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37.恋とはどんなものかしら

「何で社長が……」

「あぁ、黒沢くんが真白くんと話し込んでてね。事務所で……あぁ、もう一台のスマホでね。彼女、仕事用とプライベート用は分けてるんだって」


つまり、プライベート用は真白と通話中で、俺は仕事用のスマホにかけたってことか。


「それで、こっちのスマホに担当してる子から連絡入ったら僕も出ていいって言われてたからね。しかも颯真くんなんてタイムリーじゃないか!」


なんで嬉しそうなんだよ。あー、この人にはまだ知られたくなかった……カナタさんより厄介な気がする。


「えっと……真白との話がおわったら、黒沢さんと話したいんで……」

「颯真くん。所属タレントの問題に社長である僕が口を挟む権利は十分あると思うよ」

「はい……」


まぁな。活動継続が掛かってるようなもんだし、そう言われちゃうと無理に会話を終わらせることできない。


「その、すいませんでした……俺のせいで、真白に配信休ませて」

「その言い方だと、全責任は颯真くんにあると自覚しているようだね」

「まぁ、会話のきっかけには真白も絡んでましたけど。こうなっちゃったのは全面的に俺のせいなんで、はい」


うん……あの一言、付き合っちゃえばいいとか軽く言わなければ、ここまでの事態にはなっていなかったと思う。

せめてなぁ、真白がそこ、ほんとうに受け入れてくれそうなのか、探るひと言でもあれば違ったんだろうな……今更だけど。


「ふむ。なるほど?それで、颯真くんはどんなビジョンを持ってるのかな?」

「びじょん……?」

「つまるところ、真白くんと今後どのような関係を築いて、どのような活動をしたいのかだね」


あ、いちおう仕事としての事情聴取なんだな。面白がってるだけかと思った。


「えっと……できれば元通りがベストなんですけど、無理そうなんで……せめて活動継続できるくらいに、仲直りできればと」

「へぇ……つまり、積極的につき合いたいとか関係を変えたいとは思っていないわけだね?」

「そう、ですね……」


自分の迂闊さを突きつけられたようで、なんかこう、怒られる予感がする。


「はぁ……君に少しでも真心があれば、表現の問題として擁護のしようもあったけど……」

「いや、あの、真心、っていうか、真白が大事で特別なのは間違いないんですけど、その、付き合うっていうのが……安易に言っちゃったなって……」


怒られるより呆れられる方が胸を抉られるな、これ。

でもほんと、ね、一瞬本能が口を動かしちゃっただけで、ちゃんと、真白のことは考えてたんだよ?って言っても、あんだけ怒らせてりゃ言ってもしょうがないか。


「そうだね。その颯真くんの思いを見込んで声を掛けたんだからね、僕は」


えっ?あのふざけて投稿した動画でそこまでわかる?流石に無いだろ。


「……そんなわけない、と思ってるね」

「い、いやいや」


なんだなんだ?急に社長が恐ろしく……いや前から恐ろしかったけど、別方向で怖くなってきたぞ。なんなの、何がわかるんだよ?


「君たちのダンスは真白くんの負けず嫌いと君の気遣いで成立している。同じ振りを男女で一緒にやったら、手足が長くて筋力と瞬発力のある男の方が見栄えがする。しなやかさや華やかさ、色気といった要素ではその限りではないが、君たちのダンスはそういうモノを重視していないからね。

けれどけして真白くんが見劣りしないのは何故か?彼女自身がそれを理解して、身体や動きを大きく見せることを意識しているのと……颯真くん、君が……おそらく無意識に、手足の動きを制限して、真白くんに合わせているからだ」


あの動画を撮ったとき、そう、アイドルになる前。

一人のときよりも、真白と一緒に踊っているときのほうが動きが控え目になっていると、ダンスの先生に指摘された。もう少し自分を出せと言われてやり直したけど、動画で確認すると違和感があって、結局そのままだった。

真白はそれについて何も言わなかった。ただ黙々と、自分の動きを確認して、練習して……


「ステップの幅や画角を考えればそれは必要なことで、必ずしも手を抜いたとか悪く捉える必要はない。ただ無意識にそれをしたということは、自分だけが目立とうとか、力の差を見せつけようとか、そういうものよりも調和を大事にしたということだ。真白くんが見劣りしないようにね」


声が出ない。真白とはいつも張り合ってきて、何かと勝負してきたから、真白に気を使ってるなんて思いもしなかった。でも社長の言葉でわかった。俺は一人でよりも二人で評価されたかったし、真白が霞むような動画を人目にさらしたくなかったんだ。


それは、多分今も続いている。

ああ、動画撮影のとき、真白に「もっと真剣にやれ」って怒られて、喧嘩になったこともあったな。真剣なのにって思ったけど、全力ではなかったのかもしれない。


「……真白くんを大事に思っているのは、間違いなく君の本心だと思うよ」


思っていたのと違う方向で認められて、なんだかむずむずする。


「まぁ、だからこそ失言の酷さに頭を抱えたけれどね」

「すいませんほんと。……でもあの……大事、だし、一応俺にとっては特別な相手……なんで、そこから恋人ってなると、もう、これ以上何があるのかなって……」


はっ。素直に話してしまった。この流れで社長にこれを言ったらガンガン背中押されるんじゃないか!?


「なるほど?すでに肉体関係のない恋人のようなもの、ということかな?」


あっ、えっ、そう言われるとなんか、ちょっと、否定したい……けど、そういうこと……?


「いや失敬。これは少し飛躍し過ぎたね。特に君の年頃では、プラトニックな恋愛を論ずるのは難しいか」


エロなしは考えられないだろって言われてるようで微妙な気分だけど、現状そのとおりなので何も言えない。


「そうだね……例えば、真白くんに独占欲を感じるかな?あの子に恋人ができて、その相手と睦まじくしているのを目にしたとして……どう思う?」


少し前の俺なら、良かったなと思えたんだろう。真白のことをちゃんと見てくれて、大事にしてくれるやつがいるなら、それは嬉しいことだって、そう思えたはずだ。

でも今は、そんな顔も知らない誰かに真白を任せるなんて嫌だと思う。俺より真白のこと大事にできるやつなんていないと断言できるし……あの、照れた真白の目の前にいるのが知らない男だと思ったら、胸の奥がちりと焦げ付いた。


「……嫌です」


言葉になったのはそれだけだった。

それが答えだった。


「大事にしたい相手を他の誰にも渡したくない。それこそ独占欲……恋の一欠片は、もう君の中にあるんだよ」

社長は歌劇好きで金持ちの年齢不詳な男性です。本業は別にあって、芸能事務所は趣味でやってます。つまり事務所の実質的な社長は黒沢さんです。オーバーワークで倒れそう。

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