら期待っていうか、またこれ勘違い発生しそうなんだが!?

その顔は何だ?期待?呆れ?悲しみ?怒り?わからん!見たことない顔だしわからん!


「あー……ごめん、大丈夫。わかった。全然なくなったなら、そもそもなかったことにするもんな。保留ってことはそういうことだよな」


返事をする前に納得した真白は、妙に機嫌よく頷いている。なん、何なんだよ今の。ていうか何でわかった?会話の流れで?まさか俺の反応で?


「おし、んじゃ飯食おーぜ。明日の配信何やる?」


いつも通りの真白だ。しかも機嫌の良い真白だ。

なのに俺は、一人で心臓ドキドキさせて、いつも通りの返事ができない。


これも欠片なんだろうか。

今まではなかった、少し胸に痛い、小さな欠片。

はやくイチャイチャさせたいなぁと妄想しながら書いてますが、道程は長い……いや、普段からイチャイチャしてるな?などとアホなことを考えています。

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