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36.仲直りへの迷宮

「セフ……いや、そんなつもりは」

「つもりがあろうがなかろうがそういうことだよ!俺に!セックスできる都合のいい友達になれって言ったんだよ!お前は!」


愕然とした。ぶつけられる怒りは強くて、悲しみも含んでいて。

俺は付き合おうって言ったけど、中身はそういうことだと、真白には思われてしまった。


いや、たしかにそう、かもしれない。付き合うってなんだろうって、そこで思いついたのはソレだけで、俺は、真白を好きとか大事にしようとか、そういうの、忘れてた気がする。今まで通りの距離感で、友達として馬鹿やって、でも身体だけは女として求めるって。それって……ものすごく、俺にとって都合のいい話で、真白にとっては……。


「わかったら帰れ。次はよく考えてから口に出せ」

「……わかった」




真白の顔は見れないまま、帰宅した俺はベッドに倒れ込んだ。お袋がなんか言ってたけど、どう返事したかも覚えていない。

そして、自分のしたことが最低すぎて、誰にも話せない。

自分で考えて、自分で動いて、真白に許してもらわなきゃいけない。

次は、って言ってたから、そのうち話は聞いてもらえると思う。でも、その先にどうしたいのか、まだわからない。


親友に戻りたい。前みたいに、難しいことなんて考えないで笑っていたい。

でもだめだ。それは俺が壊してしまった。一度口に出した言葉を、完全になかったことにはできない。

いくら頭で考えても、妄想が止められないことも身にしみている。


じゃあ真白と恋人になりたいかっていうと……よく、わからない。

だって今までが最高に心地良くて、それ以上って考えられないんだよな……本当に、その、身体の関係くらいしか。


俺の乏しい経験値というか知識で言うと、恋人同士って手を繋いで買い物したり飯食ったり、一緒に帰ったり、夜はビデオ通話したり、お互いの家に泊まったり、キスしたりハグしたり、その先も……ってことになるんだけど。

……ん?

…………身体的な接触を除くと、もうやってるな?

というか当たり前になってるな?


…………ますますわかんなくなってきたぞ。


何をしたら恋人で、どうしたら相手を尊重して付き合うってことになるんだ?

好きって気持ちが大事なんだよな、そこはわかる。

でももう、好きは好きなんだよな……異性としての好きって、何が違うんだ?性欲以外で、何がある?

特別なたった一人、って感覚は、正直、今も持ってる。

真白の換えなんていないし、他の友達とは別格だし、傷付けられたら頭に来るし、大事にしたいとも思う。


………………なんか迷宮入りしてきたぞ………………


でも、多分恋じゃない……とは、思う。ドキドキはしないし、ときめき?とか、そういう感覚、真白に対して持ったことはない。……昨日の、あのうろたえた姿と、嫌じゃないって言ったときは、ちょっと、なんかそれっぽい……感じも、したけど。……んん?あれが?ときめき?なんか違うような、合ってるような……。


だめだ。俺の頭では整理しきれない。

かといって相談出来る相手も思い浮かばない。流石に親にこんな話できないし、真白を知ってる友達にも話しにくい。カナタさんとか絶対面白おかしく他の人に言いふらしそうだし、黒沢さん……は、真白に相談されてる気がする……え、こんなん知られちゃうの?俺の人生最大かもしれない失敗を?


あー……なんかもう……思いつかない……。


「兄さん。お母さんが風呂入れって」


ドアの外から聞こえる三男の声に、あー、と間の抜けた声で答える。


「……真白くん、どうしたの?」

「……」

「母さんが心配してた。兄さんに聞いてもちゃんと答えてくれないから、喧嘩したんじゃないかって」


……まあ、そうなるよな。母さんは結構まめに配信見てくれてるし、真白が体調不良となればそりゃ心配するだろう。

そこに来て俺がこの様子。なんかあったと思うだろうな。


「喧嘩……まぁ、そんなとこ……オレが怒らせちゃったから、まぁ……明日にでも、ちゃんと謝って仲直りする」


……できるかどうかは、わからないけど。


「……兄さん。入っていい?」

「ん?どーぞ?」


先に風呂に入ったらしい三男は、Tシャツに短パン姿だけれど、どこか賢そうに見える……というか、四兄弟で一番頭が良いのがこいつだ。

小さい頃は真白と一緒に遊んだりしたけど、野球をやっていない分関わりは薄い。末っ子のほうが真白には懐いているし、どちらかというと三男は一步引いて俺達を見守っている感じだ。

そんな三男でも、喧嘩となれば気になるんだろうか。

こっちが心配になるような、深刻な顔をしている。


「兄さん、大丈夫?」


予想外の問いかけに、ちょっとびっくりした。


「大丈夫って……いやまぁ、喧嘩したのは大丈夫じゃないけど、俺は別に」

「……俺、親友って言えるほど仲のいい友達がいなくて」


急にどうした。

いや、たしかにこいつ、友達がいないわけじゃないけど、そこまで親しい相手はいなかった気がする。深入りしないしさせない。ちょっと真白に似てるとこもある。


「だから、兄さんと真白くんのこと、すごくいいなって思って。だから……ちゃんと、仲直りしてね」

「……まぁ、そのつもりだけど」


弟の期待まで背負ってしまった。ちょっと重い。というか最初から重い。

そんな気分まで伝わってしまったのか、三男はすぐには出ていかなかった。


「……ほんと、ちゃんとしてね。真白くんと離れ離れになるとか、兄さんだって耐えられないでしょ」


離れ離れ、なんて、考えたこともなかった。

まだ真白は対話をしてくれる気があると知っているから、俺はそこまで考えていなかったけど、はたから見れば急に配信を休んだ真白の怒りはそのくらい強いと思われているんだな。

……いや、それも間違ってはいない。ここで俺がまた大きな間違いをやらかしたら、そうなる可能性だってある。

そう思ったら、うだうだしている時間がもったいなく思えた。なにか行動しないと。そう決意して、眼の前の弟には強がってみせた。


「そこまで深刻じゃないから大丈夫だって。ほら、俺も風呂入るから」


まだ不安げな三男を部屋から出して、お袋にこれ以上心配かけないようさっさと風呂に入る。その間に、これからどう動いたら良いか考えた。

俺の頭だけじゃ行き詰まる。他の視点……そう、俺がどうしたいかを整理する前に、真白に許してもらわないと。

顔も見れなかった真白が、また笑ってくれるように。


もうかなり遅い時間になりつつあるけど、やっぱり人の手を借りないと進めない気がして、自室に戻った俺はスマホを手にした。

正直、黒沢さんには知られたくないけど、きっともう真白が頼っている。話している。だったら黒沢さんは、真白の気持ちも知ってるはずだ。全部は無理でも、少しは何か教えてくれるかもしれない。

俺達の仲違いを何とかしようとしてくれるはずの大人に助けを求めて――


「やぁ颯真くん、とうとうやったねぇ」

「え、社長?」


助けてくれなさそうな人に繋がってしまった。

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